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かもめアカデミー
場所や土地を新たな視点から問い直す 宗教人類学者
植島啓司
第4回 龍神を祖先にもつ人々
 前回は、水の神・龍神の住む場所といわれる“龍穴”は、そのほとんどが“聖地”と呼ばれる場所になってるというお話でした。今回は、龍神信仰を日本に根づかせた「龍神を祖先に持つといわれる人々」について考察します。 ※本文の最後にプレゼントのお知らせがあります。

 さて、日本列島の神話というのはほとんど南方から海を渡って龍神信仰を運んできた人々によって作られたのですが、日本列島に点在する聖地というのもその影響を強く受けてきたと思われます。

 来週、対馬(長崎県)に行くのですが、対馬も龍神信仰の中心地の一つです。その前に福岡県宗像市の宗像大社にも出かけることになっています。「宗像」とは「胸に鱗がある」という意味ですね。たとえば、「宗像」もそうですが、「緒方」の家紋を見ると三角形ですよね。三角形が繋がっている形で一見したところ鱗のようになっている。 緒方とか宗像といわれている人たちは海の民というか、龍と密接につながっている家系ではないかと思います。本当に鱗があったかどうかはわかりませんが、海に入るとサメとかに襲われて危険なことがたくさんありますね、その魔除けのために三角形の鱗の刺青をしたんだと言われています。それが家紋になったんですね。

 日本の聖地を辿っていくと、そうやって日本列島を移動した民が日本の文化のイニシアティブをとってきたことがわかってくる。彼らを抜きにしては日本の文化は語れないと思います。イギリスの脚本家、エレイン・モーガンが論じたように、もともと人間は海からやってきたということは明らかで、だから水中出産とかが適しているとされたのです。手に水かきがあったり、潜水反射、つまり、水にもぐると心拍数が減り、酸素消費量も減るという現象が見られたり、体毛の喪失、皮下脂肪の保持、涙を流すという現象など、人間は海や水と親縁性が高い生き物であるということを示しています。

 前にお話した(第3回参照)室生寺(奈良県宇陀市)の奥の龍穴、長谷寺(奈良県桜井市)の奥の瀧蔵などを含む一角はゴールデントライアングルを形成しています。ぼくは日本列島をいやというほど回りましたけども、これほどすばらしいところはなかなかないと思われます。とりわけ先ほど映像で見ていただいた室生寺のシーンだけでも日本のお寺の中でトップだと思いますし、その奥の龍穴まで行くと本当に豊かな自然と、それからなんていいますか、水飛沫、水が一斉に舞うようなそんな一場面に出会うことができると思います。この後、ランドスケープデザイナーの花村周寛氏が映像で見せてくれると思いますが、彼のインスタレーション(注1)を見た時にもまったく同じような感覚を得ました。ただ居るだけでこんなに気持ちよい場所があるのかと。

 まあ、そんなことが色々あるんですが、日本の天皇が即位する「大嘗祭」というのがありますけれど、大嘗祭は「真床襲衾」(まどこおふすま)という儀礼が中心ですが、龍の神様が人間の女性と婚姻を結んで、新たに(象徴的に)天皇が生まれ出るというものです。

海の幸と倭人
 さて、最初に少し触れましたが(第2回参照)、倭人は海の民だったというところを少しまとめたいと思います。倭人というのは、もともとの日本人を指していたと考えがちですが、そう簡単ではなくて、倭人というのは揚子江沿岸から朝鮮半島、さらには東シナ海に至るまでを縦横無尽に動いた海の民を指していったわけです。『後漢書』にもでてきますが、もっとも漁撈技術に卓越した人たちとされる倭人は、この海を支配してあらゆる地域の活動をリードしたのではと言われています。それなのに、以前は、倭人というと「弥生時代の人々」と言われてきました。いまは縄文後期まで活躍した人々だということがわかってきている。つまり倭人はむしろ縄文人であり、縄文人は海の民であった、ということになります。

 考古学者・酒詰仲男の『日本縄文石器時代食料総説』(土曜会)には次のような記述があります。
「日本各地の縄文遺跡から出土した貝は353種類、魚は71種類、エビやカニなどの節足動物は8種類、ウニは3種類、カメなど爬虫類は8種類、鳥は35種類、哺乳類は70種類などとすこぶる多い。この傾向は8世紀を主とした出土木簡や、平安時代の『延喜式』の諸国の贄(にえ)や調(ちょう)の内容にもうかがえるばかりか、その後も日本人の食生活の基層的嗜好としてつづいていて、現代の日本人の食文化にも脈々とうけつがれている」

 つまり日本人は倭人と言われている人たちの後裔であるわけですが、もともと縄文人は海産物を食べていたということですね。教科書では縄文人は狩猟採集民族と言われて、ドングリを拾ったり、獣を槍でやっつけたりして暮らしていたみたいなことを学校でならいましたけれど、縄文人は主に海産物を食べて暮らしていたということです。

 この日本近海で活躍した縄文人と呼ばれる人たちの食生活がいまでも一番我々の基層的な食生活となっていることはとっても重要じゃないかと思いますね。もしぼくらが野獣とか動物を狩っていた狩猟採集民族だとすると、日本人のイメージは随分と違ったものになってしまうのではないかと思います。最近、和食が世界的なブームになっていますが、世界中の人がマグロなんか食べなければいいのにと思います (笑) 。

注1:インスタレーション
 特定の場所を装置やオブジェ、映像、音楽などの要素で変化させ、場所や空間全体を「作品」として鑑賞者に体験させる現代美術の手法の一つ。花村氏は高さ50mの吹き抜けの空間に霧とシャボン玉を舞わせ、幻想的な空間を創り出した。

※次回はいよいよ最終回。龍や蛇を神とする信仰が農耕民族に伝えられた道筋をたどります。

※この記事は、2014年6月7日に栃木県・那須の二期倶楽部「観季館」で開催された「山のシューレ」(主催:NPO法人アート・ビオトープ)の基調講演の内容を掲載したものです。「山のシューレ」は自然に耳を傾け、人々が創り上げてきたさまざまな物事について学び、領域を超えて語り合い思想を深め合う“山の学校”で、毎年夏に開催されています。
◇山のシューレ http://www.schuleimberg.com/
◇NPO法人アート・ビオトープ http://www.artbiotop.jp/

【プレゼントのお知らせ】
 「山のシューレ」主催者代表の北山ひとみさんの著書『人分けの小道』(ライフデザインブックス)が発売されました。株式会社二期リゾート代表取締役社長で二期倶楽部支配人でもある北山さんが、リゾートホテルの新しい意味とかたちを求めた30余年の日々をつづった一冊です。
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【うえしま・けいじ】
1947年東京都生まれ。宗教人類学者。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了後、シカゴ大学大学院に留学し、ミルチャ・エリアーデらのもとで研究する。関西大学教授、NYのニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチ客員教授、人間総合科学大学教授を歴任。1970年代から現在まで、世界各地で宗教人類学調査を続けている。『聖地の想像力』『「頭がよい」って何だろう』 『偶然のチカラ』『賭ける魂』『処女神―少女が神になるとき』ほか著書多数。
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