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かもめアカデミー
絵画でめぐる江戸のアニマルライフ 宮城学院女子大学特任教授
内山淳一
最終回 枠にとらわれないで見る
 バラエティー豊かな江戸の動物画とその背景について紹介してきた本連載。最終回はそんな動物画をさらに楽しむコツを内山先生に教えてもらいます。

――近年、各地でさまざまな動物画の展覧会が開催されています。内山先生は2006年に開催された「特別展 大江戸動物図“館”」(仙台市博物館)に携わっておられますが、その魅力とは何なのでしょう。

※内山先生

 なんといっても楽しいのが動物画です。まずワクワクするような動物園の要素があります。そして時代背景など歴史に関する学び、優れた美術品としての見どころもあります。子どもから大人まで話題が尽きることなく、世代を超えて楽しめる。これが人気の秘密だと思います。
 もう一つは、現実と空想のギャップの面白さ。今とは違って、昔は何か調べようと思っても簡単に情報が手に入るわけではありません。だからこそ湧き起こる「知りたい」という好奇心が、いろいろな情報を呼び込みイメージを膨らませ、さまざまな造形表現をつくり上げていく。つまり、江戸は人々のイマジネーションの豊かさが凝縮されている時代なのです。動物画はそれを実感できる格好の場だと考えています。

――そうした魅力あふれる動物画をもっと身近に楽しみたいです!
  

動物画の魅力を紹介した内山先生の著書

 誰でも楽しめる題材ではあるものの、一つだけ注意しておかなくてはいけないのは、「今の視点で見ては絶対にだめ」だということ。私たちはカメラや映像などに日常的にさらされ、情報があるのが当たり前、知っていて当たり前、という世界に暮らしています。ですから動物画についても「あぁこれは知っている」とか「これはあの動物だよね」といった感覚で見てしまいがちなのですが、そうなると全く面白くないんですね。単なる確認で終わってしまうのです。
 そうではなくて、大切なのは「これを最初に見た人はどういうふうに感じたか」という視点。自分をまっさらな状態にして見る。言ってみれば、情報が乏しかった時代に身を置く想像力が、こちら側に求められるということだと思います。

――なるほど。江戸の人たちの好奇心や想像力を感じるためには、こちらも想像力を働かせる必要があるのですね。

 楽しいとはいえ、そこまでたどり着くのはちょっと難しいかもしれません。そんなときは、前回(連載第4回)で話した架空の動物などを入り口にするのも一つの手ではないでしょうか。
 何もかも初めて体験するような子どもの目で見る。そうすることによって江戸時代以前の動物表現の面白さが理解できるのだと思います。ぜひチャレンジしてみてください。

――江戸の動物画の見方を深めることで、この時代に生きた人の気持ちや思いに近づけるかもしれませんね。

ラクダを見て驚く様子が描かれている
『駱駝之世界 2巻』
出典:国立国会図書館ウェブサイト

 江戸時代は、人々の好奇心やイマジネーションをもとに新しいものが次々と生まれた時代です。天体望遠鏡を国産化して天体観測をしていた人もいますし、凸レンズも世界最高水準に近いものを作っています。江戸時代がなければ、近代以降の日本の発展はあり得なかった。そうした中で動物画もまた、さまざまな文化現象へと広がっていきます。探ってみると非常に奥が深い。その最初の入り口として、絶好の素材がこの江戸の動物画なのだろうと思っています。動物画を起点に、江戸という時代の魅力を再発見してほしいですね。(おわり)

 連載「絵画でめぐる江戸のアニマルライフ」いかがだったでしょうか? 江戸時代の多彩な側面を見せてくれた絵の中の動物たち。そこには人々の豊かな感性と新たなものを生み出すパワーが詰まっていました。情報があふれる現代だからこそ、自分自身が見て感じたものの中に、これまでにない発見や感動がきっとあるはず。私たちの好奇心や想像力を呼び覚ましてくれるのは、イヌやネコ、珍獣、猛獣、それとも未確認生物!? かもしれません。

(構成:寺崎靖子)
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【うちやま・じゅんいち】
群馬県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。仙台市博物館学芸員から館長を経て、現在宮城学院女子大学特任教授。江戸時代を中心とした日本の近世絵画史、特に西洋からの影響を受けて展開した洋風画を専門とする。著書に『江戸の好奇心-美術と科学の出会い』(講談社)、『大江戸カルチャーブックス/動物奇想天外-江戸の動物百態-』(青幻舎)、『めでたしめずらし瑞獣珍獣』(パイインターナショナル)。
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