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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第9回 出茶屋の小屋を作る④ 職人さん

イラスト:平林秀夫
5月の頭、オリーブ・ガーデンさんの店内は春から初夏の花で色とりどりにあふれる。スケジュールを相談して、14日の母の日が終わってから工事に取りかかることになった。 5月11日、屋台でのオリーブ・ガーデン出店最終日は、ここに来ることが終わるわけではないけれど、11年続いた屋台での景色が変わることにちょっと寂しさもあって、たくさんの人が駆けつけてくれた。景色が変わると、今までどうだったかなかなか思い出さなくなるけれど、写真を見ると、懐かしさとあたたかい気持ちがしっかりと残る。
最終日のにぎわいの余韻にひたりながら、屋台で通ったこの場所に小屋が建つことが、まだ夢のようだった。

小屋作りは、建築事務所ブランキューブの市川さんにお願いして、ほぼ全行程を間近で見させてもらった。
そして、整理や片づけがメーンだけれど、できるところはお手伝いをさせてもらおうと企んでいた。
いよいよ作業初日はオリーブ・ガーデンさんのお手伝いから。小屋を作ると同時に、オリーブさんの改装もする。今まで敷いていた枕木が虫食いもあって中がふかふかになり、ぐらぐらしているところもあったからだ。それをはがして、虫の出ない擬木を敷くことになった。

すべての作業を進めるためには、まずは片づけから。常連さんに集まってもらい、重たい土や肥料を一気に運ぶ。ひとりふたりではとても時間がかかることも、みんなでリレーで運ぶと早いこと。枕木を外し、地ならしをする。足でふみふみするとなんだかテンションも上がっていって面白かった。
職人さんがきて、砂利を敷いて、水平器を使い平らにしていき、擬木をデザインに沿って敷き詰めていく。仕上げに細かい砂を間に詰めて、水を撒けば動かない。なるほど。

床の改装が進むと、いよいよ小屋の位置が見えてくる。大体の枠組みを決めたら、まず最初に来てもらったのは、水道屋さんだ。

オリーブ・ガーデンさんには井戸があって、震災用の井戸にも指定されている。水やりに使っている水は井戸水だ。井戸水は通年温度が変わらないから、夏は冷たくて、冬は温かく感じる。オリーブさんが水やりをした後のお花は、いつもうれしそうに見えてとても元気だ。

出茶屋は、小金井の井戸水を汲んで、炭火と鉄瓶で沸かしている。お湯の味がとてもまろやかになって白湯もおいしい。小屋でもその味を出したい。オリーブさんの井戸水が使えたら、と井戸水を検査に出した。1週間ほど待って、食品衛生の項目のオッケーが出た。オリーブさんの井戸から分岐して、小屋へ引っ張ってもらう。蛇口から井戸水が出るなんて夢のようだ。

新しく水の道を引っ張るのはやっぱり大変ことなんだと、職人さんの姿を見て思う。
水道屋さんは、見た感じはけっこうなおじいちゃんだった。
しばらくして年齢を聞くと「同じくらいかな」なんて笑いながらのお返事。最後まで歳は教えてもらえなかったけれど、お孫さんがもう20歳を過ぎてるという。

いざ仕事が始まると、そばで手を出したくても、そんなことはできない雰囲気が漂う。
シャベルを持ったときの力強いことったらない。細くて深い穴を掘っていく。上水の菅、下水の菅をピピッとつなげっていってあっという間に水道施設ができあがった。

土の中の配管が終わったら基礎工事。いよいよ後戻りできないという実感が湧いてくる。
市川さんがもう一度採寸して、板で囲って基礎の準備をしてくれる。コンクリートを流す枠作りだ。

職人さんは一人。小さいサイズということで、なんと手びねりというのか、ミキサー車とかを使わずコンクリートを作る作業が始まった。
よりによってその日は灼熱。きつい日差しの中、ドラム缶のようなものの中に、セメントと砂利と水を入れて少しずつコンクリートを作っては、シャベルで運んでならしていく。コンクリートは混ぜると意外にすぐ固まってしまうらしいので、少量ずつ作ってはシャベルで運ぶの繰り返しだった。横長の板をトントンとたたいて平にして行く様の格好いいこと。

