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美しいくらし
珈琲道具を屋台に積んで 「珈琲屋台 出茶屋」店主
鶴巻麻由子
第4回 珈琲豆
ミル、ドリッパー、コーヒーポットに続いて、道具ではないけれど、これがないと始まらないもの、それは「珈琲豆」だ。
道具をそろえたら、おいしい珈琲を淹れたい。
おいしい珈琲を淹れるには、おいしい豆に出会うこと。
豆に出会ったらおいしく淹れるコツを得て、日々淹れることの積み重ねだ。

珈琲のはなしをしていると、珈琲が飲みたくなって台所に立つ。
豆を挽いたとき、なんていい香りがするんだろう。
ドリップするとき、モコモコとふくらむお豆が気持がいい。
飲んだとき、ほっと息をつく。

撮影:街道健太
コーヒーの起源は諸説あるけれども、1000年ほど前にエチオピアでコーヒーの実を食べることから始まって、焙煎してコーヒーを飲むようになって500年。日本に入って来て200年。
嗜好品なれど、長い間私たちの日常に深く入り込んでいるものだ。
世界のコーヒーは、「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道付近、南回帰線と北回帰線の間の熱帯地域の中で、降水量が多い場所で栽培されるのがほとんどだ。
珈琲豆とは、コーヒーの木からできた種を果肉と種皮を取り除いたもの。手摘みや機械で収穫。機械が入らず手摘みしかできないところもある。収穫後、果肉を取り除く製法もいくつかあって、そのまま天日干しのナチュラル、水で洗い流すウォッシュド、それらを混ぜたものも。
コーヒーの木の品種は、エチオピア原産のアラビカ種、さらにティピカ、ブルボン、ゲイシャなどに分かれて、飲む珈琲の中でアラビカ種が多くを占める。苦味が強いので、ブレンドによく使われるロブスタ種も2大品種の一つだ。
コーヒー豆につけられる名前には、国名、地域名、港名、農園名、山の名前に品種や製法などを組み合わせたりして、さまざまな名前がついている。

そのいろんな種類のお豆を「焙煎」するのが焙煎士さんの仕事。コーヒーの味はこの「焙煎」がとてもキーになる。
出茶屋で使っているお豆は、前回の連載でも紹介した「香七絵」さんの焙煎。
豆の水分を飛ばし、繊維がふっくらと広がるように焙煎する。

コーヒーはいろんな香りがする。
生豆のときは青くさい匂い、それを焙煎するときは、水分が抜けていく独特な匂い。パチパチとはぜて、コーヒー豆が焼きあがる。このハゼから何秒で焼き上げるかで、煎りの深さが決まる。
焙煎してすぐはあまり匂いがしなくて、数時間立つと香りが立ってくる。香七絵さんの豆を持ち帰るとき、ぎゅっと抱きしめてその匂いに埋もれたくなる。
豆を挽くと広がる香り、淹れるときの香り、豆や焙煎度合によってその香りも少しずつ違う。そして飲むときに鼻を通る香りもたまらない。
いい焙煎の豆をおいしく淹れたコーヒーは、冷めてもおいしい。冷めたほうが味がわかるもの。そして飲み終わったあと、カップの残り香もまたいい。そこにお湯をちょっと注ぐと、香りがまたパッと広がっておいしい。

先日も香七絵さんの話を聞いていて、やはりタイミングなんだなあと思った。焙煎も時間をかければよいものでもなく、もちろん時間を適度にかけずに生焼けのものはダメで、時間をかけすぎても中で死んでしまうという。

コーヒーの淹れ方もタイミングが大事。いかに気持ちよくお豆が呼吸をするように淹れると、まろやかな珈琲は喉をトロッと抜けていく。そしてこのドリップのときのふくらみも、鮮度のいい豆でないとふくらまない。
鮮度というのは、焙煎されてからの日数だ。焙煎した直後はガスが出て、よくふくらむけど香りも味もあまり出ないので、焙煎した翌日から飲み始めて1週間くらいで飲みきる。100g買って毎日淹れて、だいたい1週間でなくなるからちょうどいいと思う。
上手に焙煎されたものは1カ月経ってもゆっくりふくらむし、おいしい。煎りの深さや、季節によっても変わってくるのでいろいろ試しても面白いけれど、酸化した豆は胃もたれすることもあるし、やはりよくふくらんだほうが淹れるのも楽しいから、なるべく最小単位で早く飲みきり、豆屋さんに通うのがおすすめだ。
焙煎は焼いた人の個性が出るという持論がある。人それぞれに好きな味、相性もあると思う。自家焙煎のお店に実際に足を運んでお豆を選んでほしい。顔を合わせて、焙煎した人の話を聞いて、珈琲を淹れると、豆に対する気持ちも深まる。

水、豆、道具、挽き方、温度、淹れ方、その日の天気や飲む場所などなど、味の違いは千差万別。
出茶屋で使っているお水は小金井の井戸水を使っていて、炭火と鉄瓶と相性がとてもよい。鉄瓶とお水の話はまた別のお話。はてしない物語のように、どれをとってもコーヒーの世界が広がっていって尽きない。


イラスト:平林秀夫




生産地からいろんな人の手を通ってやってきた大切な豆なのだけれど、豆を挽くとき、準備や片づけのとき、落としてしまうことがある。
子どもの目線からだと特によく見えるのかもしれない。落とした瞬間、子どもたちの目がきらりと光る。落ちた! と教えてくれたり、拾いに来てくれたり、けっこう素早い。

平林家のお庭を屋台が出て行ったあと、つむちゃんが庭に落ちているコーヒー豆を拾っているそうだ。次の出店のときに椅子に豆塚のように並んでることも。また、どろんこで作ったケーキの上に乗ってチョコレートケーキのようになっていたこともある。
踏んで砕いたり、いろいろ試しているようだ。

屋台がいなくなったあと、落ちてるお豆でつむちゃんの世界はどんなふうに広がっているのだろうと思う。



【「珈琲屋台 出茶屋」のホームページアドレス】
http://www.de-cha-ya.com/

【平林さんのお絵かき教室のホームページアドレス】
http://kyklopsketch.jimdo.com/

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『今日も珈琲日和』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。WEB連載「今日も珈琲日和」はこちらをご覧ください。


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【つるまき・まゆこ】
1979年千葉県生まれ。2004年に東京都小金井市に移り住む。同年、小金井市商工会が主催する「こがねい夢プラン支援事業」に応募し、珈琲屋台のプランが採用される。現在は主に市内3カ所に日替わりで出店。詳細は「珈琲屋台 出茶屋」のホームページを参照。
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