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食べるしあわせ
イタリアの美しい村の小さなごちそう トスカーナ自由自在
中山久美子
第5回 スカルぺリアのトルテッリ

ゆでる前のムジェッロ風トルテッリ


 イタリア料理を代表するパスタ。日本では「スパゲッティ」でひとくくりにされてしまいがちですが、本来パスタは長さや太さ、形状、材料の違いで300以上も種類があります。今回はその中からムジェッロ風トルテッリを紹介しましょう。

 イタリア料理のトルテッリといえば、肉やチーズをパスタ生地で包むものが一般的ですが、ムジェッロ地方ではジャガイモを具にしたもの指します。それは、ナポレオン侵攻などで荒廃し食不足だった1800年代前半、この地を治めていたトスカーナ大公国がジャガイモの生産を推進した歴史があったからなのかもしれません。
 私がムジェッロ風トルテッリを知ったのは、ムジェッロ地方に近い村に移住してきた18年ほど前のこと。中部トスカーナ州のフィレンツェ県北部にあるムジェッロ地方とフィレンツェとは約35キロメートルしか離れていないというのに、フィレンツェで暮らしているときは見たことも聞いたこともありませんでした。

 とはいえ、今ではフィレンツェのレストランのメニューでもよく見かけるようになり、私のレパートリーの一つになるほど、わが家でおなじみの料理になったムジェッロ風トルテッリ。レシピはいたって簡単で、ゆでたジャガイモをつぶして、それにニンニクとイタリアンパセリのみじん切りを混ぜ、チーズと塩で味を整えたものをパスタ生地で包めば出来上がりです。トマトソースやチーズソース、バターソースでシンプルに食べることもありますが、定番はやはりミートソース。がっつりと食べ応えのある一品になります。

スカルぺリアの生パスタ屋で提供されたムジェッロ風トルテッリ

 ところが先日、「イタリアの最も美しい村」協会に加盟するムジェッロ地方のスカルぺリアを歩いていたときのことです。総菜屋を兼ねるレストランのあるレストランで見かけたのは、パスタ用の深皿に盛られた一般的なムジェッロ風トルテッリとはまるで違う見た目。パスタ生地が透けそうなほど薄く、具の周りの生地が長くヒラヒラとしていたのです。
 レストランに入って席に着くと、さっそくムジェッロ風トルテッリを頼むことにしました。やがテーブルに運ばれてきたのは、平皿に1つずつ丁寧に敷かれるように盛り付けられていて、ちょっと上品なトルテッリ。それをフォークで刺して持ち上げると、口の中へつるりと滑り込むほどなめらかで、生地の中からあふれ出るジャガイモがふっわっととろけるほどクリーミー! 具に少量の凝縮トマトペーストを入れたり、食感のコントラストが楽しめるようにと生地をあえて長く残したりする小技も効いていて、私が知る素朴なムジェッロ風トルテッリとはひと味違うデリケートなおいしさでした。

伝統工芸品のナイフ

スカルぺリアの町並み


 食事用に提供されたナイフはスカルぺリアの伝統工芸品で、偶然にも私が何回かナイフを購入した工房のものでした。すると、ちょうどそこへその工房の顔見知りの職人さんがランチのテイクアウトにやってきたのです。彼がオーダーしたのもムジェッロ風トルテッリ。普段からこの店をよく利用しているであろう彼もつい注文してしまうほど、地元の人の日常に溶け込んだ一品のようです。(つづく) 

★中山久美子さんのWEBサイト【トスカーナ自由自在】
https://toscanajiyujizai.com/

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トスカーナ州の田舎町に暮らす著者が、これまでに訪れた「イタリアの最も美しい村」の中から“忘れられない”30の村をセレクト。「飾らない、ありのままのイタリアを伝えたい」という思いから、電車やバスに揺られながらのローカルな雰囲気が楽しめる村を北部から南部までラインアップ。旅先での出会いやエピソードをちりばめながら、心に沁みる美しい村の魅力を綴る。

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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部西洋史学専修卒業。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村など各地の魅力を発信している。
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