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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第6回 出茶屋の小屋を作る
2年前、オリーブ・ガーデンに出店中のある夏の日。その日はうだるような暑さで、誰もいない昼下がりに蚊取り線香を焚いた火鉢の側で客席に座り、ぼんやり青い空を見上げていた。
暑い、もう少しこの暑さをどうにかできないか。そのとき、ふと頭に浮かんだ「小屋」の影。

イラスト:平林秀夫
「もしここに小屋があったら……」。いろいろできることがある。膨らむ妄想。いやしかし、それはさすがに図々しすぎるのではないか。でも直感を大切に生きてきて、今ここに屋台がある。
「小屋」と「屋台」。半年寝かせてやはりこの熱がふつふつと続くようなら、オリーブ・ガーデンさんに相談してみようと思った。


出茶屋が定期出店を始めたのは2005年の11月、武蔵小金井の前原坂途中のペタルさんと楽さんの前から。その約1カ月後、12月のクリスマスのころから始まったのが東小金井のオリーブ・ガーデンさんでの出店だ。
始めたときは、先のことなんて考えられなかった。日々、屋台を引くというのがどういうことなのか、やってみなければわからいことだらけだったからだ。
店の軒先をお借りして、少しずつ時間を重ねていって、それから11年半、ほぼ毎週屋台を引いて通い続けることができた。
振り返ると、出茶屋の指針といえるものは、「かかわること、巻き込むこと」なんじゃないかと思う。始めたばかりの出茶屋を、知り合ったばかりで迎い入れてくれたオリーブ・ガーデンさん。13年目の新しい展開は、やっぱりここからスタートしたい、と勝手な筋を通して思った。
小屋のこと、図々しいけれど、聞いてみたい。


話は変わるが、庄司さんと出会ったのは2004年12月、出茶屋2度目のお祭り出店のときだ。喫茶店で働いているから、という理由で初対面なのに、まだ慣れずにてんてこ舞いの出茶屋を手伝ってくれた。後日、その喫茶店にあらためてあいさつに行き、それから大きなお祭りのときや週末の忙しいときなど、手伝ってもらってもう12年になる。
小屋が頭に浮かんだ夏の日の後、我慢できずに庄司さんに話してみた。いい感触だった。フルタイムで喫茶店で働いていたから、どれくらいやってもらえるかわからなかったけれど、小屋を一緒にやりたいと思っていた。

それからしばらく、小屋のことを心の片隅で考え続けた。
後から後から、小屋をやる理由も浮かんでくる。

出茶屋は珈琲の屋台だ。屋台が好きで続けたいと思っている。
「小屋」を作るということで、「屋台」を長く続けられるようにしたい。おかげさまで12年、お店を開けて閉じ、炭火でお湯を沸かし珈琲を淹れて、好きなことをやっている。
日々の営業でいちばんしんどいことは、屋台を引くことだ。これも嫌いなわけではないが、やはりきつい。慣れで楽になる部分はもちろんあるけれど、歳を重ねるごとに体にこたえる日が正直増えた。
屋台を引く日を少し減らしたら、体の負担も減るだろう。

そして「小屋」と「屋台」を一緒にやるということは、一人ではできないことだ。
長年一人でやってきたこともあり、スタッフを増やすというのは未知の領域。庄司さんんと二人でやってお互いに生きていくことができるのか、不安はあるけれど、出茶屋の新しいステージだ。
庄司さんにがっちりかかわってもらうことで、出茶屋ももっと面白くなるだろう。「小屋」ではキッチンの許可を取って、小屋ならではのメニューも出せるようにしたい。
二人になったからこそ、できることをやりたいと思った。



こうしてオリーブ・ガーデンさんと話し合いを重ねて、小屋を作ることを現実的に考えていくことになったのが1年ほど前になる。

その間に出茶屋の小金井公園出店が終わり、新しい出店場所のDozo軒先が始まった。「仕立てとおはなし処Dozo」のことは、またあらためめて紹介したい。人が人を呼ぶのか、玉川上水と小金井公園の間、関野町の地場にいろんな人が集まってくる。Dozoのすぐ近くにあった、長いこと放っておかれていた民家をリノベーションして建築事務所ができた。この後、すごくお世話になることになる。



そんな折、庄司さんが長く勤めていた小金井の老舗の喫茶店ペリーヌが閉店した。
いよいよ小屋作りを急ピッチで進めるときがやってきたのだけれども、余力は何もない。友人から話を聞いていた商工会の補助金にチャレンジすることを決めた。


平林家の庭でもちらほら話していた「小屋」の話。現実に作ることを平林さんご夫婦に話した。それなら、と紹介してもらったのが、ちさとさんの親戚の檜原村にある材木屋さん。近く店を畳まれるそうで、相談に乗ってくれるかもしれないと教えてもらった。平林家も改装を考えていて、「我が家で使う分の材木だけだと少量すぎて手間をかけてしまうから遠慮していたけれど、つるちゃんも小屋を作るなら、一緒にお願いしてみようか」と話をしてくれた。

平林家のお庭では、お絵描き帳に私のイメージを平林さんが描いてくれたりと、楽しい妄想が始まった。方眼紙で小屋の形も作ってみた。

そして、かもめの本棚で書いていた珈琲道具のこと。連載第5回でひと通り書き終わるかなと思っていたところに、編集さんから「引き続き、小屋の話を書きませんか?」というお話をもらった。

タイミング、なんだ。


先日のオリーブ・ガーデン屋台での出店最終日。長くお世話になった見慣れた風景に、たくさんの人が来てくれた。オリーブ・ガーデンさんと、足を運んでくれるお客さんと、かかわってくれる人たちに、深い感謝を込めて、これから小屋を作っていく。

(写真提供:鶴巻麻由子)


【「珈琲屋台 出茶屋」のホームページアドレス】
http://www.de-cha-ya.com/

【平林さんのお絵かき教室のホームページアドレス】
http://kyklopsketch.jimdo.com/

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『今日も珈琲日和』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。WEB連載「今日も珈琲日和」はこちらをご覧ください。

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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用。火鉢と鉄瓶で小金井の井戸水を沸かし、道行く人に1杯ずつ丁寧に淹れた珈琲を飲ませる「珈琲屋台 出茶屋」を始める。現在は小金井市内で、「珈琲屋台」「丸田ストアー焙煎所」「出茶屋の小屋」の3つの形で営業中。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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