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美しいくらし
自由な旅のレシピ 「旅の食堂ととら亭」店主
久保えーじ
第5回 出たところ勝負で進む旅
お待たせいたしました。第4回までは、「自由な旅」の準備について書いてきましたので、今回からいよいよ実践編です!と、始めたいところですが、その前に「自由な旅」に付きものの「決めごとと不安の関係」について触れておきましょう。
パックツアーならばホテルはすべて予約してあります。しかし、僕らがフリーで旅をする場合、基本的には初日以降の宿は決めずに行きます。

エチオピアのアディスアベバから南アフリカのケープタウンへ向かう機内のフライトマップ

ここで気になるのが、「それでは不安じゃないですか?」という質問です。そう問われるたびに、僕はいつも自由の意味を考えざるを得ないのですよ。なぜならば「自由な旅」とは、言い換えると「決めごとの少ない旅」。「決めごと」とはすなわち一種の拘束にほかならず、自由と真逆のことではありませんか? 決めごとの少ない旅がもし不安であるならば、自由とはまさしく不安と同義語であり、この連載も「不安な旅のレシピ」になってしまいます。しかし、右も左もわからない状態でいきなり放り出されたら、心細くなるのも無理はありません。
そこで最初におすすめしたい「自由な旅」の第一歩が、「スケルトンツアー」なるもの。ツアーというからにはパックツアーの一種なのですが、パックされているのは基本的に航空券とホテル、それから空港、ホテル間の送迎だけ。その後をどう過ごすかは、まさに旅人の自由です。

ギリシャのアテネ国際空港で降機。歩いてターミナルへ


それでは、飛行機を降りて、本番に入りましょう。
添乗員さんはいないので、ここからは自分ですべてをやらねばなりません。ターミナルに着いたらまず、「Made in Japanの常識」を忘れてください。
「出たところ勝負で進む旅」に必要なのは、細かい旅のノウハウではなく、たった2つの考え方。それは「目的を忘れず、手段は柔軟に」、そして「一度に1つずつ」です。
これを最初のハードルとなるイミグレーション(入国審査)で実習してみましょう。「審査を通過すること」に的を絞り、その他は頭の中から追い出します。余計なことに気を取られると注意力が散漫になり、思わぬミスを犯しますからね。

ここでのタスクを整理してみますと、流れはざっとこんな感じです。
1.イミグレーションまで行く
2.自分が該当するブースに並ぶ
3.パスポート、入出国カード、ビザなど、必要なドキュメントを提出する
4.写真撮影、指紋のスキャンを求められたら応じる
5.質問に答える
6.入国スタンプを押してもらう

え、これだけでは分からない? もっと具体的な情報が欲しい? そこです! 思い出してください。「目的を忘れず、手段は柔軟に」ですよ。旅の状況は千差万別のうえに、同じ場所でも変化し続けています。ですから、「具体的な情報」などというのは、実際のところ存在しないと考えたほうが無難です。

たとえば先日、中東のクウェートを訪れたときのこと。ここは日本人もビザが必要でしたので、アライバルビザ(入国時に取得できるビザ)を取ろうとイミグレーションブースまで行くと、4カ月前の情報にあったビザカウンターはもぬけの殻。そこで通りかかった空港職員に聞けば、アライバルゾーンに入ってすぐ左側にビザを申請する場所があるそうな。この程度の「あれ?」「おや?」は普通に起こります。

なので、イミグレーションまで行く場合は、以下の方法を状況に応じて柔軟に使い分けましょう。
A.「Arrival」「Passport Control」「Immigration」等のサインを追って進む
B.空港職員に聞く
C.入国する乗客を探し、一緒について行く

場合によってはこれらを組み合わせつつ、コマを進めて行くのです。むやみに人の流れに乗ってはいけません。ドバイやドーハなど、中東のハブ空港では入国者より乗り継ぎの人が多く、気がつけば再び保安検査に並んでいた!などということになりかねませんからね。

次に並ぶべきブースですが、これも表現は統一されておらず、場所によって「Citizen or Other」や「Resident or Foreigner」などさまざま。ここでも分からなければ、空港職員に聞くなりして柔軟にクリアしましょう。英語が話せない? 大丈夫、「TOEICの点数が中級以上でなければ個人旅行をしてはいけない」などという国際ルールはありません。もちろん英語が話せるに越したことはありませんが、実戦の現場で求められるのは英会話力よりむしろ柔軟な発想です。要は並ぶべきブースが分かればいいのですから。
A.空港職員に英語で尋ねる
これが無理であれば、次のような、今の自分にできる手段を素早く思い浮かべ、その中からベストな方法でトライします。
B.空港職員に「ハロー」と声をかけ、パスポートの表紙を見せて、ブースを指さす
C.日本人を探してついて行く
D.周囲を見回し、当該国以外のパスポートを持っている人の後に続く

