第2回 新旧隣り合わせの町に息づく江戸の心意気【後編】
国の重要文化財に指定されている東京・日本橋
日本橋はこの数年、大規模な商業施設がいくつもオープンするなど再開発が目覚ましいエリアの一つです。近代的なビルが立ち並ぶ大通りから一歩裏手に入ると、昔の風情をたたえた建物が佇み、新旧のコントラストが印象的です。この町に生まれ育った店主・村松毅さんは、江戸から東京への変遷についてどう感じているのでしょうか?
橋の中央部に立つ麒麟像。力強さと威厳を感じさせる
今も人々の心のシンボル“日本橋” 昔の面影がなくなってしまったとはいえ、この町を象徴するシンボルといえば、やはり“日本橋”ですね。今は橋といっても道路の一部のように見えるので、上を通る高速道路を“日本橋”だと勘違いする人もいるそうですが(笑)。
橋全体を眺めるなら、下からのアングルがおすすめです。橋の四隅にある階段から川辺までおりると、アーチ橋の構造や欄干の装飾、重厚な石像彫刻などを観賞できます。夜、ライトアップされた時期に行くと、とても幻想的ですし、船に乗って川面から見上げるのもなかなかの迫力です。ぜひ、いろいろな角度からご覧になってみてください。
“日本橋”を起点に町歩きするのも楽しいですよ。大通り沿いは新しく建ったビルが並び、そぞろ歩きをするという風情はありませんが、一本裏に入ると、時代を物語る建物を意外とすぐに発見できます。
横から見ると、アーチ状になった橋の全形よくわかる
少し歩くと、趣のある古い空間を生かしたバーやイタリアンなど、女性好みのおしゃれな店もあって、同じエリアの中で昔と今が調和する不思議な感覚が味わえます。こんな雰囲気も日本橋という町の魅力ですね。
時代の波が押し寄せても、伝統を守る 世界でも有数の人口過密都市だった江戸で、日本橋は商業の一大中心地でした。明治になってからも日本銀行本店が置かれ、日本初のデパートがオープンするなど、ビジネスの中心として大いににぎわってきた町です。現代では、日本各地のアンテナショップが開店したり、大手デベロッパーによる再開発も進んだりと、今も変貌し続けています。
一方で、江戸の情緒を今に伝える町並みを守ろうとする取り組みも盛んです。“東京”になって約150年。この町に暮らす人は時代の移り変わりの中で、新しいものを積極的に取り入れながらも、江戸につながる心意気を大事にしてきました。伝統と新しい文化が混在する町。見方によっては、面白く変化している町だといえるのかもしれませんね。
蒲鉾、玉子焼、椎茸、湯葉、海老をおかめの顔に見立てた”おかめそば”。具材の一つひとつにも伝統の味を受け継いだ逸品
(構成:小田中雅子)
【取材を終えて】
「長く続けていれば“老舗”といわれるけれど、『ここを直さなきゃだめだな』とか『こうしたらよいのでは?』と思うことも多々。古典のほうにウエイトを置きながら、それ以外のプラスアルファの部分で試行錯誤を続けています」。老舗といえば、「昔ながら」「伝統」「敷居が高い」というイメージが先行していた私ですが、店主・村松さんの言葉に、老舗は「決して古いままではない」という強い意思を感じました。時代に対応して変わろうと努力する。その姿勢こそが、老舗の極意(!)。味や技の伝承には、創意工夫が必要なのかもしれません。取材に訪れたのは開店の1時間半前。店の中ではすでにお客さんを迎える準備が始まっていました。庭木の手入れ、店内の拭き掃除、季節の花のあしらいなど、隅々までゆき届いたおもてなしの心にも、老舗「室町砂場」の極意があるように思います。
次回は、馬肉料理専門の「桜なべ 中江」を訪ねます。江戸時代に日本最大の遊郭としてにぎわった「吉原」と、東京の郷土料理「桜鍋」のエピソードとは? 店主・中江白志さんに聞きました。(H)