おじいちゃんと孫が同じ土俵 私の会社いつつでは、将棋の入門セットの販売をしています。最近は、お孫さんへのプレゼントに購入するおじいちゃんおばあちゃんが多くいらっしゃるようです。年齢差や体力差を気にすることなく、幼い子どもから高齢者の方まで、三世代で遊べるゲームといえば、今や将棋くらい? おじいちゃんとお孫さんが「よーい、ドン!」のかけっこをして、いい勝負というわけにはいかないですものね。
これは子ども教室のお母さんから聞いた話ですが、せっかくおじいちゃんが訪ねてきても、祖父と孫に共通の話題はなかったけれど、「息子が将棋を覚えてから一緒に遊ぶようになり会話が増えた」そうです。将棋は頭脳勝負なので、ルールを知っている大人が子どもに手ほどきしてあげることも、ハンデをつけてあげることも可能。大がかりな準備も必要ありません。
顔と顔を突き合わせながら、家族みんなが同じ時間を楽しめる将棋は、世代間コミュニケーションを育むにはぴったりのゲームなのです。熱血コーチが優しいおじいちゃんに 私の父は、わが家に顔を見せにくるたびに、小学1年生の息子と将棋を指します。おじいちゃんVS孫の対決は真剣勝負ですが、ときおり笑い声が飛び交う和気あいあいとした雰囲気に包まれます。孫と盤面を見つめる父には、娘たちを厳しく指導をしていたあのころの面影はどこにもなく、今ではすっかり優しいおじいちゃんです。父に言わせると、「娘たちをプロにする!」という情熱は、私たちで完全燃焼したとかで、「孫はただただかわいい」のだそうです。
先日、父と息子と私の3人で千駄ヶ谷の将棋会館にある将棋道場に行ってきました。ここは昔、父が運転する車で私たち親子が毎週通った思い出の道場です。平日は、会社帰りにこの道場に寄って将棋を趣味として楽しんでいた父も、週末は娘たちの熱血コーチに変身。私たち姉妹の対局をうしろからじっと観察していました。局面が悪いと、「なんでこーやならないんだ!」と言わんばかりに、苦虫をかみつぶした顔になることも。そして、負けてしまうと、「ここではこっちの手のほうがよかったじゃないのか?」「ここは重要だから早く指さないでもっと考えなさい!」と、マグネット式の将棋盤で指し手を再現しながらの、検証と厳しい指摘の繰り返しです。
ときには父に反発してけんかになることもあったのですが、道場の近くの店で好きなものを食べさせてくれたり、お天気が良い日はお弁当を買って公園で食べたりと、父なりに気を使って私たちに息抜きをさせてくれていたのでしょう。子どもは単純なのか、おいしいものがあるとつらいことはすぐに忘れてしまうようで……(笑)。
自宅でも、父と妹と私の星取表を作り、「ここまでいったらご褒美!」とか、毎年のひな壇飾りも「将棋を指してから飾る!」など、必ず楽しいことと将棋をセットにしていたのも、娘たちが将棋を続けられるようにと、父が考えた工夫だったようです。
振り返ると、私たち親子には将棋があったからか、小さいころからよく会話をしていたように思います。「ケンカも多かったけれど、言いたいことが言い合えるいい関係だったんじゃない?」。これは、女流棋士になってから亡き母に言われた言葉で、私たち姉妹は将棋を介していつも父に本気でぶつかっていたのかもしれませんね。
今は、完全燃焼するまで力を尽くしてくれた父に感謝の気持ちでいっぱいです。父娘で将棋に打ち込んだ日々は私の宝物です。
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