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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第1回 我が居住記-小平新文化住宅までの遙けき道のり㊦ 郡 修彦
 昭和56年、西荻窪の住宅は狭隘(きょうあい)となり、小平の祖母も喜寿を迎え、私が転居して一家が2か所にて生活を行う形態が始まり、祖母が亡くなる平成4年迄の10年余継続した。小平の家は前述の増築を最後に全く手が加えられておらず、先ず風呂釜が寿命となり銭湯通いを続け、昭和59年に転居する大叔父宅から風呂釜を譲り受けて風呂場と脱衣場を新築した。基礎はブロック、風呂場はコンクリート壁と床、脱衣場は石膏板に塗装との簡易建築であったが、プロパンガスの便利な風呂は大いに生活を潤した。次いで簡易工法の元父親書斎と子供部屋の老朽化が著しく、両親に苦境を再三陳情したが独立採算性と却下され、改築費用を賄うべく様々な労働に従事しつつ仕様を検討した。

旧宅:昭和58年(写真提供:郡 修彦)
 平成3年、4畳半洋室・3畳和室・玄関の改築がなったが、この時の失敗が今回の新築をして誤らしめぬ数々の教訓を私に痛感させたのである。即ち改築に当たり五里霧中の私は中学校の同級生で当時建築家として歩み始めた河奈部嬢(仮名)に依頼したが、出来た図面は庭の真ん中に東屋が有り、家具や寝床が配置され、母屋とは露天の廊下にて連結されるとの珍妙極まりない代物であった。無論祖母は反対、私も従来と同規模の新築をと言うに「自分は建築家であり、これ以外の案は不可能故に、君の希望は工務店に言うべき」と却下された。即ち建築家とは注文主の意向を反映するものではなく、自己主張の建築を押しつける事を初めて知ったのである。

 それでも知人の工務店を紹介するとの事で落着かと思いきや、西荻窪の両親宅の隣家を工事中の大工なら良かろうと母が斡旋し、上々の宣伝文句を盲信した結果が欠陥建築を招いた。私の案としては洋室は漆喰壁に腰板の現在の新居応接間と同一の仕様、和室は壁面に柱を露出する真壁(しんかべ)式の聚楽壁に長押付きの板天井を考えており、その旨を大工に伝えたが設計図も示さずに了解の返事で工事が始まった。その時の一言が私を見下したもので「お兄ちゃんがびっくりする様な家を作ってやるからな」であり、簡易な欠陥建築に確かに「びっくり」はしたが、当人は「素晴らしい」との意味で言っており、この様な発言の店や人物は要注意である。

旧宅:昭和63年(写真提供:郡 修彦)
 旧来の簡易基礎を撤去して書斎の書棚を支えるべくベタ基礎とする案であったが、予算の関係から旧来の簡易基礎の再利用となり、強度を訝る私に「大丈夫、心配するなって、ガッチリ作ってやるからな」と豪語して工事は開始され、柱は多少は節があるが集成材ではなくまずまずと思われたが、洋室の壁は石膏板に漆喰風と木目風のビニールクロスを貼り、天井も石膏板の下に化粧石膏板を釘止めして終わり、床は塗装合板であった。和室の壁は石膏板に聚楽風のビニールクロス、天井は石膏板の下に木目ビニールクロス、しかも壁は柱が見えない大壁作りであり、私の希望の真壁と異なる旨を言うと「この予算では出来る訳ねえだろ」と言われて終わり。この時、和室には真壁と大壁のある事を初めて知り(従来の工法では殆どが真壁、私は大壁を見た事が無かった)、注文しなければ真壁も聚楽壁も出来ない事を知り、従来の標準仕様が一般的で無くなった事実に驚いた。

旧宅取り壊し前の最後の夏:平成27年(写真提供:郡 修彦)
 この改築は竣工直後に馬脚を露呈した。即ち書棚に本を入れるや床が沈み、壁との間に1センチ以上の隙間が出来、ここからの風と土埃は以後四半世紀私を苦しめた。更にはビニールクロスとアルミサッシ窓枠の結露に因り豪華本を始め多数の書籍が癒着した事であり、大工に電話をするも梨の礫で程なく廃業して行方不明に終り、補修すらも受けられない状況となったのである。

 建築家河奈部嬢紹介の工務店に依頼したならば結果は変わっていたであろうか、母親の斡旋を盲信した自分が正しかったのか、自問自答は今回の新築に大いに役立ったのである。

※次回(11月上旬更新予定)は淺井カヨさんのエッセイをお届けします。

【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/
【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp


 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。
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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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