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ルモアンヌ・ステファニー
第12回 母の日のレストラン【ヴァンス】

 プロヴァンスの光がさすヴァンス。
 サン・ポール・ド・ヴァンスとカーニュ・シュル・メールの間に位置して、周りの高い崖や豊かな自然はとてものどかな風景を描いています。旧市街は城壁に囲まれていて、城塞門をくぐって村の中に入ると石畳の道が迷路を作っていて、まるで中世時代にタイムスリップしたような気持ちになります。「湧き水の村」と呼ばれるヴァンスには噴水もたくさん。穴場的な村で観光客向けのお店は多くなく、サン・ポール・ド・ヴァンスほど物価が高くないおかげで、小さなギャラリーやアトリエもたくさんあります。

 20世紀の始めにその独特な雰囲気が世界中のアーティストのインスピレーションの源になり、スーティンやデュフィが定期的に滞在するようになります。第二次世界大戦後、海岸線の町が猛スピードで発展するのに対し、ヴァンスはのんびり。そのゆっくりとしたペースがアーティストをあらためて引きつけ、シャガールもマチスもほとんど同時期に住み始めました。

 シャガールは1950年にパリから南仏に来て、ヴァンスがすぐに好きになります。この地に住んでいた1966年までの間に、パリ・オペラ座の天井を描いたり、ヴァンスの中心にある教会のモザイクを作成しました。一方、マチスは1943年にニースからヴァンスに移住。1949年にヴァンスから少し離れたところにある現在の「ロザリオ礼拝堂」の模型やステンドグラスの作成を始め、1951年に礼拝堂が完成します。建物の外観の特徴は青い瓦で、中に入ると真っ白な壁とカラフルなステンドグラスが印象的。現在も礼拝堂として利用されていますが、世界中からたくさんの観光客が足を運んでいます。

 ところで、あまり知られていませんが、礼拝堂のすぐそばにすばらしいレストランがあります。その店のことを思い出したのは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で昨年3月から5月11日まで続いたロックダウンがようやく終わったある日。義理のお母さんから電話があって、「せっかくだから、今年の母の日はおいしいところに皆を招待したいの。ステファニーはおいしいところを知っているから、レストランを決めてね?!」と言われたときのことです。

 「どのお店がいいかな?」と考えて思い出したのが、数年前に知り合いのシェフが教えてくれた「Les Bacchanales (レ・バカナール)」でした。ヴァンスで2005年にオープンしたレストランで、2008年にはミシュランの一つ星を獲得、19世紀の一軒家を改装した店舗には野菜畑もあります。海外生活の長いシェフのChristophe Dufau(クリストーフ・デュフー)氏が作り出すクリエイティブで軽やかな料理を、おしゃれだけど緊張しない空間で満喫したことを今でも覚えています。「ここならきっと満足してくれるはず」と思って、さっそく予約を入れました。

 そしてようやく迎えた当日。駐車場に車を止めた途端、大きくて優しいゴールデン・レトリバーが迎えてくれました。エプロン姿のシェフも出て来て「Bonjour, bienvenue?!」と温かい言葉で歓迎してくれます。すっかりリラックスした2人の子どもと夫がレストランの中に入ろうとしたら、「お天気がいいのでテラス席へどうぞ」と案内されました。テラスに設置されたパン窯には火がついていて、段々畑になっている庭には緑が一面に広がっているのが見えます。


 広いテーブルに案内されて座ると、ニワトリの声が聞こえてきました。そしてテーブルの横から登場したのは、なんとペットの子ブタ! 名前はエヴァちゃん。食用ではありません(笑)。かわいらしいエヴァちゃんの顔を見た瞬間、動物の大好きな10歳の長男は天国に来たような顔になって、「ねえ、ママ、庭に行ってニワトリを見てきていい?」と私に聞いてきました。念のためシェフに確認したら「ご自由にどうぞ」と言われたので、家族全員で庭に出て、リラックスした空間を歩きながら義母との久しぶりの再会を喜び、たくさんの会話を楽しみました。

 「久しぶりに来たのですが、料理が変わりましたね」と窯のそばで働くシェフに話しかけたら、「そうなんですよ。長年やっていたけれどガストロノミック料理に飽きたんだよ。それで友達のために料理が作りたくなって、この空間を作りました。これならずっとお客さんと一緒にいられる。この環境が素晴らしいと思いませんか?」と庭を見ながらすてきな笑顔で答えてくれました。


 さて、お楽しみの料理は……料理が来たのでテーブルに戻ると、皆で歓声を上げて感動してしまいました。タパス風の料理にはすべて地元の食材を利用。庭のハーブや野菜を中心にそれ以外は近所のオーガニック生産者から直接仕入れるそうです。卵は庭のニワトリから毎日感謝をしながら取ってきた新鮮なもの。
 南仏の食材ばかりなので、お義母さんも大喜びです。伝統的な味つけが料理のベースにはなりますが、シェフがさらにおいしく仕上げています。私たち大人がニースの伝統的なズッキーニの花の天ぷらやタマネギタルト「ピサラディエール」などを味わっている横で、子どもたちは手打ちパスタを完食。すぐにお代わりを注文しました。

 デザートまですべてがおいしくて、動物たちと庭でたっぷり遊んでいた子どもたちは、「ママ、なんでもっと早くここに連れて来てくれかったの?」と言っていました。私は、ローズの香りがする「ピサラディエール」が今でも忘れられません。家に帰った後も、「また行こう」と皆で言い合いました。

 昨年の秋から再びロックダウンされたフランスでは、10月30日から少なくとも今年5月中旬までは全土のレストランがクローズとなっています(2021年5月19日にテラス席での営業が再開され、レストランでの店内営業は6月3日に再開される予定です)。お店が再びオープンしたら、どこで何を食べようかと夢を見ている人も多いことでしょう。

 そういえば先日、義理のお父さんに「今年は70歳になるので、6月に皆でおいしいところで食事をしたいな。ステファニーはどこかいい店を知っている?」と聞かれ、すぐに「Les Bacchanales」を思い出しました。お店の再オープンを心から願って、家族全員がまた訪れる日を夢見ています。(つづく)

★ヴァンスへのアクセス方法
ヴァンスには駅がないので、路線バスを使わないと行けません。ニース空港やニースの新しいバスターミナルから出ています。所有時間は約40分。


【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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