× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
子どものこれから
将棋×子育てのイイ関係 女流棋士
中倉彰子
第1回 「将棋をすると、成績が上がりますか?」(上)
 今年、歴代最多の29連勝を記録した最年少棋士の活躍もあり、「将棋を子どものころから親しんでおくとよさそう」と感じている子育て世代が多いのではないでしょうか。そこで、「将棋」と「子育て」の関係性を考える新連載がスタート。女流棋士で、3児のママでもある中倉彰子さんが、毎回1つのテーマに対して、自身の体験談を交えながら将棋の魅力をひも解いていきます。さらに、一見難しそうな「将棋」に、楽しいイラストで華を添えてくれるのが、育児漫画家の高野優さん。「将棋は全くの初心者」という高野優さんの光るユーモアセンスで、明るくわかりやすくお届けします。さあ、いよいよ「将棋」×「子育て」の気になる関係に迫ります!

「将棋をすると、成績が上がりますか?」
 最近、教育系のラジオ番組に出演したときに、司会者からこんな質問を受けました。成績トップまでは望んでいないにしても、きっとママたちにとって子どもの学力はとても重要な関心事なのだと思います。

女流棋士の中倉彰子さん

 この質問に対する答えは残念ながら「NO」です。もちろんプロ棋士の中には、将棋だけではなく、学校の成績でも素晴らしい成績を収めている方はたくさんいらっしゃいます。しかしそれは、将棋を頑張ったからではなく、あくまでちゃんと勉強も頑張ってきたからです。学力を上げるのには、やはり勉強をしないと、ですね。3人の育児真っただ中の私も、子どもたちに毎日のように「早く宿題しなさい!!」と鬼の形相です(笑)。
 ただ、「将棋をすると、成績が上がりますか?」を、「将棋をすると、考える力が身に付きますか?」の質問に変わると、私の答えも違ってきます。

 将棋は、お互いに「玉(ぎょく)」を(将棋用語で王様を「玉」と言います)を持ち、7種類の駒を使って、相手の「玉」を先に捕まえると勝ちというゲームです。2人で対戦し、かわりばんこに駒を動かしながら進めていきます。相手の「玉」を目指して、どんなふうに攻めようか、また、自分の「玉」をどうやって守ろうかなど、「頭の中」にたくさんの思考を巡らせます。将棋はまさに考えるゲームなのです。
 
 ですから、将棋が好きな子はきっと考えることが好きだと思います。盤上を見つめながら、長時間「う〜ん」と唸ることも、彼ら・彼女たちにとっては苦しいことではなく楽しいこと。将棋をすることで考える力が身につくというより、将棋を楽しむということが、そもそも「考えることを楽しんでいる」というほうが正しい気もしています。

 勉強がだんだんと難しくなってくると、じっくり考える力が必要になってきます。そんなとき、「あー、めんどくさいなー」ではなく、「考えることって楽しい」と思えるお子さんのほうが、勉強に少し有利に働くのではないかなというのが、私の個人的な意見です。

 それでは、将棋における「考える力」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

  イラスト:高野優





決断するのは自分自身
 将棋では、最初の駒を並べた状態での指し手は30通りあります。対局が始まり、局面が進んでいくと、指し手の可能性は増えていき、平均すると80通りあるといわれています。つまり、膨大な選択肢がある中で、自分の頭で考え、次の一手を決めなければならない。これが将棋の考える力につながるのです。

 勝つという目標はみんな同じですが、勝つための過程は十人十色。攻めが得意な人、受けが得意な人。将棋用語で「棋風」と言いますが、その人らしさが、将棋に現れるのですね。私はどちらかと言うと「攻め」が好きですが、女流棋士で妹の中倉宏美(女流二段)はさらに「攻め将棋」。手裏剣のように激しい手が容赦なく飛んでくるような棋風です。姉妹対決のときは、私が少しずつ有利に進めていたのに、最後その手裏剣が飛んできて逆転! なんてこともありました(笑)。

 それはさておき、プロでも同じ局面で意見が割れることがあります。「絶対的な正解がない」というのが将棋の特性です。現代はインターネットが普及し、自分の頭で考えたり、資料や文献を調べたりしなくても、キーワードを入力して検索すれば、簡単に知りたい情報を入手できる環境になってきています。そんな中、考える環境に身を置くことができるのが将棋の世界だと思います。相手の指し手や持ち駒が完全に公開されているので運の要素がなく、まさに考える力の勝負。将棋は、勝ち負けを競う過程において、考える力を育むことができる一石二鳥のゲームなのです。

 将棋の「絶対的な正解がない」というのは、子育てに似ているような気がします。私は育児本をよく読みますが、それらがすべて我が子に当てはまるわけではありませんよね。参考にしながらも結局は自分で試行錯誤して考える。悩んだり迷ったり、正解がないからこそ一生懸命に夢中になれる。将棋も同じかもしれません。(つづく)

【「株式会社いつつ」のホームページ】
http://www.i-tsu-tsu.co.jp/

【高野優 公式サイト】
http://www.k4.dion.ne.jp/~alamode/
【高野優 公式ブログ「タカノアラモード」】
http://www.take.cside5.jp/alamode/blog/
ページの先頭へもどる
【なかくらあきこ・たかのゆう】
★文/なかくら・あきこ★東京都出身。女流二段。株式会社いつつ代表取締役。6歳から将棋を始める。1991、92年の女流アマ名人で連続優勝を果たし、94年に高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。その後、NHK杯将棋トーナメントなどテレビ番組の司会を務めるなどメディアで幅広く活躍。2007年に公益社団法人日本女子プロ将棋協会へ移籍。15年3月に現役を引退し、同年10月に株式会社いつつを設立。将棋と知育・育児を結びつけるような活動を広く展開し、お母さん向けの講演なども行う。将棋入門教材「はじめての将棋手引帖」の制作や、絵本『しょうぎのくにのだいぼうけん』(講談社)も出版。

★絵/たかの・ゆう★北海道出身。育児漫画家・絵本作家。NHK教育テレビにて『土よう親じかん』(2008年4月~2009年3月)、『となりの子育て』(2009年4月~2011年3月)の司会を務め、子育て世代から支持が厚い。『よっつめの約束』(主婦の友社)など著書は約40冊に上り、台湾や韓国などでも翻訳本が発売されている。また、マンガを描きながら話をするという独自のスタイルで、育児をテーマにした講演会を全国で開催。2015年には、特定非営利活動法人日本マザーズ協会が主催する「第8回ベストマザー賞2015・文芸部門」を受賞。
新刊案内