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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第1回 コーヒーミル
 今日も屋台を引いて、出店場所に出発。屋台には、ギュウギュウにお店の道具が詰まっている。数ある珈琲道具の中から、縁あって出茶屋で使うことになった物たち。屋台から取り出す「道具」のことを話していこう。

イラスト:平林秀夫
コーヒーミルとは、コーヒー豆を粉に挽く道具だ。豆を入れて、挽いて、受け皿に粉になって出てくる。
豆を挽くときにはいい匂いが広がり、挽き立てのお豆を使うと淹れるときによく膨らんでおいしい。コーヒーミルは欠かせない。

出茶屋で使っているミルは、ドイツのザッセンハウスのもの。
神保町の喫茶店で働いているとき、マスターの平松さんにいろいろな自家焙煎の珈琲豆屋さんを回ってみたら、とアドバイスをもらった。お店の人に教えてもらったり、本を読んだり、珈琲好きな人たちに聞いて買ったのがこれだ。

一般的に手挽きのコーヒーミルは、四角くて卓上に置いて使うものが多い。出茶屋で使っているミルは、ザッセンハウスの『サンティアゴ』という品名のもので、長方形の箱になっていて、膝上に挟みやすいようにくぼみがある。座って、膝の上あたりに挟んで使う。初めてそう聞いたときにはびっくりしたけれど、「ニーミル」と呼ぶタイプがあるようだ。でも、ザッセンハウスのこれしか見当たらない。
運ぶのに小ぶりでよいし、しっかり膝で挟むと安定して挽きやすい。
ザッセンハウスのミルはとにかく早く挽ける。豆を潰すのではく、刃でカットして挽く。出茶屋では注文ごとに豆を挽くので、この早さにはとても助けられている。 挽くたびにカリカリと気持ちよい音と、いい香りが広がって心地よい。

お祭りのときなど、まずお手伝いをお願いするのは、ミルで豆を挽いてもらうことだ。いつもぐるぐるぐるぐる、ひたすら豆を挽いてもらっていて、お客さんもその姿に驚くほど。
よく手伝ってもらう涼子ちゃんは、常連さんの川口さんに“ミルねえさん”と呼ばれてる。一度、腱鞘炎ぽくなってしまったときには焦ったけれど、すぐに治って安心した。

手挽きで豆を挽いていると、子どもたちからも注文の的になる。子どもたちも自分でやってみたい様子。自宅にミルがある人は、親子で一緒に挽いたり、子どもが挽く担当になったりしているようだ。
私が子どものころは、父のインスタントコーヒーを作る役だった。お湯で溶かすだけ。でも、自分の分も牛乳とお砂糖をたくさん入れて作らせてもらってうれしかった。大人と同じものを飲みたいものなんだろう。

撮影:街道健太
手挽きのミルでもう一つお勧めしているのは、フランスのプジョーのもの。
プジョーと聞くと「車」を思い出す人も多いと思うけれど、ミルの中ではいちばん歴史が古いそうだ。
プジョーのミルの刃もカットするタイプなので、安定して挽ける。机に置いて挽くタイプで、ザッセンハウスに比べると時間はかかるのだけれど、良いところは、豆の挽き具合を固定できることだ。

どちらも細挽きから粗挽きまで挽くことができるのだけれど、ザッセンハウスのミルは挽き具合を固定できないので、感覚をつかむのが少し大変かもしれない。慣れてくると、重たいと細かすぎるんだとか、煎りの深さで軽くなったりとか、挽く感覚で豆の感じがつかめるようになるから面白い。
もう一つ、家にある手挽きのミルは大きなハンドルのついたどっしりと重たいミル。これは出番を待っている。大きなハンドルが挽きやすいのはリヤカーも同じで、大きな車輪だと引くのが楽だから、いつか人力車も試しに引いてみたいと思ってる。

電動のミルも、ダイヤルのついた挽き具合を調整できるものがおすすめ。
自宅で使っているのはフジローヤルの「みるっこ」。よく喫茶店などで見る形のミニサイズだけど安定感もあり、挽き具合もよい。自宅でお店気分も楽しめる。もう少し気軽なものだと、カリタのナイスカットミル。雑貨屋さんや電気屋さんでも見かけるものだ。

2004年に出茶屋を始めたときから使っているザッセンハウス。買うときに、親子2代で使っている話も聞いた。あまりに職人気質だったからなのか、2006年に一度潰れてしまった。日本でも大人気のコーヒーミルだと思うので、復活するまで、珈琲屋さんや古道具屋さん、ネットオークションなどでもたくさんの人が買い求めて、昔のロゴのザッセンハウスは今ではほとんど見つけられない。沖縄のアンティーク屋さんで見つけたことがあるから、旅先でもとりあえず昔のザッセンハウスのミルを探してみる。

ザッセンハウスのミル――私の手元には、買ったもの、譲り受けたもの、昔のもの、新しいもの、合わせて4台あったところに最近もう1台増えた。

家庭で使う頻度ではそうそう壊れるものではないと思う。よくあるのは引き出しの取っ手が外れること。取っ手は、はまっているだけなので経験のある人が多いと思う。あとは、引き出しの面が取れたり、底が外れたり。お客さんの行っている楽器屋さんで直してもらったりしていたのだけれど、どれもまたちょっとだけ壊れたり、直し途中のものだったりと、ここ数年は1台のミルで過ごしていた。
それが9月、なんとぐるぐる回している持ち手の部分が外れてしまった! これは初めてのことで、丸い持ち手がないとなんとも回しにくいこと……。大きなイベントも控えていて、手伝ってくれる涼子ちゃんたちの顔が浮かび、急遽1台新しいのを買った。

写真提供:鶴巻麻由子
この間、快調に豆を挽いていると、「あれ? ミル新しくなりました?」と言うお客さんが。壊れてしまったことを伝えると、一応持ってきてくださいとのこと。そのお客さんは、今年4月からの週末の出店先「仕立てとお話し処DOZO」のご近所さん。出店初めのころ、自転車のカギを失くしてしまって途方にくれていたところ、DOZOの大家さんが「それならこの人に」と紹介してくれた。暗い中、頑丈なカギを外してくれて新しいカギまでくれて、救世主のようだった。2台のミルを預けると、1週間後、かわいくなって帰ってきた。(写真)
持ち手も直り、よく外れる取っ手の部分はネジで固定するものにしてくれた。
自分では怖くて分解できなかったミル。でも定期的に外して掃除しないと、と教えてくれた。
本当にさまざまな分野で得意な人がいて助かる。「持ちつ持たれつですから」と言ってくれたけれど、返せるのかな。
教えてもらったことを大事に、メンテナンス(頼りつつ)しながら、使っていかないと。
まずは、とにかく屋台から落とさないこと! を肝に銘じてミルを挽く。


【「珈琲屋台 出茶屋」のホームページアドレス】
http://www.de-cha-ya.com/

【平林さんのお絵かき教室のホームページアドレス】
http://kyklopsketch.jimdo.com/


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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用。火鉢と鉄瓶で小金井の井戸水を沸かし、道行く人に1杯ずつ丁寧に淹れた珈琲を飲ませる「珈琲屋台 出茶屋」を始める。現在は小金井市内で、「珈琲屋台」「丸田ストアー焙煎所」「出茶屋の小屋」の3つの形で営業中。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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