海の再生・保全に取り組む三陸ボランティアダイバーズでは、次世代の人材育成にも力を入れています。取材当日も、“クマさん”こと佐藤さんが講習会を開く越喜来湾(大船渡市三陸町)には、各地から若者たちがスキューバダイビング(以下、ダイビング)を学びにやって来ていました。――今日ダイビングの講習を受けている皆さんはほとんどが学生で、いちばん若い方は15歳と聞いて驚きました。九州や関東など全国各地から参加されているそうですね。 ここでは藻場再生の手法を実践的に学びながら、ダイビングのライセンスを取得します。10日間ずつ3回、計30日間の日程で、ダイビングをしたり漁業体験をしたりといろいろな形で海にふれてもらう内容になっています。春と夏にこうしたプログラムを開催していて、年間50人ほどが参加しています。

藻場再生を学ぶ“ダイバーの卵”の皆さん。浜辺で潜水の準備中

装備を整え、いざ海へ

クマさんの先導で徐々に海へと潜っていく
――皆さんに参加理由を聞くと「海が好き」「地域づくりに興味がある」「新しいことに挑戦してみたかった」など、その答えはさまざまでした。全国にダイビングスポットがある中で、ダイバーの皆さんは何を求めて三陸の海にやってくるのでしょう。
「潜水中」の赤い旗が風になびく越喜来湾
一般的にレジャーダイビングはきれいな海の景色を楽しむことを目的にしますが、ここで行うのは「積極的に海と関わるダイビング」。種をまき、苗を植え、自分の手で海を変えていく。そんな“水中活動家”になれる海なのです。
たった1センチのコンブの種をロープに挟んでおくだけで、半年後に再び訪れた時には5メートルにも育っている。そこには貝類から甲殻類までのいろいろな生き物が付いていて、魚も集まってきて、餌にもするし、すみかにもする。命がどんどん増えていく。そこに自分自身が携われるという海は、ほかにはそうありません。
ウニ丼や海鮮丼を食べるときにも、そのウニやアワビが実は自分が種をまいて育てた海藻を食べて育ったものだったりするわけです。この時期に種をまいて、違う時期に来たら海の森を見ることができて、また違う時期に来たらそこに魚が集まっていて……というふうに、命の循環をこの目で見て、実感できる。それが三陸のダイビングの醍醐味です。
――まさに“海を耕す”体験ができるのですね。 藻場の再生は海洋生態系に蓄積された炭素、ブルーカーボンの問題にも直結します。海を媒介にして実にいろいろなことに関わっていけるのです。現在水産庁でも、海や漁村における地域資源を活用して地域のにぎわいや雇用創出を目指す「海業」という事業を推進しています。今年3月に全国12カ所のモデル地区が発表され、その一つに岩手県大槌町が選ばれました。モデル事業では磯焼け対策で駆除したウニの活用や、観光協会や地域おこし協力隊との連携による藻場再生ダイビング、小中高生に向けた海洋学習などに取り組んでいく予定です。

クマさんの出前授業に参加する子どもたち。ウニや海藻に興味津々(写真提供:佐藤寛志)
私自身も小中学校や高校、大学などで出前授業を実施しています。面白いのが、私たちが行う海の清掃やがれきの引き上げなどを、地元の子どもたちが学習発表の劇で演じてくれることがあるんですよ。漁師役の子もいて「なんだ密漁者かぁ~!?」みたいな(笑)。海の活動に関心を持っていない親御さんも、子どもが演じるとなるとビデオを回して熱心に見てくれます。
――佐藤さんが初めて三陸の海に潜ったのが2003年。20年前と比べて、今の海にどのような印象を持っていますか? 変わったと感じるのは、人が関わりやすくなったこと。人の気配が感じられる海になったように思います。命を育む豊かな里海を取り戻し、守っていくためには、これから先も海を耕し続ける必要があります。だからこそ未来の海の活動家を育て、三陸の海での体験を、地元の海で何ができるのかを考えるきっかけにしてほしいと思います。
海の中は見えませんから、SNSなどでの情報発信も積極的に行っています。まず知ってもらうことが一番大切。もっと海のことを知り、なにより海を楽しんでほしいと思っています。さまざまな形で海に関わる人が増えてくれたらうれしいですね。(おわり)
――三陸の海には、震災の傷跡とともにさらなる未来へと歩み続ける人たちの姿がありました。人と自然が共生する里海は、たくさんの人が関わり、つながることで今に紡がれています。たとえ海と縁遠い暮らしでも、海の中の世界にほんの少し目を向けてみる。それが小さな海の活動家としての第一歩になるのかもしれません。(構成:寺崎靖子)
【NPO法人三陸ボランティアダイバーズ】ホームページアドレス
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