イタリア野菜のラディッキオには色や形状が異なるさまざまな品種がある
イタリア北東部のヴェネト州で冬に欠かせない野菜といえば「ラディッキオ」です。キャベツやレタスに似たキク科の葉菜類で、サクサクとした食感とほろ苦さが特徴。生のままをサラダにするだけでなく加熱料理にも使われます。
ヴェネト州で栽培されている主な品種は、葉がくるりとカールした晩生種の「タルディーヴォ」とラグビーボールのような形状をした早生種の「プレコーチェ」、葉の赤い斑点が美しい「ヴァリエガート」の3つ。いずれもトレヴィーゾ県を中心とした地域で生産され、IGP(保護指定地域表示)認証を持った特産品です。
見た目が個性的なタルディーヴォ
中でもタルディーヴォは独特な生産方法と見た目の美しさから「冬の食卓の王様」とも呼ばれ、お値段が高め。最近は私が住むトスカーナ州でも買えるようになったとはいえ、鮮度のよさは産地にはかないません。旬を迎える12月初旬にトレヴィーゾ県のアーゾロを訪れる機会があり、そこで食べるのを楽しみにしていたのです。
タルディーヴォの生産には「インビアンキメント(白くすること)」という伝統技術を用います。長く葉が茂った株を例年だと10月20日以降に収穫し、それを専用の箱に縦詰めして約15日間、太陽の光を遮断した中で冷たい流水に漬けっぱなしにします。それにより茎部分はさらに白く、紫の葉はより濃くなり、みずみずしくシャキッとした食感が生まれます。この工程が終わると、内葉を守っていた外葉と水分を吸い上げる根っこをカットされ、白と紫のコントラストとしなやかなカーブを持つ芸術作品のようなタルディーヴォが完成します。
さて、今回の訪問で楽しみにしていたのがタルディーヴォの料理です。この日開催されていたメルカート(市)では3品種すべてのラディッキオが販売されていたものの、晩生種のタルディーヴォは暖冬の影響で収穫が遅く、立ち寄ったレストランのメニューにはまだありません。そこで、早生種のプレコーチェを使ったパスタのタリアテッレをハーフで頼むことにしました。じっくり火を通してペーストのようになったプレコーチェは幅広のパスタにしっかりと絡み、苦みの中にも甘みが感じられる優しい味。同じラディッキオでもタルディーヴォに比べて手に入りやすいため、この冬はわが家でも真似してみたいと思いました。
一緒にオーダーした前菜プレートは、塩漬けのタラをペーストにしたバッカラ・マンテカートやイワシフライとタマネギをマリネしたサルデ・イン・サオールなど、フィレンツェでは食べられないヴェネツィア郷土料理が並びます。お供はもちろん、アーゾロの名前がついたDOCG(統制保証付原産地呼称)のスパークリングワイン、プロセッコです。
プレコーチェのタリアッテレ
アーゾロのレストランで食べた前菜プレート
残念ながらレストランで食べられなかったタルディーヴォですが、帰りに思いがけないサプライズがありました。通訳の仕事で長年お付き合いのある会社の社長さんで、公共交通機関のないアーゾロまでの送迎をしてくれた彼が、「これお土産」と私にずしりと重い袋を差し出したのです。その中には、2kgはあるタルディーヴォ10株とアーゾロ産プロセッコが2本も! 肩掛けのバッグ1つしか持っていなかった私はその袋の重さに泣きそうになりながらも、彼の心遣いに感謝。帰宅後は思う存分タルディーヴォを味わい、その年のクリスマスは極上のプロセッコで乾杯ができたのでした。(つづく)
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