第8回 隠岐の島〜流刑の地は「御食国」〜 仲野マリ(エンタメ水先案内人)
「隠岐の島」を知っていますか?夏に、島根県の隠岐の島を旅した。歴史好きな人なら、後鳥羽上皇や後醍醐天皇の配流地として思い出してくれるだろうか。特に後醍醐天皇は、流されてから1年半後に島を脱出し、ついには「建武の新政」を実現した。「脱出」とはいえ島根県沖150キロもある離島である。今でこそ飛行機で30分、フェリーで3時間だが、14世紀である。隠れて小舟で海に乗り出すことなどできたのだろうか。
「どうやって警備をかいくぐり、どこから脱出したの?」
そんな疑問を小学生の時から持っていた夫が、60年後に実現したオトナの自由研究解決編に、この地を選んだ。私と娘も付き合って、3人とも初の隠岐の島上陸である。
「隠岐の島」といっても、4つの大きな島を中心に構成され、沖にある大きな丸い島1島を「島後(どうご)」、それより本州に近い西之島、中之島、知夫里島を「島前(どうぜん)」と呼ぶ。島前はかつて島後のような丸い火山島だったが、大爆発によって火口が陥没し、カルデラに海が流れ込んで幾つもの島に分かれたという。地殻変動の地層が露わな崖がそそり立つ海岸もあり、いかにも「絶海の孤島」らしさを醸し出している。
旅程はもちろん夫のために、後醍醐天皇の足跡を辿るのが主なルートだ。島後のほか、島前の西之島、中之島とまわった。その中で出会った、隠岐の「食」、天皇たちも食べたかもしれない海の幸を紹介したい。
丸々とした巨大岩牡蠣牡蠣といえば広島や宮城、そして三重の英虞湾などが有名だが、隠岐の島は日本で初めて岩牡蠣の養殖を始めたところだという。注文する時、「海中から引き上げた岩牡蠣を即冷凍してあり、これから流水で解凍するからお出しするまで40分かかります」と説明を受けた。
出てきた殻付き岩牡蠣の大きさに、まずびっくり! てのひら大、それも指をいっぱいに広げたくらい大きい。そしてほぼまん丸。身は真っ白でプリプリに輝いている。
「これはすごい!」
……だが食べ物は、えてして「大ぶりは大あじ」になりがち。牡蠣などは、細長い身にレモンをかけて、チュルっと丸ごとひと口でいただくのがオツなのに、この巨大岩牡蠣、とてもひと口では無理! アメリカのハンバーガーにかぶりつくみたいにアゴが外れるほど大きく口を開けないと、丸ごと食べるのは難しそうだ。
「邪道か?」と一瞬躊躇したが、小さくひと口噛み切るようにして食べてみた。
「う、うまいっ!」
まさに「海のミルク」の味がする!
噛み切って食べると、ひと飲みとは違って中の黒い部分がちぎれるから、苦く感じるかと思ったが、全く気にならない。あまり牡蠣を好まぬ娘も「こりゃあ美味しい!」と前のめりだ。出てきた時、一瞬「1人1個じゃ多過ぎたか?」とひるんだのがウソのように、全員完食! 私は5口くらいに分けて食べた。
海水の塩が効いて、レモン汁も要らないくらい。「即冷凍→流水解凍」によって、まるで磯でとってきた岩牡蠣をそのまま海の水の塩気で食べるような新鮮さを味わうことができた。
サザエ、バイ貝、と「海の幸」を満喫日本海に浮かぶ島だから、冬は気候が厳しく波が高く、海も荒れるという。でも私たちが訪れた夏はそんな気配が全くなく、海面は鏡のよう。港も磯も浜辺も、海水は真水のように透き通っている。ここで穫れる海の幸が、美味しくないはずがないではないか!
例えば、サザエ。壺焼きの他、「サザエ丼」が名物で、「カツ丼」みたいに卵でとじている。惜しみなくサザエの身が入っているところが、ご当地らしい。サザエと並んでよく獲れるというバイ貝は、ソフトクリームのように殻を巻き上げた貝で、これも美味! 初めて食したが、白い身を刻んで酢味噌和えもよし、丸ごと天ぷらもよし。アワビより淡白で、優しい味わいが気に入った。
「流刑地」で天皇はグルメを満喫?「流刑地にしては、豊かすぎない?」と娘。
隠岐の島への流刑者は「政治犯」が多かったという。中には冤罪を被った者もいるだろう。昔の人は「怨念」や「祟り」を恐れたから、政敵を島流しにしたとしても、流刑地で苦労はさせたくなかった、という面もあるのでは?と土地の人は話す。
隠岐は昔から「御食国(みけつくに)」と呼ばれ、朝廷に干しアワビなどを献上していた。
後鳥羽上皇や後醍醐天皇はこの島で、「干しアワビ」でなく、獲れたてのアワビを焼いたそのままの美味しさを、初めて味わい舌鼓を打ったのではないだろうか。そんなことを思いながら隠岐の島を後にした。

(イラスト:きりたにかほり)
好評既刊『恋と歌舞伎と女の事情』
仲野マリ 著

定価2035円(税込)
“歌舞伎に描かれる女性たち”の視点で観ると、あらあら不思議、なんだか歌舞伎がとっても身近に思えてくる!? 歌舞伎ビギナーズ向け講座の講師として人気の著者が、「初心者にまず押さえてほしい」15の恋物語をセレクト。愛する人への思いや親子の情など、現代人にも共通する心の動きと結びつけながら丁寧に解説します。作品の描かれた背景や人物相関図などもついた「歌舞伎作品入門書」。これを読めば、きっとあなたも歌舞伎ファンに!
◎書籍の詳細・購入は⇒
こちら