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食べるしあわせ
イタリアの美しい村の小さなごちそう トスカーナ自由自在
中山久美子
最終回 ルチニャーノのアリオーネのピチ


 トスカーナ州の郷土パスタは、第5回でムジェッロ風トルテッリを紹介しました。今回は同じトスカーナ州でもムジェッロ地方という狭いエリアではなく、州中部に位置するシエナ以南の南部エリアを代表する太いロングパスタ・ピチとその定番ソースのお話です。

巨大ニンニクのアリオーネ

 ピチの材料は小麦粉と水だけで、材料や見た目も日本のうどんとよく似ています。ピチという可愛らしい名前の由来は、細く切った生地を1本1本伸ばしながら成形していくときに生地が手に「くっつく」ことを意味する「appiccicare(アッピッチカーレ)」に由来しているそうです。合わせるソースはラグー(ミートソース)やカーチョ・エ・ぺーぺ(コショウの効いたチーズソース)などがありますが、定番中の定番はアリオーネソースでしょう。
 アリオーネとはニンニクを意味する「アーリオ」に拡大辞がついたもので、実際に「アリオーネ」という大きい品種のニンニクが存在しています。しかしこのニンニク、ただサイズが大きいだけではありません。一般に流通しているものに比べて、刺激が少なくデリケートな味わいで臭みがない。そして消化によい、といいこと尽くし!

一般的なニンニクを横に並べて大きさを比較

 アリオーネの産地は、トスカーナ州南東部のアレッツォ県とシエナ県にまたがるキアーナ渓谷。2016年、「キアーナ渓谷のアリオーネ」はトスカーナ州そして農林食品省の伝統的食材に登録されました。翌年には9つの市と23の生産者でその保護と有効利用のための協会が発足しますが、一地域の限られた数の生産者しかいないため、価格は1キロあたり約20ユーロと決して安いものではありません。トスカーナ州内でも市場に出回ることが少なく、レストランのメニューでアリオーネソースと表示されていても、単に普通のニンニクを多く入れたものだったりすることもあるほど、とても貴重な食材なのです。
 私は2020年、縁あって生産者さんから直接購入できたのですが、初めて見る本物のアリオーネは笑いがもれてしまうほどの強烈なインパクトがありました。特大サイズはなんと直径10センチ、重さは800グラムにも及びます。私が購入した600グラムの標準サイズと普通のニンニクを並べても、その大きさは歴然でした。
 

「イタリアの最も美しい村」協会に加盟するルチニャーノ

 それ以来、買う機会も食べる機会もなかったアリオーネ。しかし先日、仕事帰りにアリオーネの生産者組合に加盟している市の1つ、ルチニャーノに足を延ばし、久しぶりにアリオーネソースのピチを食べることができました。
 給士係の女性にソースのレシピを聞いたところ、このレストランではアリオーネと少しのバジルをトマトピューレで煮込み、ミキサーにかけるのだそうです。そうして作るソースはなめらかで辛みがほとんどなく、アリオーネの風味が満点! 豊かな香りとデリケートな味わいがトマトの酸味ともマッチしています。素材本来のおいしさを楽しむために、あえてチーズはかけません。この日、モチモチした食感のピチと相性抜群のアリオーネソースを存分に堪能し、ルチニャーノを後にしました。(おわり)

 美しい村の料理や食材をテーマにお届けした連載がついに最終回となりました。中山さんが旅先で出合ったのは、その土地の風土に育まれたその土地ならではの味。見た目も味も素朴だけれど、一度食べたら忘れられない「村のごちそう」ばかりです。食の背景やルーツもおいしい記憶として心に刻まれる中山さんの村歩きは今後も続きそうです。(編集部)

★中山久美子さんのWEBサイト【トスカーナ自由自在】
https://toscanajiyujizai.com/

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トスカーナ州の田舎町に暮らす著者が、これまでに訪れた「イタリアの最も美しい村」の中から“忘れられない”30の村をセレクト。「飾らない、ありのままのイタリアを伝えたい」という思いから、電車やバスに揺られながらのローカルな雰囲気が楽しめる村を北部から南部までラインアップ。旅先での出会いやエピソードをちりばめながら、心に沁みる美しい村の魅力を綴る。

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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部西洋史学専修卒業。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村など各地の魅力を発信している。
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