プーリア州の郷土料理「そら豆とチコリ」
「ピアット・ポーヴェロ」は、直訳すると「貧しい料理」。しかし実際は決してそのようなものではなく、農民たちが限られた食材をおいしく消費できるように知恵を絞った滋養たっぷりの郷土料理のことです。イタリア全土にピアット・ポーヴェロは存在しますが、ブーツ形をしたイタリア半島のかかと部分に位置するプーリア州のロコロトンドで食べたのは、材料がそのまま料理名になっている「そら豆とチコリ」でした。
円形状の高台に立つ村、ロコロトンド
しかし、この料理がどうして「ピアット・ポーヴェロ」なのでしょうか?
昔からプーリア州は水に乏しく、農民たちは干上がる土地に悩まされていました。こうした環境の中、貴族や裕福層から需要のあった小麦の生産性を上げる方法として、作物の生育に必要な窒素を空気中から取り込んで、作物が成長しやすい土壌をつくってくれる豆類も一緒に栽培していたのです。出荷する小麦に対して豆類は農民の手元に残るため、それらは農民たちの主な食糧になっていました。乾燥すると長期保存が可能な点も好都合。私が暮らすトスカーナ州では春に生しか出回らないそら豆も、プーリア州では乾燥そら豆にして年間を通じて食べることができます。
「そら豆とチコリ」の作り方はいたって簡単です。一晩水に浸して戻した乾燥そら豆を鍋に入れ、豆がつかる程度の水を加えて、ときどき湯を足しながら2時間ほど柔らかくなるまで弱火でじっくりと煮込みます。木製のスプーンでグルグルとかき混ぜ、滑らかなピューレ状になれば出来上がり! かつては、ピニャータという壷の形をしたプーリアの伝統的なテラコッタ製鍋にそら豆と水を入れ、暖炉の火で調理していたそうです。
村のレストラン「ラ・ピニャータ」。調理鍋を意味するピニャータが店名になっている
伝統パスタの「チーマ・ディ・ラーバのオレッキエッテ」
もう一つの食材であるチコリも茹でただけという潔いほどシンプル。
連載第2回で紹介した紫色のラディッキオもこのチコリの一種で、南イタリアではチコリといえば葉の色が青いものを指します。プーリア州ではあちらこちらに野生のチコリが生えていたことから、農民たちは乾燥そら豆と野のチコリを合わせて食べるようになったのでしょう。
味付けは塩とオリーブ油だけのこの料理、どんな味かというと……、そら豆のピューレは硬めのマッシュポテトのような質感で、フォークですくって口に頬張ると、もったりとした中にそら豆のほのかな甘みが感じられる優しい味わい。チコリのほろ苦さと相性抜群です。この2つを組み合わせて食べるのは、ただ身近にあったからという訳ではなさそうです。
さて、私がロコロトンドで食事にしたのは、村の外周路に立つ素朴な雰囲気の「ラ・ピニャータ」というレストラン。せっかく南部のプーリア州まで来たのだからと、この地方を代表するパスタ「チーマ・ディ・ラーバのオレッキエッテ」も一緒に頼んだのですが、結局食べきれずに料理を少しずつ残してしまうことに。しかも乾燥そら豆をお土産に買い忘れてしまったのです。久しぶりの楽しい一人旅で、それが唯一の後悔となったのでした。(つづく)
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