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美しいくらし
続・イタリアの美しい村を歩く トスカーナ自由自在
中山久美子
第6回 マッジョーレ島と湖畔の村巡り(後編)【カスティリオーネ・デル・ラーゴ】


イタリア中部ウンブリア州のトラジメーノ湖畔の村パッシニャーノ(連載第5回)から足を延ばしたのが、マッジョーレ島。いちばんの見どころは、島で最も高い場所に建つサン・ミケーレ・アルカンジェロ教会です。私は体力のあるうちに教会を見ておこうと、多少きつくても早く着けそうな「短距離だが急勾配」というルートを選びました。メーンストリートのグリエルモ通りを南へ歩いてゆくと、道は次第に緩やかな上り坂となります。教会へ向かうために左折すると、そこから勾配が一気にきつくなりました。オリーブ畑に囲まれた砂利道はわずか100mほどなのに、炎天下での上り坂は予想以上に辛いもの。もう一方の緩やかなルートを選べばよかった! 「後悔先に立たず」とはまさにこのことです。汗だくになりながら教会にたどり着きました。

中へ入ると、外の暑さが嘘のようにひんやりとしています。ちょうどガイドさんによる解説が行われていたため、観光案内所で教わったとおり、ガイドさんから見えるようにチケットを掲げ、静かにベンチへ腰を下ろしました。12世紀ごろに建設された教会の内部は、聖母マリアや聖人を題材にした13~15世紀のフレスコ画で美しく彩られています。

疲れを癒しながら芸術に浸った後、オリーブの木々の間をゆっくりと下っていきます。島の北端にある小さなビーチに出ると、今度は北側から再びグリエルモ通りへ。共通チケットで見学できる「市民隊長の家」をはじめ、伝統産業を紹介するレース博物館、そして金と青を基調に飾られたサン・ジェズ教会を見学し、思いのほか文化的な島歩きを満喫しました。

今や観光地として人気を集める、かつての漁師の島を歩くと、路地のあちこちには魚をモチーフにした飾りや、1211年に島を訪れた聖フランチェスコの言葉が記された陶器パネルなどがあり、散策するだけでも飽きることがありません。夏の日差しの中ですっかり飲み干してしまった水も、「Fonte di Allegria(喜びの源)」と書かれた水場の蛇口から水を補給してゴクゴクと喉の渇きを一気に癒やすと、辛かった灼熱の坂道のことは消え去ってしまいました。

マッジョーレ島での最後のお楽しみは、湖で捕れる魚を使ったランチです。淡水スズキとテンチ、さらに頭から尾まで丸ごと食べられるトウゴロウイワシの3種類を盛り合わせたミックスフライはボリューム満点! 発泡白ワインとともに魚の食感や風味の違いを堪能し、約3時間にわたるマッジョーレ島観光を締めくくりました。

ここから帰路につくのですが、この日はあえて出発地のパッシニャーノには戻りません。行きのフェリー乗り場で手に入れた時刻表を確認すると、マッジョーレ島からもう一つの湖畔の村、カスティリオーネ・デル・ラーゴへも渡れることがわかったからです。せっかくの機会なので、帰りはそちらへ向かうフェリーのチケットを購入していました。
この村は「イタリアの最も美しい村」協会のフィオレッロ・プリミ会長が11年間市長を務め、その在任中に同協会を設立したという、いわば協会発祥の地です。以前から一度訪れてみたいと思っていたものの、駅から旧市街まで距離があるため、これまでなかなか足を運べずにいました。しかし調べてみると、フェリーは村のすぐ下の船着き場に到着するとのこと。駅から往復するのは大変でも、片道だけならなんとかなるだろうと思い、立ち寄ることにしました。

マッジョーレ島からカスティリオーネまでは約30分の船旅。午後の日差しはいっそう強くなり、ランチで発泡ワインを飲んだのがいけなかったのか、船が港へ近づくにつれてだんだん頭がくらくらしてきました。幸い、港のそばには木陰の芝生が広がっていて、地元の人たちが寝転んだり湖水浴を楽しんだりしています。先を急ぎたい気持ちを抑え、私も木陰でひと休みすることにしました。


もっとゆっくり休みたいところでしたが、その日のうちに帰宅するにはそうもいきません。重い腰を上げて地図アプリを頼りに進むと、旧市街と書かれた標識が現れ、その脇から要塞へ向かう長い階段が延びていました。マッジョーレ島の急な坂道の悪夢が再来して呆然としましたが、今回はこの階段を進むしかなさそうです。「喜びの泉」で補給した水を命綱に、休み休み進んで20分くらいで何とか上りきりました。
ところが、試練はまだまだ続きます。地図アプリが示す要塞の入り口はすぐ近くのはずなのに、歩いても歩いても城壁が続くだけ。途中にある門や扉もかたく閉ざされ、ようやく見つけた「イタリアの最も美しい村」協会の標識が掲げられた塔でさえ入ることができません。疲れに加えて精神的にもこたえ、「神はなぜここまで試練を与えるのか」とつぶやいたほどでした。
結局、城壁沿いを歩いているうちに旧市街へたどり着きました。まずはコルニャ宮殿を訪れることにしたのですが、そこでようやく謎が解けます。実は要塞の入り口はコルニャ宮殿の内部にあったのです。先に知っていれば、こんなに城壁沿いを歩き回らずに済んだのに! とイライラしても仕方ありません。

