将棋を通じて親が期待すること 将棋教室の体験会に参加してくださった保護者には毎回アンケートをお願いしています。「お子さんに将棋を通して育んでほしいものはなんですか?」の質問には、「考える力」がダントツでトップ。続いて「集中力」や「礼儀作法」の項目にもチェックが入り、学力や生活態度への好影響を期待されていることがわかります。
それから、「子どもが好きな将棋をいろいろな人と対局させてあげたい」という声もあります。最初は親子で一緒に覚えたけれど、「私がついていけなくなってしまって……」というお母さん。子どものほうがすぐに覚えて強くなる、のは将棋界ではアルアルの話です。「自分は相手をしてあげられないけれど、このまま子どもの『好き』という気持ちを伸ばしてあげたい」。そんな親心から通わせるケースも見られます。
そのほか多いのが、どこの家庭でも深刻なテレビゲームやスマホの問題です。特に男の子は本当にゲーム好きですよね。わが家の長男もルールがなければきっと何時間でも夢中でやってしまうのはなないかと心配します。「目にも悪いし、なんとかこの時間を少なくしたい」という親の悩みは切実。「どうせゲームをするなら、電子機器ではなくアナログなボードゲームで……」と、体験会に参加される方も多く、「将棋を習い事に」と考える親御さんの思いはさまざまです。

イラスト:高野優
3分間の集中! では、将棋教室に子どもを実際に通わせている保護者の方は、今どのような感想を持たれているのでしょう。
「好きな物事に対して時間を忘れるくらい没頭できるようなりました」。これは教室に通い始めて6カ月ほどの小学1年生Aくんのお母さんの声です。以前からAくんの、何でもすぐ飽きてしまう点が気になっていたようで、目に見える変化を実感していらっしゃいました。
将棋は次の一手を考えるために集中を繰り返すことから、集中力を育むゲームです。ある程度強くなってくると、「手を読む材料」が多くなるため、自然と長く集中できるようになるものですが、初心者はそうはいきません。一見考え込んでいるようでも、「手を読む材料」が乏しく、ただ悩んでいる(または困っている)だけで、集中しているとはいえません。ではどうやって集中へと導いていくのか? それは3分間の集中!です。例えば、詰将棋本を3分間計って「よーいどん!」と競争するとみんな必死でがんばります。集中力は長さより深さが大事。教室ではこうした練習を積み重ねていきます。
先日、中村太地王座が「いつつ」が主催する子ども将棋教室に来てくださいました。中村王座は早稲田大学の卒業生で、NHK番組のコメンテーターを務めるなど、将棋界だけにはとどまらず幅広く活躍されている方です。ある保護者から「太地先生は勉強もよくできたんですよね」と質問されると、「いやいやいや」と謙遜をしながらも、「将棋で集中力がつくので勉強にもそういう部分はいかせていたと思います」と答えてくれました。もちろん学力は勉強しないと身につくものではありませんが、「将棋の集中力は勉強に生かせる」ということは皆さんに伝わったのではないでしょうか? (第9回・下につづく)