第6回 母と娘が紡ぐ、萌える味噌との出合い?(石孫本店・秋田県 )
味噌蔵めぐりを始める前は、蔵と聞くと、真っすぐでこだわりが強い“おやじさん”がいるイメージだったのですが、そんなことはないと知ったのが石孫本店にうかがったときのこと。青空の広がる7月、セミの鳴く声が聞こえる時期でした。
石川裕子さんを囲んで娘の果奈さん(左)と
筆者
看板からも歴史が感じられる石孫本店
出迎えてくれたのは、代表の石川裕子さん。女性が代表を務める味噌蔵は、このときが初めてでした。笑顔がすてきな石川さん。ゆっくりと柔らかい口調で蔵の中を案内してくれました。
安政2年(1855年)創業の石孫本店は初代の石川孫左ェ門が醤油造りから始め、2代目が味噌造りを確立した老舗の蔵です。代表的な濃口醤油「百寿」は私が愛用する醤油のひとつ。明治・大正時代に建てられた5つの土蔵は県の有形登録文化財になっています。現在も機械らしい機械はなく、昔ながらの設備で製造を続けているのが特徴です。
商品はすべて無添加の天然醸造。蔵の中には、大豆を蒸し煮する鋳物の釜や米麹全量を賄う大量の麹蓋、100年以上使い続けている木桶が並んでいます。
この蔵で初めて見たのが「腰掛け」といって、味噌を掘った後、運搬するための容器を一度置いておく椅子のような形状のもの。高さ1.5m程度の味噌用の木桶にちょこんと引っかけてありました。酒は木桶の下部に口が付いていて液体を出すことができますが、味噌は木桶の中に入ったり出たりの作業を繰り返して掘り出す必要があります。腰掛けはそれを手助けするためのものなのでしょう。
「昔の人は木で何でも作ったのだなぁ」としみじみ。腰掛けがかかっていると、なんだか木桶がとてもかわいく見えてきます。
蔵の中にある大きな鋳物の釜
米麹を造る昔ながらの麹蓋
木桶にかけてある腰掛け
蔵の見学を終えると、娘の果奈さんが味噌商品全8種類を並べ、試食をさせてくれました。
石孫本店の「萌える味噌」たち
甘みをしっかり感じられる「五号蔵」、塩分控えめで玄米のプチプチ食感を感じる「金の蔵」、3年以上寝かせ黒色をした「黒味噌」はコクがありつつ麹歩合20割の柔らかな食感でとてもおいしかったなぁ……。
パッと見では似ているのだけど、それぞれをじっくり見ていくとちゃんと個性がある。それはまるでアイドルグループのようで、そんなイメージと甘味を感じる石孫さんの味噌たちを、私は「萌える味噌」と呼んでいます。(つづく)
◆◆石孫本店◆◆
〒012-0801 秋田県湯沢市岩崎字岩崎162
TEL:0183-73-2901
https://ishimago.jp/ 安政2(1855)年創業。明治から大正にかけて建てられた5つの蔵は登録有形文化財。仕込み作業のほぼすべてが手作業で、手造り天然醸造の味噌と醤油を製造販売している。
(写真提供:岩木みさき)
★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】
http://misotan.jp