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美しいくらし
海のヒーローがつなぐ里海の未来 三陸ボランティアダイバーズ 代表
佐藤寛志
第1回 三陸の海の中
 2023年1月、アメリカの著名なダイビング雑誌の月間アワード「Sea Heroes(海のヒーロー)」に初めて日本人が選出されました。選ばれたのは、東日本大震災で海に流出したがれきの撤去や、藻場の再生といった海の保全活動が評価された岩手県出身のダイバー・佐藤寛志さん。スキューバダイビング(以下、ダイビング)のインストラクターとして世界の海に潜った経験を持ち、大きな体から“クマさん”の愛称で親しまれる、強くて優しい海のヒーローです。海洋汚染や海の環境変化が深刻化する今、「海は耕すもの」と語る佐藤さんに、豊かな里海を未来につなぐ取り組みについて聞きました。

――ダイビングというと沖縄などの暖かい地域で盛んなアクティビティを思い浮かべるのですが、東北の海はそうしたイメージから少し遠くに感じてしまいます。東北の海はダイバーにとってどのような位置づけなのでしょう。

活動場所の越喜来湾(岩手・三陸町)で話を聞かせてくれた佐藤寛志さん(写真:寺崎靖子)

 東北の海は、南国の海とは違った生き物や景色と出会うことができる魅力的な環境です。しかしながら、ダイビングスポットとしては長くマイナーな存在でした。水温が低い海に潜るには専用の装備が必要で、より高いスキルも求められるので、寒冷地や冬場の海でのダイビングは難易度が上がります。三陸は漁業や養殖が盛んなこともあり、以前は夏場の一時期にダイバーの姿を見かける程度でした。
 年間を通して幅広いダイバーを受け入れられるという点で、暖かい地域の方がダイビング文化が根づきやすかったのだと思いますが、昨今ではダイビング器材の進化によって季節や地域を問わず楽しめるようになりました。

――ダイバーのキャリアは20年以上、どういったきっかけでこの世界に入ったのですか?

 子どものころから海水浴などでよく海には行っていたのですが、若いころは海より山の方が好きで、海外で登山をしたり遺跡を巡ったりとバックパッカーのはしりのようなことをしていました。東南アジアに行ったとき、一緒に旅をしていた友人が「ダイビングもすごく面白いよ」と教えてくれて、潜りに行ったのがタイの海。海に入った瞬間、色鮮やかなサンゴや魚が彩る光景に圧倒されました。なにより命の数がすごいんです。何万匹、何十万匹という魚がいて、群れの上に群れがいて、その上にまた群れがいて……。「ものすごい世界だな」と感動して、1年後にはプロのライセンスを取得していました。

――海の中の美しさに魅了されて世界中の海を潜っていた佐藤さんが、三陸の海に出会ったのは2003年ごろだそうですね。 

 ダイビングを始めてしばらく経ち、「地元の海はどうなっているのだろう」と知りたくなったのです。潜ってみると、三陸の海の中には、それまで潜ってきたサンゴの海とは全く違う世界がありました。そこはまさに命を育む“おいしい海”。コンブやワカメ、アマモなどの海藻類が生い茂る海の森が広がっています。藻場は貝類や魚類の餌場になり、豊かな海の生態系をつくり出します。緑や茶色の海藻の中にたくさんの生き物がいる光景は新鮮で、海外にはない面白さを感じたのです。
 この海を一人でも多くの方に知ってほしいという思いから、2006年ごろからは親戚の漁師を通じて、サケの遡上を観察するサーモンスイムツアーも開催しました。

海藻類が豊かに茂る三陸の海

海の森にはさまざまな生き物が集まる


――サンゴ礁が広がる海とはまた違った、三陸ならではの海の魅力があるのですね。

 近年は保温力の高いウエットスーツが普及し、冷たい海に潜るハードルが下がったことで、冬場の三陸の海でもたくさんのダイバーの姿が見られるようになりました。装備の進化だけでなく、震災後に変化したダイバーと漁師の関係性も、潜りやすい環境を整えられるようになった要因です。私たちの活動を知った他の寒冷地でも季節を問わずダイビングをPRするようになり、ダイバー業界全体が変わってきたと感じています。(つづく)

――ダイバーを惹きつける三陸の海。そこにはダイビングの新しい価値を見いだすさまざまな可能性が潜んでいました。第2回はそのきっかけとなった東日本大震災での活動について聞きます。

(写真提供:佐藤寛志、構成:寺崎靖子)

【NPO法人三陸ボランティアダイバーズ】ホームページアドレス
https://sanrikuvd.org/
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【さとう・ひろし】
岩手県花巻市生まれ。ダイビングインストラクター。NPO法人三陸ボランティアダイバーズ代表。タイやマーシャルの海でダイビングインストラクターとして活躍したのち、東日本大震災を機に帰国。2011年4月に「三陸ボランティアダイバーズ」を結成、同年10月にNPO法人化し、国内外のダイバーとともに約5年にわたり海中のがれき撤去に取り組む。現在は磯焼け対策など藻場再生を目指すほか、海洋環境保護に関わる人材育成にも尽力。第1回「環境省グッドライフアワード最優秀賞」受賞(2014年)、第4回「エルトゥールル号からの恩返し 日本復興の光大賞18」受賞(2018年)。
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