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美しいくらし
海のヒーローがつなぐ里海の未来 三陸ボランティアダイバーズ 代表
佐藤寛志
第3回 漁師とダイバーがつくる新たな浜の文化
 かつては犬猿の仲だったという漁師とダイバー。三陸の海では、震災からの復興を通じて両者の間に新しい関係性が生まれました。

――震災の翌月から海の清掃をスタートし、被災各地にその活動を広げていかれたそうですが、当初は地元の漁師から怪しまれたこともあったとか……。

 もともと漁師には「ダイバー=密漁者」というイメージがあり、漁師とダイバーはなにかと摩擦が起こりやすい関係でした。これは三陸に限らず、全国的にいえることです。ウエットスーツを着て海に入った瞬間に軽トラックがワーッと来て「ここで何をやっているんだ」と漁協に連れて行かれたり、警察に通報されたりすることは普通にありました。海外ではそういったことはなかったので、日本特有の事情だと思います。実際に密漁者も多いので、ぱっと見て見分けがつきにくいダイバーを警戒するのも仕方がないのですよね。

――がれき撤去に貢献したダイバーの活動が、漁師との関係性を変えていくきっかけになったのですね。

 私たちの活動が漁師同士のネットワークで伝わって「うちの漁港にも来てくれ」と、どんどん広がっていきました。海の中のがれきにロープをかけたり、手作業で回収したりする作業はダイバーでなければできませんし、海中で何が起こっているか、実際に潜らないとわからないことも少なくありません。それを理解してもらえたことが大きかったと思います。こちらからも飛び込み営業のように「こういう活動をしている者なのですが」と漁港の代表者に声をかけ、「じゃあやってみよう」と漁師とタッグを組んで清掃を始めることもありました。震災後約5年間にわたり、北は岩手県の宮古から南は宮城県の石巻まで、各地の漁港や河川で水中清掃や生態調査などを行いました。

“クマさん”こと佐藤寛志さん(写真:寺崎靖子)

 長く付き合ううちに、漁師たちとは自然と顔なじみになり、漁船に乗せてもらって一緒に水揚げをしたり、カキやホタテの養殖を手伝ったりするようになりました。ダイバーとして海の再生に取り組むうえでも、漁業の現場を知ることは非常に重要です。親交を深める中で、漁師が「こんなことをやってみないか」と提案してくれたり、逆にこちらから提案したりして一緒に海について考えることが当たり前になっていきました。
 こうして交流し、助け合うことで意識が大きく変わり、以前に比べて三陸の海が外に向かって開かれたように感じます。とはいえ、漁港に初対面の人が突然やって来て「ここの海でビジネスをさせてください」と言ってもそれは難しい。やはり長く活動をともにすることで築かれた信頼関係が大切なのだと思います。

――浜の光景も変わりましたか?

海の環境を守るため、漁業者、ダイバー、自治体など、さまざまな人たちが連携し活動を続ける

 三陸にはもともとスキューバダイビングの文化がそれほどなく、ダイバーも少なかったのですが、震災から3年ほどたったころ、地元の方から「ダイビングがしたい」という声が聞かれるようになりました。漁師の中にも海で活動するボランティアダイバーの姿を見て「自分もやってみたい、やらなくては」という気持ちが湧いた人がいたようです。一緒にがれきの引き上げをしていた漁師が「免許を取りたい」と来てくれたこともありました。ほかにも、漁船のプロペラにロープが絡むことがあるため、船に1~2人は潜れる人が欲しいと思っていたようで、「うちの若い子の面倒見てくれ」と頼まれたりすることも。私のところでこれまでに30人ほどの漁師がダイビングの免許を取得しました。初めて海に潜った漁師からは「海の上から見るのとは違う世界が広がっている!」といった驚きの声が聞かれます。

 反対に、ダイバーから漁師になった人たちもいるんですよ。一緒に海で活動する中で漁業体験のようなことをするうちに「体験するだけでなく、助けたい、手伝いたい」と思うようになり、移住してきた方もいれば、ダイビングをして漁もする半分漁師のような方もたくさんいます。

 ダイバーの視点を持った漁師と、漁師の視点を持ったダイバー。お互いの文化が混ざって新しい文化が生まれていることが面白いですね。先ほど(第1回)お話したようなダイビング用品の進化もあって、今では冬場でも三陸の海にたくさんのダイバーが潜るようになりました。震災前は考えられなかったことです。

――「自分たちの海は自分たちで守る」という郷土愛も感じます。震災のボランティアを機に始まった海の再生活動も、今では地元住民が主体となっているそうですね。

 チームでタッグを組まなければ、自然災害からの復旧に取り組むことはできません。さらに今は気候変動などの影響で全国的に海がやせてきていて、漁業に深刻な打撃を与えています。その対策においてもダイバーが貢献できることがたくさんあります。だからこそ日ごろから関係性を構築して、地元で助け合えるチームをつくっておくことが重要だと感じます。(つづく)

――ダイバーと漁師のつながりは、海の未来を考えるうえでも大きな意味を持っているようです。次回は新たな課題に直面する三陸の海の今について聞きます。

(写真提供:佐藤寛志、構成:寺崎靖子)

【NPO法人三陸ボランティアダイバーズ】ホームページアドレス
https://sanrikuvd.org/
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【さとう・ひろし】
岩手県花巻市生まれ。ダイビングインストラクター。NPO法人三陸ボランティアダイバーズ代表。タイやマーシャルの海でダイビングインストラクターとして活躍したのち、東日本大震災を機に帰国。2011年4月に「三陸ボランティアダイバーズ」を結成、同年10月にNPO法人化し、国内外のダイバーとともに約5年にわたり海中のがれき撤去に取り組む。現在は磯焼け対策など藻場再生を目指すほか、海洋環境保護に関わる人材育成にも尽力。第1回「環境省グッドライフアワード最優秀賞」受賞(2014年)、第4回「エルトゥールル号からの恩返し 日本復興の光大賞18」受賞(2018年)。
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