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美しいくらし
ジョージアで出会ったモノとコト モデル・定住旅行家
ERIKO
第4回 人びとの暮らしの中にある“詩”

ジョージア語で書かれた古い書物

 「ი ო წ」
 突然ですが、皆さんはこのような文字を見たり、使ったりしたことがあるでしょうか。今でこそ携帯メールのスタンプや絵文字は数えきれないほどの種類がありますが、ひと昔前までは、上記の文字(ი ო წ)などを組み合わせて絵文字を表現した時期がありました。実はこの絵文字にひと役買っていたのが、ジョージア語です。
 丸みを帯びた可愛らしい印象のジョージア文字は、紀元400年ごろに聖人メスロプ・マシュトツによって表記体系が発案されました。かつて中東の国際語であった古代アラム語のアラム文字体系と、イランのパーレビ文字体系が元になっているといわれています。古い歴史を持つこのジョージア文字は、今に至るまでジョージア人の精神を支える柱のような存在でもあります。

 アジアとヨーロッパの十字路として古くから栄えたジョージアは、その土地柄からオスマン帝国、ペルシャ帝国、ソビエト連邦などの近隣国から幾度となく侵略を受け、支配されるという戦いの歴史を繰り返してきたことは、新刊『ジョージア旅暮らし20景』でも触れました。
 領土が極小になってしまった時代、人びとがジョージア人としてのアイデンティティを失わなかった背景には、ジョージア語があったのです。人びとはジョージア語で詩や物語を語り継ぐことで、自分たちのアイデンティティを守り抜きました。彼らはどんなに領土が奪われていったとしても、言語さえ守り続ければ、民族の血は息絶えないことを深く理解していたのだと思います。それは「国衰えて文化あり」というジョージア語のことわざにも表されています。

伝統的な宴会「スプラ」

 この自分たちの言葉を大切にするという文化習慣は、ジョージア人の現代の暮らしの中でも出会うことができました。その一つが、詩を詠むことです。ジョージアの伝統的な宴会「スプラ」では、タマダと呼ばれる司会者を中心に一人一人が演説などを行うのですが、その際に詩も多く詠まれます。多くの人びとが集まる特別な機会でなくとも、一般的な家庭の日常の食事で乾杯をするときにも、詩を詠みます。その場に居合わせる子どもたちも、幼いころから大人たちの詩を聞いて育つため、自然に詩を詠むことが身についていくのだそうです。

 ジョージアの東部、ワインの一大産地であるカヘティ地方に滞在をしていたとき、村唯一の小学校の入学式に立ち会う機会に恵まれました。大勢の大人たちに囲まれながら、緊張とうれしさが入り混じった表情をした子どもたちは、新しい洋服に身を包んで照れ臭そうに整列しています。校長先生からの祝辞が終わると突然、新入生が一人ずつ前へ出てマイクを持ち、大きな声で詩を詠みあげだしたのです。そこには、ついさっきまでモジモジしていた幼稚な姿はどこにもありません。およそ15人の新入生がそれぞれ胸を張って暗記した詩を詠みあげるのを見て、ジョージア人のアイデンティティの強さをひしひしと感じたのでした。

 歴史的な周辺国との争い、ロシア語が圧制したソ連時代を経て、民衆が守り続けてきたジョージア語。ジョージアでは毎年4月14日が「ジョージア語の日」に制定されており、ジョージア語に関するさまざまな催しが行われています。また2016年、ジョージア語はユネスコの無形文化遺産に登録されました。ジョージアの精神に触れてみたいという方は、この国を代表する詩人、文学者のショタ・ルスタヴェリの『虎皮の騎士』をおすすめします。(つづく)

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 “ヨーロッパ最後の秘境”と呼ばれ、今注目の国ジョージア。現地の一般家庭で生活を共にしながら、首都トビリシはもちろん、ジョージア人にとっても“秘境中の秘境”であるスバネティ地方まで、ほぼすべての地方を旅した定住旅行家・ERIKOさんの紀行エッセイです。壮大な景色やユネスコ世界遺産の建造物、素朴で温かな人々との出会いなど、“旅暮らし”だからこそ見えてくるジョージアの知られざる魅力を、豊富なカラー写真とともに紹介します。

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【エリコ】
鳥取県米子市生まれ。世界のさまざまな地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、サハ共和国、イラン、スペイン、パラオ、カルムイク共和国など約50カ国にて106家族との暮らしを体験。とっとりふるさと大使。米子市観光大使。著書に『ジョージア旅暮らし20景』(東海教育研究所)、『暮らす旅びと』(かまくら春秋社)、『せかいのトイレ』(JMAM)、『世界の家 世界の暮らし①~③』(汐文社)など。NEPOEHT所属(モデル)※写真:KATUMI ITO
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