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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
最終回 出茶屋の小屋を作る⑥ 門出
小屋ができて半年が過ぎた。
初めて小屋での年末を迎え、庄司さんと隅々掃除をして「本当によく建ったねえ」と何度も話した。
何もなかったところに小屋が建って、日々営業しているのだ。すごいことだ。


イラスト:平林秀夫
7月上旬、棚を組み立てたり、掃除をしたり、みんなにお手伝いをしてもらうことも最終段階だった。
最後のお昼ごはんは、お蕎麦。自転車で連れ立って食べに行くときには、学園祭が終わるような気分で、寂しさもあった。
保健所の許可も無事通り、ほぼ小屋完成。かかわってくれた人たちみんなに集まってもらって、小屋で打ち上げをした。夏の夜空の下、オリーブ・ガーデンの尾路さんご家族も一緒にみんなと飲むお酒は格別な思いがした。

そして小屋の日常が始まった。
小屋をつくる現場はとても興味深く楽しかったけれど、やっぱり営業を始められてほっとした。珈琲を淹れるのが落ち着くのだ。

小屋を準備しているときから、また開店のお祝いにと、たくさんのものを頂いた。

蚊取り線香入れ、黒板、机、フック、冷蔵庫、扇風機、外灯、エアコン、ハシゴ、ミシン台、などなど。周りをぐるっと見回すと、どれもこれも顔が浮かんでみんなに囲まれているようだ。

みんなの思いが詰まっていて、小屋を一緒に作りあげている。

クッションやひざ掛けも、屋台で使っているものに加えてお客さんのマリさんに作ってもらって、たくさん仕事を増やしてしまった。「こういうのが欲しい」とすぐ相談できる人がいるのはとても助かるし、また頼みたい人がそばにいてくれてうれしい。

実際に営業を始めてから、ここに細い棚が欲しいとか、ドアの閉まりがとか、小さなことがいろいろ出てきて、平林さんに隙間収納を作ってもらったり、ブランキューブの市川さんに修理してもらったりと、面倒をみてもらっている。

小屋の強度は震度8でも大丈夫! と市川さんのお墨付きだ。
それに、雨の日には「やっぱり壁があると濡れないんだ」と屋台との違いにあらためて驚きもした。悪天候のときには、屋台をお休みしても小屋で営業できて助かっている。


庄司さんとカブキガオさん、そして常連さんのお子さん・こっちゃんと、出来上がった看板と一緒に記念撮影
秋には看板もついた。デザインをしてくれたのは、「はけのおいしい朝市」でチラシをデザインしてくれているカブキガオさん。出茶屋とオリーブ・ガーデンのイメージと、カブキガオさんのデザインのこだわり。何度もやりとりをして、出来上がったロゴは、珈琲と、鉄瓶と、人と、オリーブ。そんな輪のようなロゴを描いてくれた。
看板の木の板は、小屋の窓と同じお家からやって来たもの。ひと目見たときに、看板に使いたい! と思ったのだけれど、外にかけるものだし、長く持たせるために防水加工をして、塗料も工夫をしつつも線の雰囲気を出して、とカブキガオさんがいろいろと考えてその板で看板を作ってくれた。
また大雨のときや夜は外せるような取り付け金具を、市川さんが加工して作ってくれた。小屋を開けるとき、店先に看板がかかるとすっと空気が引き締まる。
 

小屋ができた後は、補助金の報告書などの書類関係はとても大変だったけれども、尾路さんに協力してもらってなんとか終わりが見えてきた。
初めてスタッフが増えるから、労働保険のことなど今まで知らなかったことと格闘している。書類に潰されそうになるけれど、一つ一つなんとかやっていくと、新しい世界を知る喜びも生まれるものだ。

そう、小屋ができて、スタッフが増えて思うこと。
昔、圭子と旅したときに感じていたことをふと思い出す。一人で見る景色と二人で見る景色はまた違うものなんだということ。
似た部分もたくさんあるけれど、それぞれの感性や得手不得手もあって、共通のものに向かうときに、足りないところを補うことができて、新しく気づいたり、再確認できることがある。

