第4回 “若”の志を応援したい豆味噌の蔵㊤(南蔵商店・愛知県)
麹の種類が変わると味噌の種類が変わることを知り、本格的な味噌蔵めぐりを始めるにあたって、まずは味噌の種類ごとに蔵の見学をしてみたいと考えました。それまで何軒か訪ねたのは、米味噌の蔵ばかり。そこで、豆味噌の蔵を訪ねることにしたのです。
豆味噌の原料は、大豆と塩、それに水だけ。大豆自体に麹菌をつけた豆麹を使って仕込むのが特徴で、米味噌や麦味噌の醸造期間が1年未満~1年ほどなのに対して、1〜3年と長い熟成期間を経て完成します。長い時間をかけて仕込まれることで、色は濃く赤みがかった黒色に。その色合いから赤味噌とも呼ばれ、甘みが少なくコクと深みのある味わい。愛知県、三重県、岐阜県の東海3県で造られています。
南蔵商店の建物が並ぶ小路
左から青木弥右ヱ門さんご夫妻と、“若”こと良之さん
豆味噌を造る蔵で最初に訪れたのが、愛知県にある創業明治5年(1872年)の南蔵商店です。
食に詳しい知人から、「南蔵商店の豆味噌はおいしいし、蔵が立派」と聞き、いつものようにすぐにアポ取り。直感でフットワーク軽く動くのが得意な半面、実は道を覚えたり地図を見るのはとても苦手な私は、この旅の途中も名古屋駅の乗り換えで数十分も迷子になり、電車に乗り遅れるハプニングを経験。次の電車を待っていたら約束の時間に間に合わないと、タクシー乗り場に走りこんだのです。
名古屋駅から知多武豊まで電車で約1時間かかり、それなりの距離がありますが、今にして思うと初めて会う相手なので時間どおりに到着したいという気持ちに勝るものはなかったのだと思います。
車中で運転手さんに「知多武豊まで行かれるのですかー!」と驚かれつつ、木桶仕込みの味噌の魅力について熱く語っているうちに、黒壁の建物が並ぶ小路に「南蔵商店」と書かれた看板が見えてきました。
運転手さんのおかげで、無事に約束の時間前に到着。タクシーを降りると、味噌や醤油の香りがふんわり漂ってきます。
初めての景色にいろいろなドキドキが重なり、緊張感マックスの状態で受付のある入り口に到着。「わざわざお越しいただいてありがとうございます」と、優しい口調で奥さまの裕子さんが出迎えてくれ、そこへ5代目の青木弥右ヱ門さんと“若”(蔵の跡継ぎを、私は“若”と呼んでいます)の良之さんがいらっしゃいました。
南蔵商店の当主は代々、青木弥右ヱ門を襲名する
南蔵商店は豆味噌と溜まり醤油を製造。大きな木桶が全部で85本ずらりと並んでいるのが印象的で、その光景にまず感動します。豆味噌の木桶はそのうちの25本です。
豆味噌には、蒸し大豆に豆麹と塩を加えて造る方法と、大豆すべてを豆麹にして塩のみを加える方法とがあり、後者は愛知県内でも南蔵商店がある武豊町と岡崎市で受け継がれている伝統製法で、全麹仕込みと呼ばれます。南蔵商店の豆味噌は全麹仕込みで、大豆の浸漬と蒸しの状態で味噌全体の水分量が決まるため、この麹造りが3年後の完成の要となるのだと説明していただきました。
「品質管理を徹底し、いくらデータをとっても二度と同じ製品はできないと感じるから、豆味噌造りは一期一会の世界だと思っています」と、5代目の弥右ヱ門さんが話してくれました。蔵を継ぐと弥右ヱ門さんを代々襲名するのも、南蔵商店の特徴のひとつです。
蔵の見学をしていると、ほかの蔵では見たことのない大きな石が積まれていることに気がつきました。この石を使うのも豆味噌の特徴であり、重しをのせることで少ない水分を全体に均一に行き渡らせるようにしているのです。
木桶には大きな石が積まれている
じんわりと染み出ている味噌たまり
ひとつの桶の中には6トンの豆味噌が仕込まれていて、先代から使われているという1個5~6キログラムの川の天然石が、約1.5トン載っています。はしごを登らせてもらい表面を見てみると、うま味が凝縮された液体「味噌たまり」がじわりと染み出していて、味見すると数滴なのに口いっぱいにうま味と風味が広がりました。
「めちゃくちゃ、おいしい……! 豆味噌はうま味のかたまりだ!」
私の中で味噌への興味がますます沸いてきた瞬間でした。(つづく)
◆◆南蔵商店◆◆
〒470-2544 愛知県知多郡武豊町里中58番地
TEL:0569-73-0046
https://minamigura.com 明治5(1872)年創業。原料の大豆をすべて麹にして造る伝統的な全麹仕込みで3年かけて味噌を造る。ほかに溜醤油も製造・販売している。
(写真提供:岩木みさき)
★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】
http://misotan.jp