世界中に存在する将棋の兄弟たち グローバル化がますます活発になる昨今、子どもたちが世界に羽ばたき活躍する機会がどんどん増えていくことと思います。そんなときに、日本人として日本の伝統文化の特技を1つ持っていると、一目置かれる存在になるのではないでしょうか?
将棋の起源は、さかのぼること2000余年、古代インドの「チャトランガ」というゲームにあります。元々、戦争好きの王様に戦争を止めさせるのが目的でつくられたという説があるそうですが、このチャトランガが西に伝わり「チェス」に、東に伝わり、中国の「シャンチー」やタイの「マークルック」、そして日本の「将棋」となりました。ルーツを同じくする将棋の兄弟たちが世界中にいるのです。
以前、将棋の魅力を外国の方にも知ってもらおうと、大学の留学生向けにワークショップを開催しました。前半は、将棋のほかにチェスやチャンシー、マークルック、韓国の「チャンギ」といった将棋の兄弟たちを実際に机に並べ、ルールや駒の形状などを比較・考察してもらうことにしました。そうすることで将棋特有のルールが浮き彫りになるからです。
まず将棋では、敵味方ともに同じ色、同じ漢字、同じ形をしています。これは「相手の駒を取ったら、その駒を今度は自分の駒として使える」という「駒の再利用」ルールに基づくものです。駒の色が敵味方で違うチェスのように、海外ではこのようなルールは見られません。どうして将棋に限って駒を再利用するのでしょう。これには諸説ありますが、日本固有の「合戦」という同民族同士の戦いや、捉えた敵が優秀なら味方にする考え方などに由来すると考えられています。
ほかに、駒の動きが小さいものが多いというのも将棋の特徴です。動きが小さいからこそ、協力して攻めなければ勝つことができず、これには協調性を重んじる日本人らしい思想が表れているように思います。
さて、将棋をイメージできたら次は実践です。ワークショップの後半は、中国や韓国、アメリカ、オーストラリア、ロシア、ドイツなど、さまざまな国籍の学生と、将棋部の日本人学生とで実際に将棋を指してもらうことにしました。最初はゲームとして成り立つのか心配しましたが、さすが学生さん! 日本語や英語でやりとりをしながら将棋を楽しんでいる姿を見ていると、「国際交流を図るためのツールとしてちゃんと機能しているんだなぁ」と、感慨深い気持ちになりました。

イラスト:高野優
上海では、将棋は「体育」だった! ところで、お隣の国の中国・上海では、日本の将棋は目に見えて「礼儀作法が身につく」「論理的な思考力が身につく」「集中力が身につく」と親御さんから大好評で、200をこえる小学校で将棋が取り入れられています。しかも教科は「体育」! 中国では、シャンチーや囲碁、将棋などのボードゲームが「マインドスポーツ」というカテゴリーに分類されているからです。実際に、上海でシャンチーを購入しようとすると、玩具店ではなく、スポーツ用品店や文房具店の、バドミントンや卓球のラケットが並ぶスポーツグッズコーナーに陳列されていました。なんだか面白いですよね。私も対局のときは、身体の動きこそ激しくはないものの、頭の中は常にフル稼働し、見た目以上に体力を消耗します。全身全霊を傾ける将棋はまさに頭脳のスポーツなのです。
私は上海の子どもたちに講義をしましたが、言葉は通じなくても、将棋を通して楽しくコミュニケーションをとることができました。現在、上海における将棋人口(日本の将棋に触れたことがある人)は約100万人ともいわれているように、今や将棋は日本だけに留まらず世界へ広がっています。(第6回・下につづく)
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