好評発売中の『懐かしの空き缶大図鑑』で、著者の石川浩司さんは自身のコレクションについて「僕のものすごい数の連れ子」と称している。結婚するとき、石川さんは奥さんに「僕と一緒になるということは、このたくさんの缶が子どもとしてついて来ることだよ」と納得してもらったというエピソードだ。そう考えると、コレクターにとって大事なコレクションは家族そのもの。大事な子らの未来をどうする!?

写真左から、清水さん、石川さん、町田さん
石川 僕らにとっては貴重な価値のあるコレクションも、その価値がわからない人にはゴミ同然というのがつらいところです(笑)。でも、今は空き缶もネットオークションでやり取りされているものがあったりして、市場ができあがりつつあるみたいですね。
町田 すでに数千~数万円の値段が付いているものもありますからね。そこで我々の問題は、果たして死んだ後、このコレクションがどうなるかということになります。
――失礼ながら、空き缶に数千~数万円もの値段がつくとは! でも、興味のない人にとっては本当にゴミだから、捨ててしまったらそれで終わりになってしまうかも!?町田 うちは、次男が学芸員資格を取って継いでくれることになったんです。とりあえず2世代は大丈夫になりました。
石川・清水 それはいいですね!
石川 僕は将来的に博物館に展示したいという夢がある。その博物館には1人のコレクションだけを並べるのではなくショッピングモールのようなテナント式になっていて、何人かのミニコレクションがたくさん集まっている。そんな日常用品専門の博物館ができたらどうかなと思うんだ。
清水 今は海外からの観光客を呼び込もうという動きが盛んですが、外国の方はこういうコレクションが好きそうですよね。
石川 観光地にそういう施設があれば、見てくれる人も集まりそうですよね。難しいのは管理の問題。とある温泉地で僕のコレクションの展示をやろうという話になったのだけれど、雨ざらしになったり持ち出されてしまう不安があったりで、ボツになりました。関心と理解がある人が出てきてくれるといいんだけどね。あとは、やっぱり資金だなあ(笑)
清水 日本が誇るコレクションなんですけれどね。町田さんは日本の缶ドリンクの草創期からコレクションしているから、世界有数のコレクションになります。
町田 3人のコレクションを合わせて、「日本戦後空き缶史」として全商品のカタログを作るのはどうだそう。そういうのもやりたいね!
石川 賛成です! この3人は微妙に違っているから、そこがまたいい。もしガチに合っていたら競い合っちゃって、すごいバトルになったかも(笑)
――目の前に並ぶ空き缶が、なんだか縄文土器みたいに貴重な歴史的資料に思えてきて、だんだん触るのが恐れ多いような気持ちになってきた。普通ならゴミ箱行きの空き缶が、情熱的なコレクターの手で集められることによって、時代を知る手がかりになったり、人と人との夢を紡いだりして、また新たな役目を与えられてゆく。まさに捨てる神あれば拾う神あり!?(おわり) (構成:山下あつこ、撮影:永田まさお)
【いしかわ・こうじ × まちだ・しのぶ × しみず・りょうこ】
◆石川浩司◆1961年東京都にて逆子生まれ。神奈川県・群馬県育ち。現在は、3万缶におよぶ空き缶コレクション保管のために埼玉県在住。バンド「たま」にてランニング姿でパーカッション、ボーカル担当。90年に『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はオリコンシングルチャート初登場1位となり、日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞。同年、NHK紅白歌合戦に初出場を果たす。2003年の「たま」解散後はソロで「出前ライブ」などの弾き語りおよびバンド「ホルモン鉄道」「パスカルズ」などで活動中。旅行記やエッセイなどの著作も多数ある。
◆町田 忍◆1950年東京都生まれ。庶民文化研究家。警視庁勤務などを経て、少年時代から蒐集し続けている商品や各種パッケージなどの風俗意匠を研究するために「庶民文化研究所」を設立。著書に『最後の銭湯絵師』(草隆社)、『戦後新聞広告図鑑』(東海教育研究所)など。
◆清水りょうこ◆1964年東京都生まれ。80年代から「清涼飲料水評論家」として、飲料関係の記事やコラムを執筆。また、各種メディアにも登場。著書に『なつかしの地サイダー』(有峰書店新社)、『日本懐かしジュース大全』(辰巳出版)など。東京都青梅市にある「昭和レトロ商品博物館」缶長。