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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第6回 工務店選択の記? 郡 修彦
 現実の建築業界の激変を全く知らなかった私は、紹介か選択にて早期に工務店は決定し、内装・外装・仕様が全て決定済である以上は設計も早期に完了して、年末には新居にて新婚生活との楽観的な観測を立てたが、現実は悉く反対となった。
 工務店の選択に際しては以下の3方法を採り、最終的には丙にて漸(ようやく)く逢着し得たのである。

甲:友人・知人等の人による紹介。
乙:書籍・インターネット等の情報媒体による検索結果を得ての訪問。
丙:工務店紹介サイトによる紹介。

 先ずは甲と乙の2方式にて工務店捜しを開始、以下順番に流れを記すが、正しく五里霧中・暗中模索の毎日であった。

?:学生時代から参加していた建築保存市民団体の同年の仲間。団体幹部である大学教授の弟子で、自身も建築関係の大学教授として業績を伸ばしている人物に手紙にて相談を依頼するも返信は無かった。

?:婚約者が代表を務める日本モダンガール協會の会員の建築関係者。協會の会員による大会に建具や意匠の図録等を持参する伝統建築の愛好家で、自らの家にも解体家屋より多数の建具を移設しており、相談に伺い会社関係の知り合いの建設業者を紹介してもらうも、場所が北関東にて不可能な上に古民家の再利用を中心にしており、文化住宅を新築するとの我々の方針とは合わずに終わる。また前述の会員が、私が作成した間取り図から参考にと立面図と完成予想図を作成して呉れるも、我々の求める文化住宅とは異なる物であった。

?:婚約者と共通の知人が開催する文化催事で御馴染みの建築関係者、偶然にも私の高校の後輩であった。親子二代で木造伝統工法にて古典と現代を融合せしめた新感覚の木造建築を得意とする会社で、ネット情報では腕が良い事が良く判り、我々の意図も十分に伝わるであろうとの期待を込めて北関東の事務所を訪ねる。
 様々な木造建築の模型があり、何れも手堅く重厚にして安全面では確実と確信するが、当方の希望を伝え打ち合わせを終えると、概要を知りたく用紙に記入をと言われて預かり、帰宅して2人で検討した処が金10万円を添えて申し込むとあり、何の説明も無い事に著しい違和感を覚える。大金が動く建築業界では10万円は端金であろうが矢張り説明をすべきであり、誠実さを感ぜす散々検討の上で無回答と決めた。現在でも手堅い住宅を建ててはいるが、時間と予算のある客のみを対象としている様である。

?:天然素材で家を建てるとの宣伝文句が有名な工務店の本社を見に赴くに、中から社員が呼び止め入りて説明を受けるも、予算を告げた途端に態度が激変して終了となり、金持ち相手の高級住宅専門工務店と判る。また、台所・便所・風呂場等は共通品をしており、内装にも一定の傾向が見られたので、当方が希望する独自の意匠は難しく、選択の自由は薄いと思われた。但し基礎工事や木材は宣伝の通り優秀であり、記念にと進呈された板は大変に丈夫で現在は台所の鍋敷きとして活躍中。

?:父親の従弟(祖母の弟の家族)は母親方に大工がおり、昭和53年に埼玉県中部に新築した新居は当時の本格建築で見事なものであった。それを踏まえて紹介を依頼すると現在では没交渉にて不可能との返答であり、取り付く島も無く終了した。

?:ネットにて調べるに天然素材使用に協賛した工務店集団があり、そこの無料冊子を取り寄せて検討。我々が目指す新居を建て得る可能性があり、集団の中でも特に可能性の高い工務店を選び赴くと、第一声は「何故当店を選択なされたか」であり、結局は都内北東部と小平市では遠距離に過ぎ、我々が希望する和洋折衷住宅の文化住宅を建設した実績が無いとの理由で却下された。

 我々が目指す和洋折衷の文化住宅は現代に於ては非常に特殊な存在であり、上記の6店の何れもが快諾をしない事に、急速に時代が変化したと実感した。私としては昭和50年の実家と大同小異の工法による住宅を希望しており、当時の平均的な建売住宅と同等の水準が現在では上級建築に昇格とは、一体現在の建売住宅や平均的な注文住宅は如何なる物であろうかと考え、住宅専門雑誌等に目を通すに及び激変を目の当たりにして婚約者と2人大いに驚いたのである。

?:工務店捜しを開始して2か月、いまだに端緒も得られない事に多少の焦燥を感じ始め、周囲の可能性を見直した結果、前世紀末に所属していた文化団体(短歌)の会員で不動産業を営む折原女史(仮名)に相談をと考えた。女史とは意気投合して飲酒歓談したり、私の自主制作CD製作の援助を快諾して呉れ、また偶然にも近隣へ赴きし折りに表敬訪問してからは、不動産店の広報紙が毎月届くとの関係であった。

 そこで、平成27年(2015年) 4月27日に女史に新居建設に関しての概要を記した手紙を送付した処が取引先の工務店なら可能との連絡が入り、これにて漸く一件落着かと安堵して5月4日に折原女史の不動産店へ打ち合わせに赴き、当方希望の平面図を渡して検討をと依頼した。数日後に建蔽率の関係から平屋は不可能であり、2階建てを前提に検討するとの連絡が入り、当方も直ちに建蔽率に添った2階建案の作成を行い万全を期した。ところが、その後は梨の礫であり、おそらく先日提出の平面図に添った設計はしておらず、当方の希望とは異なる独自の設計に時間を費やしていると思われた。漸(ようやく)く連絡が入り6月6日に折原女史の不動産店へ赴くに、結果は案の定であった。

 初対面の工務店社長はネクタイを着用せずダブルのベストを着込んだ遊び人風であり、当方が完全な外出着で赴いた事に驚き「軽装にて失礼」と言う始末。1か月強の成果を拝見するに応接室は2階天井迄吹き抜けの5メ-トルの高さを有する代物で、照明具の交換は如何にするのかと訝る設計。重量が嵩む書庫が2階にあり、台所の奥に階段が有るとの、文化住宅とは程遠い設計であり大いに失望した。それに加え、その場で具体的な幾つか(木製の雨戸、和室の竿縁天井、板塀・竹垣)を伝えるに、全て高価にて不可能と却下されてしまった。

 実はここが運命の分岐点にて、この時点で工務店の実力を看破して辞退しておれば金銭的な被害と、時間と労力を浪費せずに終了したのであるが、それは後からの話にて渦中に於ける状況判断が如何に困難なものであるかは、時間を経ねば理解し得ぬ事態である。
 結論から言えば、この工務店は平均的な建売住宅が専門であり、注文建築の場合は建売住宅用の資材を流用して応じる手法を常用とし、注文に応じた資材調達や技術は毛頭持ち合わせていなかった。信用出来る人物の紹介の工務店であり、十分に時間をかけて当方の希望を説明すれば当初の計画通りの新居は完成するとの楽観的な希望があり、再び一からの工務店捜しの労苦に疲弊していた事も楽観的な希望の後押しをした。(つづく)


【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/
【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp

 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。

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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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