全面を敷き詰めたら、固まるのを待って、さらにその上から少しずつコンクリートを敷いて水平に整えていく。灼熱の中、早朝から昼過ぎまで、その作業を繰り返していて、本当にありがたかった。横でじっと作業を見させてもらってやりにくかったかもしれないけれど、見ることができてよかった。基礎作りから後は数日待って、周りの囲いを取ったら完成だ。
基礎が完成するとその上でイメージも広がる。庄司さんが、ここが窓で、ここが流しで、とシミュレーションを始めると、お手伝いにきてくれていたマヤちゃんが「珈琲ください」と架空の小屋ごっこが続いてかわいかった。

そこからいよいよ市川さんの指示のもと、基礎の上に小屋が建っていく。
高木さんに必要な木材をそのつど檜原村から運んでもらう。
土台を作り、柱を立てる。四角い骨格ができたらレーザーで水平を取り、固定する。この水平がとても大事なのだそうだ。小さな箱から出てきた、初めて見るレーザーの機械は、スターウォーズのR2-D2みたいな姿をして、赤い線がピーッと伸びて格好よく、そしてかわいい。
窓の位置決めはちょっと緊張した。古い窓に合わせて、建具屋さんに作ってもらった窓枠。あらためてシミュレーションをして、窓の高さ、場所を決める。

屋根がつくと一気に建物感が増す。屋根をつけるころには梅雨がそろそろ近づいていて、本格的な雨が降る前に屋根をつけようと、小雨の降る中も決行した作業は、滑ったり支えたりとドラマもあった。

間柱をたて、屋根がつき、外壁ができる。基礎と外壁の間に、外から水が入ってこないように水切りをつける。防水シートを全面に撒いて、その上に仕上げの外板を打ち付けるための横板をつける。間柱の位置が45cm間隔で通っていることが肝心だ。L字に加工された木材を小屋の四つ角につけ、仕上げの壁材を打っていく。
外壁ができた後に内壁だ。石膏ボードを貼り、ネジの部分にパテを塗ってやすりで平にする。
電気屋さんに来てもらってコンセントの位置を決める。

そして、いよいよ色を塗る。色は屋台と同じ系統で赤と緑が基本だ。小屋の中は明るいレモンのお菓子のような色。色決めのときにもまたびっくりすることがあったのだけれど、この話はまた別の機会に。

こうして、だんだん仕上げに近づいてくる。
小屋の床のタイルを貼って、壁の足元にはぐるっと巾木をつける。再度水道屋さんに来てもらい、ついに蛇口から井戸水が出るようになった。

基礎工事から約ひと月半。この作業を間近で体感できたことは、かけがえのないものだった。
ひとつひとつの細かい作業工程は、なかなかうまく説明できないから、フォトブックを作ろうと思っている。みんなの思いのこもった小屋と合わせて、見に来てほしい。

壁の厚みは、柱と内側と外側の板の分だけあることがわかった。それぞれの職人さんの技を間近で見て、ひとつひとつの作業にプロの技があることに感動した。
線にも幅があってその内側と外側では寸法が全然違うこと、扇風機のついたヘルメット、知らないことばかりだった。

全部の作業を通して、とにかくよく使っていた道具は「メジャー」と、L字の定規。今まで存在は知っていたけど、使ったことがなかったこのL字の定規の名前は「差し金」。あまり実生活で使わないけれど、「誰のさしがねだ!」なんて台詞に出てくるのは、これなんだと妙に感動したり。

とにかく暑かった6月、7月。ありがたいことに、何か手伝うよといってくれた人たちがたくさん来てくれた。みんなの得意分野を見ることができてとてもうれしく、そしてみんなで食べたアイスがおいしかった。

次はいよいよ屋根緑化、完成まであとひと息。

(写真提供:鶴巻麻由子)


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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用される。現在は主に市内3カ所に日替わりで出店。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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