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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第8回 出茶屋の小屋を作る? 檜原村

イラスト:平林秀夫
今年の初めから、さてどんな小屋にしようとみんなで盛り上がる日々。平林家で出店しているとき、平林さんの作ってくれたノートにはいろんなイメージが描かれていく。私と庄司さんのサイズをわかりやすくするため? ガンダムと並んでみたり。小屋をイメージした小さな箱を作ったら、空飛ぶ小屋なんて、まるで冗談みたいな話の中から少しずつイメージが固まってくる。

そんな折、平林さんの奥様ちさとさんの親戚が、檜原村で材木屋さんをやっていたのだけれどもうすぐ店を畳むという。平林家でも改装を考えていて、「一緒に木材の相談をしに行く?」と声をかけてもらった。1月の終わり、まずは平林家と庄司さんと檜原村の材木屋さんにごあいさつにうかがうことになった。
ちさとさんの運転で、後部座席につむちゃんを挟んで座ってぬくぬくとお出かけ気分に浸るうちにうとうととしていた。小金井から1時間ほど、気がつくともうあたりは山道。その日の前日、東京西部には雪が降り、山間はまだうっすらと道も白く雪が残っていた。

檜原村の川沿いのお土産屋さんで待ち合わせた高木さん。車を降りるとひやっとした空気に背筋が伸びる。さっそく材木屋さんに向かい、ちさとさんに紹介してもらって、こんなことがやりたいんだというお話をする。それならこんなのがあるよと、どんどん木材を見せてもらう。
山をバックに、たくさんの木が並ぶ材木屋さん。いろんな木を眺めながら木の話をたくさん聞く。その奥にあるのはね、と家宝だという大木ものぞかせてもらった。
専門的なことは私にはさっぱりわからないのだけれど、とにかく木に対する深い愛が伝わってきて、なんともいえないうれしい気持ちになった。

ここの木を使いたい。もう少し形が見えたら相談にくることを伝えて、その日は午後から営業だったので私と庄司さんはとんぼ帰り。JR武蔵五日市駅から先に電車で帰った。武蔵五日市の駅はJR五日市線の終点だから、線路の端っこが見られる。初めて入った駅舎は木がふんだんに使われていて、ホームに上がるエスカレーターもいい匂いがして、木の産地なんだなあとあらためて思う。大きな川と山と、サマーランドの観覧車。車窓に流れる景色もたまらなくよかった。


檜原村がとてもいいところだったので、出茶屋のみんなとも一緒に行きたくなった。小屋作りはお客さんにも間近で見てもらいたかったこともあり、まだちゃんとした図面は出来上がってはなかったけれど、3月に観光も兼ねて行くことにした。

車3台で檜原村へ到着。建築事務所ブランキューブの市川さんと電話をつないで、高木さんと小屋に使う木材のだいたいのめどを話してもらう。平林さんも改装の話を聞く。山と川を眺めながらのその時間はとても気持ちのいいものだ。
そして、ちさとさんから聞いていた、昔からよくバーベキューをして採りたての野菜を食べたんだ、という河原へ行くことに。親戚のお宅に車を停めさせてもらい、目の前の河原におりていく。ごあいさつでちらっとうかがったけれど、高木さんたちが建てたという叔母さんの家は本当に素晴らしい日本家屋。窓は昔の波打つガラスで、木で作るってやっぱりすごくいいと感動した。
河原でのんびりとカレーを食べて、払沢の滝を歩き、おいしい豆腐屋さんのおからドーナツを食べて帰ってきた。

檜原村の材木への思いが高まった中、市川さんと平林さんにも加わってもらって、どんな小屋にするかミーティングを進める。私なりに細かくイメージするために方眼紙で作ってみた小屋。ちさとさんにこれプロに見せるの? と苦笑いされながらも……。紙で作った庄司さんもキッチンに立たせてみたり……。
正直、私は小屋っていうとざっくり、壁っぺら1枚なんてくらいに思っていたから、どんなふうに小屋が建っていくのか想像もできなくて、話について行くのが大変だった。今回小屋が建つのを間近で見て、建物っていうのは壁1枚なんてそういうことではできないんだって初めて知った。


市川さんの会社のスタッフだった林さんから、古い窓があるのだけど、という話を聞いて見せてもらうことになった。それがやっぱりいい窓で、ぜひにと使わせてもらうことに。
林さんからは、かなり昔のものだし窓として使うのではなくて、そのままはめ込んだりとアクセントに使ったほうがいいかもしれないと聞く。平林さんからは窓の壁なんてアイデアもあるのでは? なんて話も出て、あれこれと考えた。でもやっぱり「窓」として使いたい。

予算をはじめ現実的に制約はあるけれど、まずは「やりたい」を前面に考えてみた。

・木製であること。
・古い窓を使うこと。
・夢の屋根緑化をすること。

檜原村へ3度目に行ったのは、市川さんと平林さんと3人で。いよいよ市川さんに作ってもらった図面を見ながら、使う木材を決めていく。高木さんと市川さん、プロ同士の話はどんどんと進む。それを横で一生懸命聞いていたのだけれど、もや、いんご、けた、まばしら……、もう言葉が頭の中をぐるぐると回る。
ヒノキと杉の使い方の違いや、年輪を見て木の反っていく方向を判断することとか、45cm間隔に柱を建てることの大切さ、とか少しだけ理解できたのも後になってからだ。

そして、使いたい窓も持って行って高木さんに見てもらった。古い窓は一つ一つ歪みもあって、サイズも微妙に違う。窓に合わせて職人さんに窓枠を作ってもらうことになった。


5月。さて、小屋作りが始まるとなっても、その材木たちに取りかかる前にやることがたくさんあるんだ。
次回は基礎作りの見学から。いよいよ工事スタート!

* * * * * * * * * *


小屋で使った木材は、ほぼすべて檜原村から来たもの。
いざ工事が始まってみると、高木さんに何度足を運んでもらったことか。

檜原村から帰るとき、小金井を出るとき、高木さんはいつも話してくれた。
「また檜原に遊びに来てください。」
あの河原に、またみんなでバーベーキューに、そして、高木さんに会いに行きたい。
小屋作りから檜原村に縁がつながったのが、またうれしい。


(写真提供:鶴巻麻由子)


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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用。火鉢と鉄瓶で小金井の井戸水を沸かし、道行く人に1杯ずつ丁寧に淹れた珈琲を飲ませる「珈琲屋台 出茶屋」を始める。現在は小金井市内で、「珈琲屋台」「丸田ストアー焙煎所」「出茶屋の小屋」の3つの形で営業中。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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