
シャトーヌフの夕暮れ
寺田 村をめぐり始めたころ、「今日は1日で3つか4つの村を周ろう」と、つい考えてしまいました。でも途中で、一つひとつの村の魅力をじっくり見ていないことに気づいたのです。村の隅々まで見て体験することが大事なのであって、訪れた数ではない。ぜひ時間に余裕を持って周ってもらいたいですね。
マゼンク 私は合計9年、日本に住んでいますが、長く住んでいて感じるのは、日本人はいつも急いでいるということです。せっかく旅行に行っても、出かける前より疲れて帰ってくる。少し長い休み明けには皆、ゾンビのようです(笑)。その点、フランスの村のペースはのんびりしていますから、そういう環境に身を置くことでゆっくりできるし、現代化した都市の暮らし方ではなくフランスの昔ながらの暮らし方に触れるチャンスがあると思います。
寺田 観光とバカンスの違いですね。「バカンス」とは、何もしないという意味ですからね。周ろうと思ったらいくつかの村をめぐれるけれど、あえて無計画でのんびり。それが村を楽しむひとつのコツだと、私も途中から気がつきました。村によっては古城を改築した高級なホテルがあるし、2つ星クラスの民宿のように気軽な宿泊施設がある村もあります。

フィジャックのマルシェで見かけた旬の野菜
マゼンク 滞在すれば、その村の特長がはっきりわかります。民宿も楽しいし、時にはシャトーを選んで少し贅沢に過ごすのもいい。メリハリをつければ楽しみ方も広がります。くどいようですが、とにかくゆっくり楽しんでほしいですね。観光地を見に行くというより、その地方の人たちの生き方、昔ながらの暮らしを体験しにきたという気持ちで来てほしい。時間はかかりますが、その価値はあると思います。大きな町では体験できない多くの出会いが待っていますよ。それに加えて、マニュアル車にもぜひ慣れてください(笑)。
―― 「人は急行列車で走り回っているけれど、何を探しているのか自分でもわからない。忙しそうにぐるぐる回るばかりで……」。フランスの作家で操縦士として数知れぬ旅を続けてきたサン・テグジュペリの『星の王子さま』に出てくる王子の言葉です。子どものころはピンとこなかったこの言葉に「そのとおり!」と、うなずいたあなた、美しい村が待っていますよ! 旅の前にはぜひ、『増補版 フランスの美しい村を歩く』を読んでくださいね。(構成:白田敦子)
【てらだなおこ×ふれでりっく・まぜんく】
【寺田直子】
トラベル・ジャーナリスト。東京都生まれ。日本とオーストラリア・シドニーの旅行会社勤務後、編集プロダクションを経てフリーランスとして独立。これまでに60カ国以上を訪れ、年間150日は国内外のホテルに宿泊している。著書に『ホテルブランド物語』(角川oneテーマ21)、『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)などがある。
【フレデリック・マゼンク】
フランス観光開発機構 在日代表。フランス、ミディー・ピレネー地方ミヨー生まれ。パリ政治学院卒。2000年~2006年フランス政府観光局(当時)日本事務所、2006年~2015年フランス観光開発機構中国事務所勤務を経て、現職。アジア・太平洋・中近東地区統括責任者も兼任している。