三人の子どもたちが幼い頃、出張があるときは友人宅にお願いをしていた。仕事が終わったあとは自宅へ直行。とんぼ帰りどころか、とんぼより早いので、まさに電光石火帰り。
観光が有名な場所だと後ろ髪がごっそり引かれるので、鏡の中のわたしは気が抜けた落ち武者のよう。すぐに友人宅へ迎えに行き、競うように話す子どもたちの言葉に耳を傾けながら、夢の世界へといざなう。いつかこの子たちが大きくなったら、出張先で地元の名産品に舌鼓をうったり、温泉にも寄ってみたい。そんな日は来るのかなぁと小さな寝顔を眺めながら、わたしまでうとうとと夢の中。
そして「そんな日」が訪れた。
はじめて子どもたちだけで自宅で過ごす夜は、出張先から何度も電話をかけて嫌がられたほど。楽しみと心配を天秤にかけると、心配の方がずっと重いので、温泉に寄ったところでカラスの行水で終わってしまう。ゆっくりと楽しめるようになったのは、ここ数年のこと。
それなのに、コロナ禍で講演会は軒並み延期になってしまった。ずっと家でごろごろしていると「たまには出かけたら?」と疎ましがられるように。1秒でも速くと、息急き切って迎えに行ったあの頃。あんなに走った理由はただひとつ。子どもたちの喜ぶ顔が見たいだけ、ただそれだけだった。
さ、今日はどこの地へ飛ぼうか。去年の師走に講演で伺った別府市の温泉は、身体の芯まで温まり、心がほどけて、1年間のご褒美のようなひとときだった。その日を思いだして、別府温泉にしよう。終わりが見えない毎日は不安だけど、明日は明日の風が吹くと呟きながら、気持ちは遥か九州へひとっ飛び。
別府では自宅のお風呂に温泉を引けるとのこと。蛇口をひねったら温泉が出てくるなんて楽園! ちなみに、愛媛県の松山空港にあるオレンジバーでは、蛇口をひねるとみかんジュースが出てくる。都市伝説じゃなくてホントの話。
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高野優さんのオフィシャルブログ「釣りとJazzと着物があれば。」