第11回 リヤカー屋台~商いという風景をつくる(上)
昨年の9月からイベント出店を増やし始めた。
マルシェやマーケットでは、テントやキッチンカーで出店するケースが多いと思うが、それらではなく「リヤカー屋台」での出店である。

編集室の「リヤカー屋台」による出店風景
昨年発行した『房総のパン?』の取材で伺った、千葉市にあるベーグルカフェ「1room」。店主の伊藤さん自らが古民家をリノベーションした空間はスタイリッシュで素敵なのだが、伊藤さんはそれにとどまらず、依頼を受けてはさまざまな棚や空間づくりを手がけていた。
中でもリヤカー屋台製作の名手で、自身の屋台のほか、千葉市にあるコーヒー店「豆nakano」や、バゲットサンドの「シャポードパイユ」のリヤカー屋台を作り上げていた。そんな様子を見ていて、編集室の屋台も欲しい! と思い、製作を依頼。8月下旬に完成したのだった。

「1room」(左)と「豆nakano」(右)が並んで出店

奥から「1room」「シャポードパイユ」そして 編集室と、リヤカー屋台の共演
では、リヤカー屋台が既存の出店用テントと何が違うのかをご紹介してみたい。
1)可動性 最大の違いは「リヤカー」の名の通り、動かせることである。
イベント出店の際ネックとなるのが、駐車場や搬出場所から出店場所までの移動。出店場所の目の前まで車を入れられるケースもあるが、そうでない場合も多い。ところが、リヤカー屋台はボディの下部に4つの小径タイヤが付いているので、駐車場から離れていても移動がラクラク。これは本当にありがたい機能だ。
2)収納性 このリヤカー屋台は、幅・高さともに約2m、奥行きは1.4mある。これがなんと、簡単に車に収まるのである。
私の車は今、軽自動車の「ライフ」だが、この後部座席とトランク部分の左片側だけのスペースに、屋台と商品などをほぼすべて収納することができる。実は、伊藤さんのこのリヤカー屋台、バラせるのだ。屋根の帆布、鉄骨の支柱、リヤカーの持ち手のほか、タイヤの付いている台座も二分割できる。さらに、売り場の土台となるボディは4つの引き出しとなっているから、ここに本や備品を収納できる。コンパクトさを追求した収納機能には脱帽だった。

車にぴったり収まる絶妙なサイズ感
3)構築性 では、屋台の組み立てやすさはどうか。
出店用テントの使用経験がある方はわかると思うが、蛇腹状の骨組みをセットアップしたり収納したりするのは、2人以上いないとなかなか厳しい。が、リヤカー屋台はパーツを差し込んでいけば組み立てられる構造になっており、1人でもカンタン。慣れれば5分ほどで屋台を立てられてしまう。加えてボディの重みがあるため、風対策の杭打ちも不要。万一強風が吹くようなら、屋根の帆布部分のみを取り外すという対応も可能だ。
4)展開性 機能的な収納性は、機能的な展開性とは表裏一体だ。
ボディにすっぽり収まっている4つの箱は組み合わせて本や商品を入れて、売り場の一部として活用できる。屋台の周囲にアクセントとして書棚を展開したりと応用がきく。さらにこの箱は頑丈な木板で作られているので椅子としても使える。
また、屋台には一枚天板が付属されており、ボディの側面に装着して売り場を広げることができる。古い日本家屋にある蔀(しとみ)戸にイメージが近い。
そして、売り場となるボディ上面には溝があり、ここに本を立てて面陳できるという、痒いところに手が届く仕組みになっている。
5)景観性 そして「見た目」である。
ここは結構重要なところで、出店の佇まいというのは「その場らしさの魅力」につながると思っている。
ホームセンターで売られている既製品や、学校の行事によく登場するテントが悪い訳じゃないけど、個性的な商いの姿が、それを包む画一的フレームで没個性化するのはすごくもったいない。商いの佇まいって、もっとわくわくするもんじゃないかな。そう思うのは、これまで100回以上「勝浦朝市」に足を運んでいたからだろう。
勝浦朝市は400年以上続く朝市で、おばあちゃんの出店が多いのだが、もちろん既製品のテントがずらっと並んでるなんてことはない。ゴザを敷いてカゴにや果物を並べたり、ビールケースの上にベニヤ板を乗っけて店舗にしたりと、素朴ながらおばあちゃんたちの表情や並べられた品々の表情がストリートの景観として視覚に迫ってくる。街やストリートの景観との連続性が分断されていない。そこにこそ、カメラを向けるほどの魅力がある。
ちなみに朝市終了後、荷物をコンパクトにまとめて台車で運ぶおばあちゃんたちをよく見かける。もしかしたら、これがリヤカー屋台の原点なのかもしれない。(「下」につづく)

リヤカー屋台出店時に見た勝浦朝市
沼尻亙司さんの公式サイト「暮ラシカルデザイン編集室」https://classicaldesign.jimdo.com/