2007年の秋、北西部ピエモンテ州を旅しているときに、名産のトリュフ目当てに立ち寄ったアルバの食材店で見つけたのがトミーノチーズ。小さな円盤型の白いチーズです。
当時はイタリアに移住して6年が経ったころで、日本でもおなじみのモッツァレッラチーズや羊乳を使ったペコリーノチーズ、長期間熟成させたチーズの王様パルミジャーノ・レッジャーノチーズといったイタリアを代表する主要なチーズはどれも食べて知っていましたが、このトミーノチーズはそれまでに見たことも聞いたこともありませんでした。それもそのはず、イタリアチーズはDOP(保護指定地域表示)などの認証を与えられているものだけでも300以上、種類にして2500以上。このときあらためてイタリアチーズの奥深さを知ることのなったのです。
一説によると、ピエモンテ州では隣接するフランス南西部のチーズ名からチーズのことをトーマと呼び、それに縮小辞(-ino)がついたものがトミーノ。つまりトミーノは「小さなチーズ」のこと。直径4~10センチメートル、高さ約1センチメートル、重さは100g前後とチーズの中でも小ぶりなものです。
かつて農家の多くは羊や山羊などの家畜を飼い、その乳でチーズを生産していたのですが、このトミーノはサイズが小さい分、熟成タイプでも2~3週間という短いサイクルで完成することから、食が豊かでなかった時代に農家の食卓を助け、日々の栄養源にもなる「賢い食材」だったそうです。
夜のオルタ・サン・ジュリオ
村のエノテカでトミーノチーズ料理を注文
気になる食べ方はというと、フレッシュタイプはそのままハチミツをかけたり、切ってサラダと和えて。熟成タイプは表面が膜で覆われており、そのままあるいはハムなどを巻いてフライパンで焼いて食べるのが定番です。どんな食材にも合うことから、アルバで購入して持ち帰ってからは、わが家の食卓で一時はブームになったトミーノチーズでしたが、時が経つにつれて食べる機会が減り、その存在すらも忘れてしまっていました。
それから14年後、久しぶりに訪れたピエモンテ州北部のオルタ湖畔の村、オルタ・サン・ジュリオのエノテカ(ワインレストラン)で再会したのです。
オレンジ色に浮かび上がるサン・ジュリオ島を眺める人や、アぺリティーヴォ(食前酒)を楽しむ男性グループでにぎわうモッタ広場。その雰囲気を楽しもうと広場の一角にあるエノテカの外席に座り、オーナーさんおすすめの白ワインと「トミーノと野菜のグリル」を注文しました。
テーブルに運ばれてきたトミーノチーズは熱々で湯気をまとい、とろりと中からクリーム色のチーズが溶け出しています。それをパンにすくって食べると口いっぱいに濃厚な味が広がり、身も心もほっこりと温まります。14年ぶりに訪れたピエモンテ州で味わった懐かしい味。クセになるこのおいしさが、わが家で再びブームになりそうです。(つづく)
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