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美しいくらし
ひとり出版者の仕事 暮ラシカルデザイン編集室
沼尻亙司
第3回 四方良しの商いを目指して「カフェ編」

海辺の森に抱かれた「cafeGROVE」


 今回は、暮ラシカルデザイン編集室の「販売」のあり方についてお伝えしたい。
 自費出版で一番最初に出した『房総カフェ 扉のむこうの自由を求めて』は、掲載店一店一店にお届けし、カフェで本が売られることとなったのだが、事情が事情だっただけに(詳細は連載第2回を参照)、「救済」や「情け」の気持ちで本を取り扱ってくれた要素が多分にあったと思う。

木の葉を使った手作りのPOPに「GROVE」店主の温かさを感じる

 だが、本を携えてお店を回っているうちに、これは「継続性ある仕事」として成り立つと直感した。それは、「救済」「情け」分を差し引いて考えても、予想以上に本が売れたからである。連載第1回のスペック表に記載した通り、この第一弾のカフェ本は2回増刷し完売するに至っている。「本が予想以上に売れた」という現象を詳しく分析すると、その要素の大部分を占めたのが、「本に掲載させていただいたカフェからの追加注文が相次いだ」という出来事だった。なぜ、このような展開になったのか。それは、書店とは違う「熱量の質」と「熱量の届け方」が、現場にあったからだ。

 そのもっともわかりやすい例が、第一弾のカフェ本と『房総コーヒー』に掲載させていただいた富津市にあるカフェ「cafeGROVE」だ。GROVEは海辺にありながら清々しい森に包まれた、自然の気配が濃厚な空間で、コーヒーや季節のマフィンがおいしい。上の写真を見ていただきたい。
 森の木の葉を使って、POPを作ってくれたのである。本の販売スペースと森のカフェの雰囲気が一体化したよう。非常に嬉しくもありがたい、店主・濱本さんの心意気であった。今ではこの売り場は進化し、レジ脇の必ず目にする場所に専用の書棚まで作っていただいている。

 さて、ここで書店のスタンダードな風景を思い浮かべてほしい。一番目立つところに専用の売り場を設けてまで販売するような本といえば、相応のネームバリュー、話題性のある本や雑誌である。だが、カフェだとそんな「特等席」に本を置いていただけるのである。書店だとあまたある本の1冊にしか過ぎなかったものが、カフェだとそのインパクトが格段に大きくなる。しかも(当たり前だけれども)カフェ好きがカフェに足を運ぶので、そこにカフェ本があるのはまったくもって自然な流れといえる。本に込められた「熱量の届け方」に「制約」や「違和感」がない。「ストレート」なのである。
 余談だが、GROVEでは第一弾のカフェ本は200冊以上売れ、他のバックナンバーも含めると累計販売数は約300冊に及ぶ。

店主が1杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れる「福笑屋」

 届け方だけじゃない。
 本のことをお客さんに伝える「熱量の質」も、特に掲載店に関しては書店とは決定的に違う。なぜならば、カフェの人たちは取材の一部始終を見てくれている「当事者」でもあるからだ。だからだろうか、カフェの皆さんと本との関わり方を観察していると「商材」という感じがしない。

 こちらは『房総コーヒー』の取材にご協力いただいた、移動販売コーヒー店の「福笑屋(ふくみや)」。店主の宮嶋さんに「本を実家にも届けます!」と言われたのがほんとうに嬉しかった。本は大切な記念品にもなるし、贈り物にもなる。商材にとどまらない本の可能性というものを噛みしめる出来事だった。ちなみに、『房総のパン 南房総という生き方』は、取材を重ねていくうちに結果として多くの移住者をフォーカスすることになった本なのだが、「房総へ移住を考えている友人に贈りたい」と購入される方が案外多く、これも嬉しい反響だった。

銚子市の手前、匝瑳市にある「たけおごはん」。地元野菜を使ったランチを古民家空間で味わえる

千葉市にある農場カフェ「タンジョウファームキッチン」では、こんな素敵に本をディスプレイしていただいた

 また、さらに面白いのが、カフェは読者の方と直接関われる場になることもあるということ。つい先日も古民家の食事処「たけおごはん」でランチをしたのだが、相席になったおばちゃんが、ロールケーキを頬張りながら『房総コーヒー』を読んでいるではないか。自然と「成田のあそこのカフェも食事がおいしいですよねー」と会話が盛り上がり、実に楽しい時間を過ごさせていただいた。
 このようなケースは実は結構あって、カフェの店主のみなさんが拙著を読んでいるお客さんに「あそこの方、この本の著者なんですよ」と、いい感じに「振って」くれることが多いからだ。その場で「にわかサイン会」になることもある。ありがたい限りだ。

 こうして、カフェ(コーヒー店や飲食店も)を通じて様々な人たちと関わる中で、読者、本の掲載店、販売店、そして私自身という四者の「四方良し」の関係性が築かれてこそ、本に込めた熱量がよりストレートに届く、そして本を手にとってくださる人の心に響いてくるのではないかと考え始めるようになったのである。

 さて、書店と対比してカフェのいいことばかり書いてきたけれども、じゃあ書店はダメなのかというと、もちろんそんなことはない。書店には非常にお世話になっているので、その辺はまた次回に。(つづく)

沼尻亙司さんの公式サイト「暮ラシカルデザイン編集室」
https://classicaldesign.jimdo.com/
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【ぬまじり・こうじ】
1981年千葉県生まれ。千葉県全域のタウン情報誌『月刊ぐるっと千葉』編集室に在籍した後、2014年に千葉・勝浦の古民家を拠点にした「暮ラシカルデザイン編集室」を開設。「房総の名刺のような存在感としての本」を目指して、取材・制作・編集などの本づくりから営業までを行う。これまでに、人・地域にフォーカスした『房総カフェ』『房総のパン』『房総コーヒー』『房総落花生』『BOSO DAILY TOURISM 房総日常観光』などのリトルプレスを発行。
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