入国審査官を前にしたタスクも、この調子で臨機応変かつ柔軟に対応すれば、別室に連れて行かれたり、入国を拒否されるようなことはまずないでしょう。
そうそう、ここでのポイントは現地語でのあいさつとスマイル。「私は無害で友好的な外国人です」という印象を与えるのが肝要です。

トルコのカイセリ空港で荷物を待つ

レートを確認して現地通貨に両替を

さて、首尾よくイミグレーションを通過し、バゲッジクレームで荷物を受け取って税関を抜けたら、いよいよ到着フロア。ここはもうセキュリティーゾーンではなく、一般の人々が入れるエリアなので、持ち物から決して目を離さず、注意を引こうと話しかけてくる相手には十分用心してください。

ここで緊張してくるにもかかわらず、やらねばならないのが現地通貨の調達。これも国によって状況が異なりますので、以下の方法からその場でのベストを選択します。
A.日本円を現地通貨に両替する
B.米ドルを現地通貨に両替する
C.国際キャッシュカードでATMから現地通貨を引き出す

ちなみにATMはなるべく空港や銀行の中に設置されたものを利用しましょう。ビルの壁面など、路面の機械はカードがのみ込まれた場合、管理者を呼ぶのが困難ですし、スキミング装置が仕掛けてあったり、最悪、強盗に遭遇する可能性もあります。また、トラブルを想定して、飛行機や電車に乗る直前など、すぐに移動しなければならないときも避けてください。対応する時間がありませんからね。

さぁ、軍資金はゲットできましたか? パスポートやクレジットカード、財布はきちんとしまいましたか? では最後の移動ですが、スケルトンツアーであれば迎えが来ているので心配はありません。あなたの名前を書いたプレートを持つドライバーと合流し、ホテルでチェックインを済ませたら任務完了です。

オランダ・アムステルダムのスキポール空港

緑と曲線で構成されたサウジアラビア・ジッダのキング・アブドゥルアズィーズ国際空港


いかがでしょう? 空港に到着したところからホテルのチェックインまでの流れを例に、「目的を忘れず、手段は柔軟に」、そして「一度に1つずつ」という考え方を実習してみました。これらは「出たところ勝負で進む旅」のどんな場面でも適用できます。

実際、僕は今回の例に限らず「移動する」「ホテルを探す」「問題解決にあたる」といった場面で最初にとる手段を「プランA」と呼び、いつもその手段を使っています。もし「プランA」を試してダメなら、次策の「プランB」に切り替える。それもうまくいかなければ「プランC」という具合に、手段にこだわりはありません。大切なのはあくまでも目的ですからね。実はこれ、ととら亭のような不確定要素の多いビジネスにも不可欠の考え方でして、日常的にも十分使えるのですよ。お試しあれ!(つづく)

▶次回のレシピ▶▶▶

トルコのイスタンブール国際空港を出て

思い出に残る旅に欠かせないのは、人との出会い。ある意味、旅の密度とは、訪れた場所の数よりむしろ、どれだけ人に接したかで決まると言ってもいいでしょう。
次回は「言葉の壁を乗り越えて」と題し、「正しい英語」にこだわらない、実践的な意思疎通方法をお話します。学校のテストのように間違いを気にする真面目な方は、ぜひご一読を!

(写真提供:久保えーじ)

【「旅の食堂ととら亭」ホームページ】http://www.totora.jp/
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*ととら亭の連載
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〈柴又で始まる「ととら亭」の第2章〉はコチラ⇒
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【くぼ・えーじ】
1963年神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャー、商業施設の運営会社を経て2010年、妻で旅の相棒であり料理人でもある智子とともに、現地で食べた感動の味を再現した“旅のメニュー”を提供する「旅の食堂ととら亭」を開業。同店の代表取締まられ役兼ホール兼皿洗い。これまで出かけた国は70以上、旅先で出会った料理の再現レシピは140以上にもなる。2010年に東京・中野区野方に「旅の食堂ととら亭」を開店。2022年7月に葛飾区柴又に移転、新店舗をオープンさせる。
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