この宮殿は、16世紀にローマ教皇の妹との結婚を機にこの地を与えられたペルージャの貴族・コルニャ家の屋敷です。チケット売り場から続く11の部屋にはそれぞれ美しい装飾が施されていますが、中でも圧巻なのが「アスカニオの偉業の間」。この地の初代侯爵であり、軍の指揮官でもあったアスカニオの功績が四方の壁から天井までびっしり描かれています。しばらく腰を下ろしてその絵画を眺めていると、それまでの疲れやイライラも次第に和らぎ、ようやく心身のエネルギーを取り戻すことができました。

宮殿の北東に位置する、見学順路の最後の部屋から外に出ると、「要塞へ」という案内板の先に薄暗く長い廊下が続いていました。ちょうど30分前に重い足を引きずって歩き続けた城壁の内側にあった通路を、今度は逆方向に歩いていくことになります。
13世紀、ローマとフィレンツェを結ぶ交通の要衝に築かれた、五角形のこの要塞は、その壁の上を一周することができます。トラジメーノ湖や周辺のオリーブ畑、そして村全体を一望でき、西端にある三角形の塔へ上って村を見下ろすと、西の城門からメーンストリートが一直線に延びる、旧市街のシンプルな構造がよくわかりました。

実際にメーンストリートに立つと、トラジメーノ湖畔の最大の村だけあって商店やホテルが数多く並び、どこかリゾート地のような華やかさに包まれています。その雰囲気をさらに盛り上げていたのが、「城壁内にひとつの虹を」プロジェクトによる屋外アートです。バケツから色とりどりのペンキを流し落としたように見える大きな布が通りを彩り、鮮やかな花々とともに村全体を明るく演出していました。カラフルな虹色の布と花が咲き誇るメーンストリートを急ぎ足で歩きながら、名残り惜しさを感じつつ城門を後にしました。


最後に待ち受けていた試練は、駅までの長い道のりでした。城門を出て階段を下りると、新市街のメーンストリートが遥か先まで一直線に続いています。事前に地図アプリで確認していたとはいえ、その長さは想像以上。しかも日陰がほとんどありません。日曜だったため旧市街の外にある店はどこも閉まっていて、冷たい飲み物も買うことができず……。それでも残った力を振り絞って駅にたどり着き、波乱万丈のワンデイトリップは幕を閉じたのでした。

旅、特に有名観光地に比べて情報やサービスが限られる小さな村への旅では、アクシデントも思い出のひとつです。とはいえ、反省点も少なくありません。帽子をかぶるなどの暑さ対策をしなかったこと、調子に乗ってワインを飲んだこと、時間に余裕を持たせられなかったこと。好奇心旺盛で気だけは若い私ですが、やはり無理は禁物です。そう自分に言い聞かせながらも、「今度は電動マウンテンバイクを借りるのもいいな」「移動は1日に1回にして、その土地に宿泊する旅もいいな」と、帰路の鈍行電車に揺られながら、新しい旅の妄想は膨らむばかり。
美しい村への旅はこれからも続きます。(つづく)



【村への行き方】
フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅(Firenze S.M. Novella)から直通電車または一回乗り換えでカスティリオーネ・デル・ラーゴ(Castiglione Del Lago)まで1時間30分~2時間30分。州都のペルージャからは1回乗り換えで1時間~2時間。マッジョーレ島(Isola Maggiore)へはフェリーで約30分。


(写真提供:中山久美子)

【トスカーナ自由自在】https://toscanajiyujizai.com/

好評既刊『イタリアの美しい村を歩く』
中山久美子 著


定価2200円(税込)

トスカーナ州の田舎町に暮らす著者が、これまでに訪れた「イタリアの最も美しい村」の中から“忘れられない”30の村をセレクト。「飾らない、ありのままのイタリアを伝えたい」という思いから、電車やバスに揺られながらのローカルな雰囲気が楽しめる村を北部から南部までラインアップ。旅先での出会いやエピソードをちりばめながら、心に沁みる美しい村の魅力を綴る。「イタリアの最も美しい村」協会推薦本。

●書籍の詳細・購入は⇒

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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部西洋史学専修卒業。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。多彩な分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村など各地の魅力を発信している。著書に『イタリアの美しい村を歩く』(東海教育研究所)、『イタリア流。世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀』(大和出版)、『イタリアの笑みさそわれる愛おしい暮らし365日』(自由国民社)がある。
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