寺田 そのようなランクづけがされたところは、観光客を受け入れるための施設が整っていますね。「美しい村」の場合も駐車場やトイレ、観光局、案内所などがあり、英語のパンフレットが用意されている村が多いので初めてでも安心でした。

絶壁にある「鷲の巣村」、グルドン
マゼンク いずれのリストも、入るのはかなり難しいんですよ。整備や維持をするためにそれなりの財源を確保しておく必要があるし、ルールも厳しい。だからこそ、それぞれの村の個性を楽しむ旅はおすすめです。今後は、川の沿岸にある村々をリバークルーズでたどるツアーも提案したいと考えています。フランスでは、バカンスの季節には船を借りて、自転車を乗せて停泊しながらサイクリングを楽しむ人も増えています。2、3時間の訓練を受ければ、なんと免許なしで船が借りられるんですよ。
寺田 キャンピングカーを借りるように、マイボートを借りることができるわけですね。リバークルーズは川沿いの風景が刻々と変わり、飽きないですしね。
マゼンク 日本ではなかなか楽しめない旅の醍醐味です。こういう旅は、いつも忙しく急いでいる人にこそ体験してほしい。あまりにのんびりゆっくりだと調子が狂ってしまうかな(笑)。

世界遺産の大聖堂があるヴェズレー
寺田 いろいろな村を周ると、フランスの歴史をもっと知りたくなってきます。なぜ、ここにローマ時代の遺跡があるのか。なぜ、こんな谷底や絶壁の山頂に村をつくったのか。そうした村々に残っている遺跡や歴史という点をたどっていくと、どんどん線になってきて、フランス全体の歴史が面として浮かび上がってくる。それがわかったとき、村を訪ねるのがものすごく面白くなり、あらためてフランスの歴史の本を読んでみたり、知的好奇心がかき立てられました。
マゼンク それこそ、私たちが望んでいることです。京都でも、なぜあの場所に三十三間堂があるのか、見れば知りたくなるし勉強したくなる。わかったら、再度訪ねる。それと同じでしょう。日本もフランスも歴史の長い国ですからね。
寺田 学校で歴史の勉強をするのは教科書の中だけですが、こうして一つひとつの村とその歴史をたどっていくと、「ああ、これが教科書のあの記述の舞台だったんだ」と肌で感じます。歴史は今に続くという。それに気づいた瞬間の感動は忘れられません。これはぜひ、学生たち若い人にこそ体験してほしいと思います。
マゼンク それが大事です。フランスでは学校教育の場でも村めぐりを取り入れ始めました。バスを借りて生徒たちをテンプル騎士団の村などに連れていく。そこでは、さまざまな出会いもあります。
―― あえて回り道をしたり、ゆっくりワイナリーめぐりをしたりして村人と触れ合う。船を借りてロット川からサン・シル・ラポピーの絶景を見上げる……。「美しい村」をめぐる旅の楽しみ方はたくさんあるようです。最終回では、初めて訪れる日本人のために2人からのアドバイスをもらいました。
【てらだなおこ×ふれでりっく・まぜんく】
【寺田直子】
トラベル・ジャーナリスト。東京都生まれ。日本とオーストラリア・シドニーの旅行会社勤務後、編集プロダクションを経てフリーランスとして独立。これまでに60カ国以上を訪れ、年間150日は国内外のホテルに宿泊している。著書に『ホテルブランド物語』(角川oneテーマ21)、『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)などがある。
【フレデリック・マゼンク】
フランス観光開発機構 在日代表。フランス、ミディー・ピレネー地方ミヨー生まれ。パリ政治学院卒。2000年~2006年フランス政府観光局(当時)日本事務所、2006年~2015年フランス観光開発機構中国事務所勤務を経て、現職。アジア・太平洋・中近東地区統括責任者も兼任している。