庄司さんから「夢でつるちゃんに指輪もらったよー」と聞いて、「結婚!?契約!?」と笑ったけれど、ちょっとそんな気分を感じることもある。一人だけでは感じないささやかな責任感と、安心感だ。

そして昔、喫茶店でアルバイトしたときにも感じた「お客さんに、珈琲を淹れること、その対価をいただくということ」から生まれるものがある。庄司さんのお菓子も、みんなに食べてもらえることの喜びや、お客さんからいただくリクエストで、どんどんレパートリーが広がっている。

作りたい気持ちと、そこに誰か相手のいることの大切さ。
やっぱり人はかかわるからこそ面白く、広がっていくものがあるのだと思う。



屋台を初めて出店してから、14年目を迎えている。
小学校の校庭で開催されたイベントから始まって、小金井市内のあちこちのお祭りやイベントで出店させてもらった。定期出店の場所も、ペタルさん、大洋堂さん、dogdecoさん、小金井公園と変化もあり、今も続く平林家、Dozo軒先と、イベントも合わせると市内の端から端まで、小金井各地を屋台で歩いてきた。ずっと小金井市の中を旅しているようだ。
そして、オリーブ・ガーデンさんに小屋ができて、固定の場所があるというのは、安心感があるものなのだなと思った。初めてのお客さんはきっと目指しやすいと思う。本店は「屋台」で移動するのだけれども。

小屋では、炭火で焼くホットサンドや珈琲以外の飲み物のメニューもあって、少しずつ増やしている。庄司さんの北海道のご実家から送ってもらう食材を贅沢に使わせてもらったり、圭子の働くNPOで支援している紅茶を使ったり、出茶屋ならではのおいしいメニューを提供したいと思う。

「屋台」と「小屋」、それぞれ違うのがまた面白いのだけれど、根底に流れるものは変わらなくあって、その日々の瞬間をその場にいる人と共有する喜びが流れていると思う。
どちらも「顔の見える」関係に支えてもらっている。



屋根の緑は、夏の雨でどんどん伸び、紅葉して、今冬を迎えている。小屋の足元のお花は、先日オリーブ・ガーデンさんが冬のお花に植え替えてくれた。
年内の小屋の最終日は、いつもの倍のお客さんが来てくれた。ずっと支えてくれている常連さんも、庄司さんに話しを聞いていてまだ会ったことのなかった、新しく小屋によく来てくれるようになったお客さんたちともお会いすることもできてうれしかった。

オープンのときにいただいた、船の風見を見上げると、力強い風に後押しをもらえるようだ。

これからも、季節を感じながら、そして空の下、来てくれるお客さんの顔を見ながら、末長く出茶屋で珈琲を淹れ続けられるように、また一歩を踏み出していく。

(写真提供:鶴巻麻由子)

――編集部から
 珈琲屋台で日々大切に使っているコーヒーミルやドリッパーのこと。庄司さんという新しい相棒を得て、平林さんや市川さんなど周りの人を巻き込んで始まった、出茶屋の小屋作りのこと。この2つのテーマを約1年にわたって丁寧に綴ってくれた鶴巻さんの連載エッセイが、最終回を迎えました。「出茶屋の指針といえるものは、『かかわること、巻き込むこと』なんじゃないかと思う」と鶴巻さん自身が振り返るように、珈琲屋台を起点にどんどん輪が広がっていくから不思議。人と人との関係性が希薄になる現代社会の生きづらさを解消するヒントが、そこにはたくさん詰まっているようにも思えます。連載が終わってしまうのは寂しいけれど、大丈夫。武蔵野の空の下で、鶴巻さんは今日も丁寧に珈琲を淹れているはずだから。(む)


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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用される。現在は主に市内3カ所に日替わりで出店。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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