現地の家庭に長期滞在し、暮らしを体験する「定住旅行」へ出かけるとき、必ず立ち寄る場所がいくつかありますが、その一つがお墓です。現地の人と一緒にお墓を訪れると、彼らの宗教観、死者に対する眼差し、先祖への思いなど、その国の人びとの思想の根底に脈打つようなものに触れることができる気がするのです。
最近、日本の特に都市部では、お墓の多様化と簡素化が著しく進んでいると感じます。合同墓地や散骨、インターネット上のお墓など、死者を弔う方法や死者に対する価値観は個人や宗教などによりそれぞれですが、私にとって故人は、亡き後も対話を続ける相手であり、墓地は彼らと生ある自分が向き合う唯一の場でもあります。
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『ジョージア旅暮らし20景』の舞台でもあるジョージアに滞在した際も、墓地を訪ねる機会がありました。最初に訪れたのは首都トビリシ市内にある共同墓地でした。敷地内に入ってまず驚いたのは、一つのお墓の区画が6畳以上もある広いスペースで仕切られていることでした。それぞれの墓石には、埋葬されている故人の名前や没年月日などが記された墓誌とともに、その家族がイメージする故人の最も美しい顔であろうイラストが刻まれています。
キリスト教を国教とするジョージアでは、一般的に故人の命日や復活祭の翌日にお墓参りをする習慣があります。参拝は家族全員で行い、ろうそくやお菓子、食べ物などを持ち込み、お墓の前でピクニックのような宴会が開かれます。ワイン発祥地といわれるジョージアらしく、ワインを一口飲んで、残りを墓石にかけたりもするそうです。
残念ながら滞在中にお墓参りに立ち合うことは叶いませんでしたが、この話を聞いて、以前イランで定住旅行をしていた際に出かけたお墓参りを思い出しました。当地では毎週木曜はお墓参りの日で、家族そろって墓地に出かけます。墓石を水でなでるように丁寧に洗い、お菓子や食べ物を並べ、故人を偲びながら仲間と団欒をします。
これと似たような習慣を持つジョージア人にとっても、お墓という場所は、それぞれの心に住む死者と、彼らの精神が出会う集会所のような役割を果たしているのかもしれません。ジョージアの伝統的な宴会「スプラ」が行われるときに参加者がする演説でも、先祖への尊敬と感謝は欠かさず言及されます。日常を生きる者の生活の中に、故人の存在がありありと感じられる場面です。
ジョージア語には生や死にまつわる表現を湾曲して伝える傾向があり、妊娠することを“魂が2つになる”、死ぬことを“足が重くなる”、“別のものになる”と言います。このような言葉からも、ジョージア人が死や生に対して思考を巡らせ、切実に向き合ってきた民族だということがいえるのではないでしょうか。ジョージアという国の長い戦いの歴史という背景も、そこに見え隠れするような気がします。(つづく)
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