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美しいくらし
フランスの小さな村を旅する 写真と文
木蓮
第7回 シスレーの魔法の絵の具【モレ・シュル・ロワン】


 フランスを旅していると、画家たちは「魔法の絵の具」を心に忍ばせ絵を生み出していると感じることがあります。そんな夢物語を思い描いたのは、パリ滞在中に、ショートトリップの地として人気のフォンテーヌブローから約13キロメートルの距離にあるモレ・シュル・ロワンを訪れたからにほかなりません。雨の降り続く中、車を走らせていると、道の周りに多くの車が停まっていました。この辺りは狩猟も盛んなのでハンターかと思いきや、みんな大きな籠を抱えキノコ採り。同じイル・ド・フランスでも、パリからほんの少し離れるだけで驚くほど田舎景色になったことを肌で感じます。

 村にたどり着くと、まず目に入ったのがサモワ門……ではなく、サモワ門に飾られたシスレーの絵。そう、ここは生きている間に世間から評価されることがなかった唯一の印象派画家といわれるアルフレッド・シスレーによって魔法がかけられた村なのです。フランスには多くの芸術家たちによって愛された村がありますが、ここまで相思相愛であることも珍しく、村の至るところに彼の面影を見ることができます。

 裕福な家に生まれ、商業を勉強するためにロンドンへ渡るも絵画に魅せられ、パリに戻りエコール・デ・ボザールに入学することに。しかし、父親の事業が倒産してパリから離れざるを得なくなり、終の棲家となったのが、代表作の一つ『モレの教会』のモデルとなったモレ・シュル・ロワンにあるノートルダム教会そばの家です。散歩中に雨が上がり、ゆっくりとこの教会を眺めていると少しかすみがかかっていて、光と色彩に満ちたシスレーの幻想的な色合いを思い起こしました。

 サモワ門から真っすぐ伸びた道の先にあるのがブルゴーニュ門。ロワン川を渡る重要な生活道路のため、車の往来が多いことにびっくりしましたが、門を出ると待ちに待ったロワン川と岸辺の景色が出迎えてくれました。シスレーが何度も描いた「モレの橋」からは、鴨や白鳥に餌をやっている人々の姿が見えます。それはまるで彼が描いた光景のようで、絵画の世界がいまだここにあることを実感しました。雨上がりの緑煙る木立の中で深呼吸。川沿いを歩くと運河に突き当たります。この運河はやがてシスレーが描いたサン・マメスの町に出て、パリに続くセーヌ川へと合流するのです。


 ロワン川のほとりの美しい村モレ・シュル・ロワン。親友ピエール・オーギュスト・ルノワールが描いたシスレーと妻ウジェニーの肖像画を眺めてみると、妻を見つめる彼の柔らかな表情が印象的です。極貧の中で生涯夫を支え続けたウジェニーが癌で亡くなると、その後を追うように彼もこの村で息を引き取りました。

シスレーとウジェニーの墓


 魔法の絵の具で描き続けられたこの村は、シスレーの名のもとにこれからも輝き続けることでしょう。彼の優しいまなざしとともに……。(つづく)


★ParisからMoret-sur-Loingへの行き方
PARIS Gare de Lyon駅から地域圏急行TERもしくはTransilien・R線でMoret-Veneux-les-Sablons駅まで約50分。そこから徒歩にて中心部まで約20分。


★木蓮さんのブログ【フランス小さな村を旅してみよう!】
http://ameblo.jp/petit-village-france/

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【もくれん】
フランスの「おへそ」にあたるオーヴェルニュ地方の人口200人に満たない小さな村に在住する日本人女性。フランス人の夫との結婚を機に渡仏。いきなり2人のフランス人娘の母親になり悪戦苦闘だったが、生来の自由気ままな性格と、さまざまな地域に接しているオーヴェルニュの地の利を生かし、名もなき小さな村を訪ねる旅にどっぷりはまる。「パリだけではないフランスの美しさを伝えたい」と、「フランスの小さな村宣伝大使」を自負し、訪ねた村々をブログで紹介している。花にあふれる美しい村の魅力を伝えるブログは、日本でも多くのファンがいる。
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