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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第10回 出茶屋の小屋を作る? 屋根緑化
JR中央線、武蔵境駅からもうすぐ三鷹駅へ着くあたりの車窓から、遠くに見えてていつも気になる屋根があった。
草がフサフサしている屋根が見えるのだ。屋根に芝生が植わっているように見えて、電車からチラッと眺めるだけでもとてもいい感じで好きだった。
あとでジブリ美術館やスタジオジブリのオフィスが入っている建物だと聞いて「なるほど、さすがだなぁ」と思っていた。

平林家の庭で屋台を出店しているときには、赤瀬川原平さんのニラハウスや、藤森照信さんのタンポポハウスの話が出てきたこともあった。実物は見たことないけれど、もうその響きからしてステキな感じがした。

イラスト:平林秀夫
屋根の草は憧れだった。

オリーブ・ガーデンに小屋を建てる。花屋の軒先にある小屋の屋根が草花でフサフサしていたらどんなにかいいだろう。それに夏は涼しくなるはずだ。

一体どうやったら屋根に草を生やすことができるのか、全然わからなかったけれど、ブランキューブの市川さんに相談してみた。スタッフの林さんが資料をたくさん出してくれる。さまざまなやり方が出てくる。キッドも販売されているようだ。防水を徹底的にすれば、どうにかなりそうかという話になった。

オリーブ・ガーデンさんに相談すると、屋上緑化用の軽い土などがあるそうで確かにステキだけれど、枯らすわけにはいかないし……と、日当たり、水はけ、どんな植物なら可能なのかと、いろいろと考えてくれた。

ちなみに、オリーブ・ガーデンの隣にはスタジオジブリがあって、そこに定期的に来ている植木屋さんがいる。屋上緑化をやっているだろうと、オリーブさんが聞いてくれた。すると「草屋」と呼ばれる三鷹の建物の屋根も、その植木屋さんがやったそうで、相談に乗ってくれた。
ちょうどトラックにいくつか道具も積んでいて、実物を見せながら説明してくれた。
まず防水加工をした屋根に、卵のパックを広げたようなでこぼこしたパネル(?)を敷く。この通気が大事だそうだ。その上に専用の不燃布のシートを敷いて、屋上緑化用の岩石から作った人工の土を敷けば、どんな植物を植えても大丈夫だそうだ。
一式をロールで買うと大変だからと、小屋のサイズ分だけ小分けして販売してくれることになった。心強い話を聞いて、憧れが現実に考えられるようになった。


色塗りを残して小屋がほとんど完成したら、最後の工程は屋根だ。屋根に板の縁をつけ、斜めの箱のような形を作って、下辺に水が抜ける穴を開けておく。
市川さんが「とにかく防水は完璧に」と、職人さんに来てもらって防水の塗料を塗ることになっていた。これは晴れの日が続かないとできないと言うのでお天気を待ちつつ、先に壁の色塗りに取りかかろうとしていた。

出茶屋カラーの赤と緑。屋台は好きなりんごと緑と砂漠の色だ。小屋も同系の色にしたい。
今回塗料でお世話になったのは、以前屋台の箱を作り替えたときに小金井の古道具屋さんautiques-educoさんに紹介してもらって、お世話になった株式会社エビナの佐藤さん。佐藤さんの人柄も好きで、今回も相談させてもらった。屋台の箱はオスモカラーという自然塗料を使ってとてもよかったので、小屋の壁もオスモカラーを使うことにした。そのとき使った「日本の色」というシリーズから選んだ色と同じものは今はなさそうなこと、また外壁には向かないということで、外壁用のオスモカラーの中から選ぶことにした。色の選択肢が少なかったこともあって、緑と白を混ぜて使うことにした。

塗料も届き、いよいよ塗ろうと準備を進めていたとき、お隣のジブリさんの宮崎駿監督が立ち寄って「どんな色にするの?」と話しかけてくれた。建造物が好きだそうで、木造で古い木の窓枠を使ってと、建っていく様子をときおり見ていたそうだ。
次の日、「監督はこんな色がお勧めです」と緑色のイメージの紙をスタッフの方が持って来てくれて仰天した。私は子どものころから繰り返し『風の谷のナウシカ』を観て育ってきたし、みんなの思いのこもった建物を気にかけてくれていたことがうれしかった。

しかし正直、もう塗料は買ってしまった・・・。オスモはちょっといいお値段がすることもあるし無駄にはできない。でも確かに、最初の予定の緑と白だけだと、屋台の緑の感じよりは青っぽい感じになりそうだった。
監督のイメージどおりの色ではないけれど、ヒントをいただいて、エビナの佐藤さんに相談してもう一色オスモの茶系を混ぜて使うことにした。
版画を刷る仕事をしていた平林さん、庄司さんも昔ディズニーシーができるときに色塗りをしていたこともあって頼もしい。みんなであれこれ配合を考えて、いい緑を作ることができた。



そしていよいよ防水だ。7月は台風が来たり、なかなか晴れの日が続かなくて、決行日が伸びたりしたけれど、晴れの日をピンポイントに職人さんが来てくれて、大きな扇風機で乾かしながら防水塗料を塗ってくれた。

屋根の縁の外側を赤に塗ったら、板金屋さんが縁の蓋をしてくれるように板金をかぶせてくれた。市川さんもこれで防水は完璧とのことで、雨が降ってもひと安心。
板金屋さんが雨樋もつけてくれた。水が出るところは深い穴を掘って、そこに大きな砂利を敷き詰め、水が地面に入っていくようにする。

屋根の縁と雨樋は白色だった。それも赤と緑に塗る予定だったのだけれど、塗ると重たい感じになりそうだし、そのままでもいいのではないかとみんなから相談があった。
様子を見に来てくれた駿さんに庄司さんがその話をしてみると「雨樋は白だったということ、それもまた運命だと思って」とアドバイス? をくれたそうだ。
とりあえず縁と雨樋はそのままの色で進んでみることにした。

こうして、ようやく屋根の上に土を入れるときがやってきた。真珠岩からできているという屋根用の土は軽量で保水性が高く、同時に良好な排水性も備えているそう。軽いといっても大きな土の袋を10袋近く屋根の上へ敷くのは、けっこう大変な作業だ。

全部を敷き終わったら、そこに水を撒いて土を落ち着かせる。初めて穴から水が出て、雨樋を通って下からチョロチョロと出てくる瞬間を皆で見守った。

1週間ほどして、いよいよオリーブ・ガーデンさんが植え込みをやってくれた。
まず苔を植えて、セレクトしてくれた草花を植えていく。小さな山を作るのがポイントだそうだ。
高低差が出てくるように、また屋根の縁からふわっとかかるように育っていくのを楽しみに。

小屋の側面に沿って足元にも草花を植えてくれた。
今は白い雨樋にツタがよく育って、くるくると巻いていてかわいい。白に緑が映えてとてもきれいだ。

夢の屋根緑化。
本当にいろんな方のおかげで実現することができた。

どこからか飛んできて生えてきた雑草も花を咲かせたりして面白い。
雨の日も晴れの日も、屋根の植物たちはすくすくと伸びている。


(写真提供:鶴巻麻由子)


【「珈琲屋台 出茶屋」のホームページアドレス】
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【平林さんのお絵かき教室のホームページアドレス】
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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用。火鉢と鉄瓶で小金井の井戸水を沸かし、道行く人に1杯ずつ丁寧に淹れた珈琲を飲ませる「珈琲屋台 出茶屋」を始める。現在は小金井市内で、「珈琲屋台」「丸田ストアー焙煎所」「出茶屋の小屋」の3つの形で営業中。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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