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子どものこれから
“遊び”が子どもを育てる 山梨大学大学院教育学研究科教授
中村和彦
第4回   途中でやめることを「挫折」と捉えない
 日本の体育会系の考え方に、「やり始めたら最後までやり抜け」というものがあります。一つのスポーツを一度始めたからには途中で止めるのは「挫折」である、という考えです。けれど私は、これは違うんじゃないかと思います。スポーツ先進国のヨーロッパなどでは、サッカーをやっていた子がバスケットボールチームに移るようなことを「スポーツ・トランスファー」と呼んでいます。これは決してドロップアウト、挫折ではありません。自分の適性に合わせて、もっとやってみたいスポーツにチェンジしてみただけです。

 けれど日本では、こうしたことをなかなか良しとしません。「根性がない」なんて言って、やめていく子を否定的な目で見てしまいがちです。それは、スポーツを競技的な側面でのみ捉えた見方のような気がしてなりません。ドイツやオーストラリア、アメリカなどでは小学校までの運動を「競技スポーツ」とは考えていません。競技に向かっていく子がいてもいいけれど、本質は「体を動かす楽しみを知る機会」だとしており、ブレがありません。そこが日本と大きく違います。

運動をしている子が音楽を始めてもいい
 スポーツは本来、文化の一つです。だから別のものに興味を持つことは少しも不思議なことではありません。さらに言えば絵を描くのが好きな子がバスケに興味を持ってもいいし、サッカーをやっている子が楽器の演奏に夢中な時期があったっていい。子どもが文化的に育まれていくというのは、そういうことだと私は思います。

イラスト:高尾 斉
 要は、いろいろなことをしながら「心身同時に発達する」のが子どもにとって最も重要なことで、そのための一つに「スポーツ」というファクターがある。だからたくさんのことを経験した上で、一番自分に合ったものを自分で選択していけばいいわけです。その経過の中で大人が、「きみはこの動きが得意だね。もっとこうするといいよ」「このスポーツが好きなら、こういう取り組みもあるよ」と、子どもの意思を尊重しながら、より弾みがつくようなアドバイスをする。それが適切な指導であって、決して「それじゃ勝てないぞ」とか「もっと気合いを入れろ」ではないわけです。そういう働きかけで、子どもの感性も運動能力もイキイキと育っていくのではないでしょうか。

「運動」への垣根をもっと低くしてみる
 最近日本でも、ちょっと面白いな、と思う動きが出てきています。中学校の部活で、文化部所属の子が運動部で活動する場面がある、という事例もあります。文化部の生徒から「私たちも運動したい」という自主的な声が上がったのがきっかけだったそうです。それを受けた運動部の子が「じゃあ、週に1回、一緒にサッカーやったら面白いよ」と言い、そういう場面が作られていったのです。これは実にいいな、と思える運動とのかかわり方だと思いますね。スポーツへの垣根が低くて「やりたいな」と思ったらフレキシブルにそういう場が作られる。これこそ教育現場だからできること、なすべきことではないでしょうか。同じように、運動部の子が週1回習字を書いたっていい。帰宅部だけど、週に1回くらい体を動かしたいという子を受け入れる運動部があったっていいのではないでしょうか。

 子どもの中には、「いろいろなことをやってみたい」という欲求が必ずあります。「文化部に入っちゃったから運動はやれない」では、狭い箱の中に押し込めてしまうようなもの。これまでは単純に「運動部」「文化部」「帰宅部」とカテゴリ分けをしていましたが、それをもっと流動的にしてみると、子どもがさらに伸びていく可能性が広がるのではないでしょうか。

(構成・株式会社トリア 小林麻子)

※次回はいよいよ最終回。「遊びの復活」がテーマです。
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【なかむら・かずひこ】
1960年山梨県生まれ。山梨大学教育学部卒業。筑波大学大学院体育研究科修了。一貫して子どもの体や心の問題について研究、特に子どもの遊びの重要性に関する調査・研究では第一人者。専門は発育発達学、運動発達学、健康教育学。著書に『子どものからだが危ない!』『運動神経がよくなる本』など。
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