ミュージシャン・石川浩司さんの膨大な空き缶コレクション(缶コレ)を紹介する『懐かしの空き缶大図鑑』が、2019年3月に発売されました。34年間、約3万缶におよぶコレクションの中から厳選した特長ある空き缶650缶を、石川さんならではのユニークな視点で分類。軽妙なエッセイとともに楽しんでいただける一冊です。この本の刊行を記念して、石川さんと、コレクター界の巨匠で庶民文化研究家の町田忍さん、清涼飲料水のコレクションのみならず評論家としても幅広く活躍する清水りょうこさんという、缶コレ界きっての大家による夢の鼎談が実現! 4回にわたってその模様をご紹介します。
石川さんを中心に町田さん(右)と清水さん
――数では誰にも負けない石川浩司さん、日本初のオレンジジュース缶など貴重なコレクションを誇る町田忍さん。そして清涼飲料水の空き缶や瓶を1万本以上保有する清水りょうこさん。そもそも、どうして空き缶を集めることに?
庶民文化研究家の町田忍さん
町田 幼稚園のときに買ってもらった昭和29(1954)年に発売された日本初の缶ジュース「明治天然オレンジジュース」がきっかけです。僕のコレクションには板チョコの包み紙もあるのですが、当時、缶ジュースや板チョコはたいへんな高級品で贅沢品。だから、パッケージがもったいなくて捨てられず、全部取っておいたことから始まって今に至っています。それからはインスタントラーメンの袋やレトルトカレーの箱、納豆の包装紙などさまざまなものを集めています。

清水りょうこさんは清涼飲料水評論家
清水 私の場合は、1980年代にサントリーから発売された「桃紅茶」という商品が気になり、それから「これは」と思うドリンクの缶を少し取っておくようになりました。87年から「清涼飲料水評論家・清水りょうこ」を名乗るようになって、意識的に集め出しました。でもそれは、コレクターとしてというより、あくまでも資料として。集めることに喜びがあるというよりは、必要に迫られてですかね。
石川 僕はバンドの仕事で地方ツアーに出かけることが多いし、もともと旅好き。だから、何か一つこだわりやコレクションを持つことで旅をより楽しくしよう、と思って空き缶を集め始めたんだ。おかげで、どこへ行くのも楽しみ。さびれたスーパーしかなくても、そこには僕にとってのお宝があるかもしれないのだから。
――コレクション歴は、半世紀以上にわたる町田さんをはじめ石川さんも清水さんもすでに30年以上。その歴史を貫く「マイ・ルール」とは?
ミュージシャンで空き缶コレクターでもある石川浩司さん
石川 僕のルールは、自分が飲んだドリンクの缶であること。だから、僕の体は今まで飲んだ缶の内容物でできているといえるね。
町田 僕は、ほかの人がすでに集めているジャンルはやらないようにしている。だから石川さんが集めている空き缶のコレクション数は少なめで、ペプシやガラナ、ドクターペッパーといった炭酸飲料に絞っています。
清水 コレクション上のルールはないのですが、「見つけたら買う」は基本ですね。でも、それで大変なことになったことがありますよ。もう20年くらい前になりますが、名古屋の友人を訪ねたときのこと。見たことのない自動販売機に、知らない缶ドリンクがたくさんあった。目についたものすべてを買うと荷物が重くなるからあきらめようと思っていたら、友人たちが持ってくれるというんです。それに気をよくして、あれもこれもと買い集めるうちに、60~70缶に。
当然、現地で飲みきれないから持ち帰ろうと考えたんですが、最後に友人たちが名古屋駅の新幹線ホームまで見送ってくれて、「はい、これ!」と手渡され、結局、東京駅に着いてから家までタクシーで帰りました。
石川 わかるなあ! 僕も飲みきれないものを持ち歩いて、リュックのヒモが千切れたことが何度もあります。中身が入っているとあっという間に20キログラムをこえちゃう。
――3人合わせると、軽く100年、5万本に迫るコレクション。その中には、それぞれ時代の移り変わりとともに材質や形、デザインなどが変わってきたさまざまな空き缶たちがいる。次回は、その中から「お気に入りの逸品」を紹介してもらいます。お楽しみに!(つづく)(構成:山下あつこ、撮影:永田まさお)
【いしかわ・こうじ × まちだ・しのぶ × しみず・りょうこ】
◆石川浩司◆1961年東京都にて逆子生まれ。神奈川県・群馬県育ち。現在は、3万缶におよぶ空き缶コレクション保管のために埼玉県在住。バンド「たま」にてランニング姿でパーカッション、ボーカル担当。90年に『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はオリコンシングルチャート初登場1位となり、日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞。同年、NHK紅白歌合戦に初出場を果たす。2003年の「たま」解散後はソロで「出前ライブ」などの弾き語りおよびバンド「ホルモン鉄道」「パスカルズ」などで活動中。旅行記やエッセイなどの著作も多数ある。
◆町田 忍◆1950年東京都生まれ。庶民文化研究家。警視庁勤務などを経て、少年時代から蒐集し続けている商品や各種パッケージなどの風俗意匠を研究するために「庶民文化研究所」を設立。著書に『最後の銭湯絵師』(草隆社)、『戦後新聞広告図鑑』(東海教育研究所)など。
◆清水りょうこ◆1964年東京都生まれ。80年代から「清涼飲料水評論家」として、飲料関係の記事やコラムを執筆。また、各種メディアにも登場。著書に『なつかしの地サイダー』(有峰書店新社)、『日本懐かしジュース大全』(辰巳出版)など。東京都青梅市にある「昭和レトロ商品博物館」缶長。