× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第3回 コーヒーポット
豆を挽いて、ドッリッパーにセットして、お湯を注ぐ。
お湯を注ぐときに使うのがコーヒーポット。ミル、ドリッパーに続いて、このコーヒーポットも珈琲を淹れるのにとても大切な道具だ。

言葉で説明するのは難しいのだけれど、出茶屋の珈琲の淹れ方を少し書くと、1投目。細くお湯を注ぐというよりそっと置くようなイメージで、挽いた豆の中央からペーパーを塗らさない程度に、500円玉強くらいの円になるように淹れる。珈琲豆のモコモコとした膨らみが落ち着いたころに、真ん中から少しずつ、少しずつお湯を注いでいく。この1投目のお湯の注ぎ方と蒸らしで味の核がほとんど決まる。
というと緊張するけれど、気を注ぎながらも力を抜いて、タイミングよく一定量でお湯を注ぐ。

イラスト:平林秀夫
こんなふうに、特に最初はとても繊細な注ぎ方が重要になる。そして注ぎやすさはコーヒーポットでずいぶん変わるのだ。
注ぎ口の先が細くないとうまくいかないし、急須のように注ぎ口が短いものも珈琲を淹れるのには向かない。細くて長い注ぎ口が必要だ。
その中でも、私がおすすめする形は、注ぎ口は細くて、根元が太くなってるもの。

難しいところなのだけれど、最初から最後まで細く淹れたい場合は、根元から細くて長い注ぎ口のほうが扱いやすく、濃いめの珈琲にはこちらが向いてるかもしれない。
コーヒーポットの形は、淹れたい珈琲の味とも関係してくる。

前回のドリッパーと同様、軽い珈琲から濃い目のものまで、いろんな淹れ方をしたい、そんなときにはこの根元の太いものが淹れやすいと思う。
根元が太いと、斜めにしたときにお湯がいったん溜まって、最初のお湯の出方が飛び出しにくいので淹れやすい。それと、細くだけではなく、太めにもお湯が注げて、注ぎ方を調整しやすいからだ。

出茶屋で使っているのは、新潟県燕市のステンレスメーカーYUKIWAのコーヒーポットM-5。神保町の喫茶店で使っていたころから慣れ親しんでいる形だ。
細くから太くまで自在にお湯を注げて、いろんな淹れ方ができる。注ぎ口もベロのように下の部分が少し長いので、お湯が出るところが調整しやすい。
喫茶店で使われていることも多く、1投目を細く淹れやすいように、さらに先をペンチで細くしている人も多い。

コーヒーポットのサイズは700cc〜800ccくらいのもので、7、8分目までお湯を入れて使うのが、注ぎやすいと思う。これ以上小さいと、1杯淹れるのにもお湯を足さないといけなくて、淹れるのに角度もつけることになるから余計難しい。これ以上大きいと、重すぎて安定して持っていられないからだ。
最初のお湯の出方の目安にもなるので、1杯でも2杯でも、同じ分量のお湯をポットに入れる。お茶と一緒で、お湯が沸騰したてで熱すぎるとうまく抽出できないので、まずお湯が沸いたらポットに移して、ひと息冷ます間に豆やカップを用意して器具を温めた後、珈琲を淹れるくらいがちょうどいいだろう。

珈琲道具、どれもそんなに壊れるものではないけれど、一気にそろえるのはなかなか勇気のいるお値段。まず手軽に手に入れられるものの中では、月兎印の琺瑯のコーヒーポットがおすすめ。注ぎ口の形が淹れやすくて、いろんな色もあってかわいい。雑貨屋さんなどでも見かけるので、買いやすいのも助かる。

写真提供:鶴巻麻由子
器具がそろうと、珈琲を淹れるテンションも上がるもの。
自宅で使っているのは、10年ほど前に骨董屋さんのおじいちゃん、山下さんが小金井を離れる前にくれたカリタの銅製コーヒーポット。注ぎ口が細身でこちらもすごく淹れやすい。家で日々使っていたら骨董のような佇まいになってきて、「珈琲屋なら銅」と笑った山下さんの顔も思い出す。

日々付き合うものだから、気にいったもの、持ちやすいものを選んで珈琲のお供にしてほしい。

出茶屋の珈琲教室の生徒さんを思い浮かべると、コーヒーポットがまだなくて、先が細くなってるヤカンを使っている人も多い。ヤカンで淹れるのは重くて大変だろうと思うけれど、そのおかげか、みんなかなり筋肉がついていて、コーヒーポットを使うと、すぐに慣れて一定量でお湯が注げる人が多い。とても淹れやすくなるんじゃないかと思う。

一定のお湯の量を保ちながら淹れることはけっこう筋肉がいるのだけれど、コーヒー筋肉は肘から手首のあたりだと思うので、筋トレというよりも、毎日珈琲を淹れることが、おいしい味に近づくいちばんの近道だと思う。
毎日淹れていると、その日の気候や気分による味の違いに気がつくかもしれない。朝の時間、ひと息入れたいとき、甘いものを食べたいとき、淹れたい味もそのつど変えてみてもいい。また、ときには自分以外の誰かのために淹れることも、気持ちを込めて、集中して淹れるために重要なことだと思う。

珈琲教室では、まずアドバイスなしにいつもどおりの珈琲を淹れてもらう。
やっぱり面白いと思うのは、同じ豆でも一人ひとり淹れ方で味が全然違うということ。ちょっとしたコツでぐっとみんなが同じ味の方向へと近づくのだけれど、やはり最後までその人の味が出る。


自分で珈琲を淹れる、機械ではないから出る味。
人に淹れてもらったコーヒーの味。その空間。
それもコーヒーを飲む醍醐味のひとつだと思う。



【「珈琲屋台 出茶屋」のホームページアドレス】
http://www.de-cha-ya.com/

【平林さんのお絵かき教室のホームページアドレス】
http://kyklopsketch.jimdo.com/

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『今日も珈琲日和』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。WEB連載「今日も珈琲日和」はこちらをご覧ください。

ページの先頭へもどる
【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用。火鉢と鉄瓶で小金井の井戸水を沸かし、道行く人に1杯ずつ丁寧に淹れた珈琲を飲ませる「珈琲屋台 出茶屋」を始める。現在は小金井市内で、「珈琲屋台」「丸田ストアー焙煎所」「出茶屋の小屋」の3つの形で営業中。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
新刊案内