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TOKYO銀座めぐり
イラストレーター(文と貼り絵)
きりたにかほり
第3回 空色の街、谷中銀座
JR日暮里駅の北口を出ると、
数年前の記憶よりいくぶん都会的な風景が広がっていました。
わあ、へえ!と感嘆しながら、
今回も銀座めぐりにつきあってくださる編集さんとふたり、
線路の上をまたぐ橋を左に進みます。

さて、連載3回目となる今回は、谷中銀座にやってきました。

最近では根津、千駄木とあわせて「谷根千」と呼ばれ、
歴史、文化の街として散歩にぴったり!と人気の谷中銀座ですが、
メインとなる商店街の全長は170メートルと、意外な短さ。
昔ながらの生活用品店と、観光者向きの店、約70店がないまぜになって続くほか、
その人気に呼応するように、細い脇道にも魅力的な店が加わり、
独自の形での公汎な商店街として栄えています。


歩きはじめてすぐ、にごりだした雲に眉をひそめ、
梅雨の気配を感じながら先を急ぎます。

どうぞそのままステイ曇天。


ご機嫌ナナメな大空と交渉している間に、
大きな道が二股に分かれ、
右手前方、坂道の先に下からのぼるように少しずつ
「谷中ぎんざ」の看板が見えてきました。

なるほど、いよいよここからが本番のようです。


下り始めたこの階段、「夕やけだんだん」と呼ぶそう。
夕方になると、どこからともなく猫たちが集まるほか、
晴れた日は美しい夕焼けが眺められる場所だそうです。


しかし、ざんねん、今はお昼間。
夕焼けはおあずけ。

階段を下り、看板をくぐってすぐの古い飴屋さんで、
散策マップを手に入れました。


隙間なく続く店々の屋根の上や軒先にときどき現れたのは
愛らしい猫のオブジェ。
日常の隙間にアートがたくみに潜んでいて愉快です。

「どうして屋根の上に猫がいるんですか」
オブジェを指差し、お店のご主人に尋ねると
「猫ってほら招き猫っていうでしょ」
と、答えをいただきました。
なるほど!とひざを打ち、
街に漂う独特の気概を感じている間に
よみせ通りに出ました。

谷中銀座のメインストリートはここで終わりです。


「え?」

「そうそう、ここで終わりなんですよー」


驚くわたしを尻目にたのしそうな編集さん。
なにしろ全長170メートル。
マップを手に入れ、そわそわしている間にあっさり歩き終えてしまいました。
せっかくなので、谷中銀座ならではの脇道をめぐりましょう。


細い道をゆっくり歩いていると、
ゆるい上り坂の脇に、小さな空色のお店があらわれました。
通りの看板には「フェアトレードバスケット展」とあります。

店内には、色鮮やかなカゴたちが優雅に重なっていました。
西アフリカの女性の手による物だそうで、どれも丁寧に作られていて美しいです。
ひとしきりカゴを見せていただき、
ふと気づきました。




「あら、ここはスムージーやさんですか?」

「そうですー」

何屋さんかも知らずに訪れたわたしたちのすっとんきょうな質問にも
真摯に答えてくださいます。

ここは、栄養素が豊富として注目のフルーツ、
バオバブを使ったスムージー屋さん、imena。
セネガル産のバオバブ、ネパール産のはちみつをはじめ、
複数の開発途上国で育った元気な素材がたっぷり入っていて、世界を豊かに感じられます。

店内のアルバムでは電気も水道もない中、
現地の方とともにナイジェリアの1号店をつくりあげた当時の様子が
紹介されていました。(現在はお休み中みたいです)
imenaのスムージーはこうした国々の発展につながっているのだそうです。
写真でみるとなんだか実感が湧いてきます。


おいしい相棒を手に入れ、つづく坂道をのぼりましょう。

しかし、あたりはムシムシ。
雲がなんだかそわそわしています。

まだよこのままステイ鈍色。


わたしの相棒はトマト味。
気分までジメジメしてくる梅雨の坂道。
ふわっと香るはちみつがさわやかにしてくれます。
スムージー、君がいてくれてよかった。


しばらく歩いてカップの中身がなくなる頃(さらば相棒)、
「砂時計屋」の看板を発見。
いぶかしみながらそれが指し示す脇道を進むと
赴き深い扉があらわれました。

サブリエ・ド・ヴェリエ。
小さなお店の壁で大小さまざまな砂時計が
さらさら、きらきらと時を奏でています。

美しいです、砂時計が並んでいる光景。


「ブローチ、かわいい」

個性豊かな砂時計たちの陰に隠れていたブローチがなかなかキュート。
直径8センチほど、ハリネズミのような雰囲気のあみぐるみが、
ブローチになっています。

小声でひそひそ話していると

「わたしが作ったんです」

はにかみ笑顔の女性がカウンター越しに説明してくださいました。
いくつかの候補の中から
ひときわキュートなハリネズミを手に入れ(よろしく相棒)、
満足した心地で砂時計屋さんを出ると、
うつろな雲は、世代交代。
外は、ぱらぱら小雨模様。

小さな傘をかしげて、
いい頃合いですね、と、谷中銀座を後にしました。

雨粒のせて、通りの紫陽花が青みを増しているようでした。


今度は、夕やけを見に訪れたいです、にゃあ。



※谷中銀座は、JR山手線、常磐線、都営舎人線、私鉄京成線「日暮里駅」から徒歩5分。営団地下鉄 千代田線「千駄木駅」から徒歩5分


〈次回のTOKYO銀座めぐりは、十条銀座を予定しています。お楽しみに。〉


※きりたにさんのホームページ「たいようのみやこ」
http://taiyonomiyako.com/index.html


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【きりたに・かほり】
1984年秋田県生まれの香川県育ち。熊本県立大学卒業後に上京し、都内制作会社にデザイナーとして勤務。現在は「世界をあたためたい」と絵を描き、関東を中心にイラストの制作や似顔絵屋さんなど行っている。
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