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美しいくらし
ニースっ子の南仏観光案内 マイ コートダジュール ツアーズ社長
ルモアンヌ・ステファニー
第14回 ローズの香り漂う“香水の都”【グラース】

 南仏は気候が良いため、昔からオリーブ、ブドウ、柑橘系などが豊かに実りますが、それだけでありません。四季を彩る花もすばらしいのです。1月にミモザが咲き、2月はスミレ、4月は藤、5月はローズ、6月はジャスミン、7月はラベンダーで8月はチュベローズ。ブーゲンビリアはほぼ一年中華やかな色で街を飾り、花がない季節はないと言っていいぐらい。
 コート・ダ・ジュールの中でも特に有名なのがグラースです。アンティーブとカンヌの間に位置するグラースは山の上にあるため、海辺の街とは気候が違います。夏は30度を超えるのに冬は雪が降ることもあり、日照時間が長いので花が元気に育ちます。

 15世紀になめし革工場の発展で豊かになり、16世紀にはフランス国王アンリ2世に嫁いだイタリア人のカトリーヌ・ド・メディチから影響を受け、香りのついた手袋の製造を始めました。この手袋の人気がどんどん高くなって香水の販売量も増え、19世紀には香水の都として世界中に知られるようになったのです。市内には大きい工場が増え、町の周りではさまざまな花が栽培され、20世紀の始めには年間5千トンの花が販売されるようになりました。

 長い伝統と技術が評価され、2018年11月にグラースの香水技術がユネスコの無形世界遺産に登録されました。シャネルN°5に利用されている5月のバラは、今でもこの地で生産されています。グラースのいちばん代表的な花はジャスミンとローズ。近くの町ではスミレやラベンダーも栽培していて、今でもコート・ダ・ジュールは香水の大事な生産地のひとつです。

 香水に興味があるならMIP「国際香水博物館」の見学がおすすめです。1989年に設立された同館では、香水の起源や材料になる植物を実物や写真とともに紹介しています。私がいちばんわくわくするのは香水ボトルのコレクション。子ども時代にミニチュアボトルを集めていたので、ノスタルジックな気持ちになります。
 香水博物館とともにおすすめなのが、グラース旧市街の入り口にある老舗香水店「フラゴナール」のメイン工場です。1階は見学できる工房とショップ、2階には無料の香水博物館が併設されています。メインストリートにもフラゴナールのショップがいくつかあるほか、香料関係のショップもたくさん並んでいます。

 ジェラード屋さんでローズやラベンダーのアイスを食べたり、アンティーク屋さんで古い香水のボトルを買ったり、パン屋さんで地元の名物であるオレンジの花の風味のパンを食べたりすることができて、ずっと花が楽しめます。しかも、町中にいいフレグランスが漂い、夏になると香りのついたミストのシャワーも設置されます。

 今年3月末に久しぶりにグラースの旧市街を散歩したのですが、平日だったので静かで、普段着の街の雰囲気を味わえました。観光が再開したときにツアーのお客さまが喜んでくれる新しい発見がないかと思って観光ガイドの目で探検しようと歩き出したら、メインストリートをすぐ左に曲がって坂をのぼり始めたところで新しいお店が目に入りました。


 シックな正面に目をひかれて近づいてみると、お店の名前はなんと「Comptoir de la Rose(ローズのカウンター)」。グラースといえばバラなので、「今日の発見はここだ !入らなきゃ !」と興奮して早速お店の中に入ってみると、ドアを開けたとたんにローズの優しい香りに包まれました。左側は化粧品コーナーで、右側はグルメコーナー、壁にはたくさんのバラが飾ってあります。

 手にしたいものが多すぎて迷いながら、お店の方に声をかけました。「こんにちは。とてもすてきなお店ですね。初めて見ましたが、最近オープンしたのですか?」「いいえ、数年前からありますが、昨年、旧市街にあるチョコレート屋さんの隣りから引っ越してきたばっかりなんです。おすすめをご紹介しようかしら?」。とてもセクシーで明るいオーナーのステファニーさん。ローズの話をし始めると止まらなくなりました。

 20年前から友達とグラース近辺でさまざまな種類のローズを生産していたステファニーさんは、街の中心部でローズをアピールできる商品を売りたいと考えていたそうです。ところが10年ぐらい前に手術を受けて、ローズ畑にしばらく行けなくなってしまいました。そんなときに友達が自宅にローズを持って来て、「これで何か作ってみてね」と言ってくれたそうです。
 そこで家族や子どもたちとキッチンで遊びながらいろいろと試してみる中で、ペッパーとローズの組み合わせを発見! 皆が感動したこの組み合わせが、すべての始まりだったそうです。それからいろんな種類のローズを入れたはちみつ、塩、ジャム、砂糖や化粧品を作り出していますが、まだまだ新しいアイデアがいっぱい。

 話が長くなってかなり時間が経ってしまったので、そろそろ行かなきゃと思ってあいさつをしたら、「1カ月後にピンクの傘が飾られるの。また見に来てね」とステファニーさんが付け加えました。2年前から始まった「アンブレラスカイ」は、グラースの春を彩るイベント。旧市街の路地にかわいいピンク色の傘がずらりと並んで、青空とのコントラストがきれいです。
 「あら、もう始まるのですか? 1年間があっという間ですね。すごく楽しみだわ ! 完成したら必ず見に来ます」と答えて店を後にしました。

 グラースを訪れた2日後に突然3回目のロックダウンが発表され、しばらく外出できなくなりました。それでも5月3日から移動制限が解除されたので、さっそくグラースのアンブレラスカイを見に行きました。お店は5月19日まで休業なので、残念ながらステファニーさんとは再会できませんでしたが、今年は初めて2種類のピンク色のアンブレラスカイが飾られていて、とても新鮮。
 1年ぶりにバラ色の傘に出会えて、この1年間の苦労が吹き飛んでいった気がしました。(つづく)


★グラースへのアクセス方法
ニースからグラースまでは電車と長距離バスが出ています。電車だとカンヌで乗り継ぐ必要があります。長距離バスで1時間ちょっとかかります。

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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