連載「ママとパパには内緒だよ」の軽妙なエッセイで読者の皆さんを楽しませてくれたミュージシャンの石川浩司さん。実は、知る人ぞ知る空き缶コレクターです。これまでに地方や海外などの旅先で集めた缶はおよそ3万缶! しかもそこには、「すべて自分が飲んだ飲み物の缶だけ集める」というこだわりがあるのです。そんな石川さんの缶コレクションを紹介する新連載がスタート。あなたの思い出の中にある懐かしい缶に再会できるかも。
連載に登場する空き缶
僕は昔、「たま」というちょっとヘンテコなバンドを組んでいた。
メジャーデビューする前の1985年ごろのアマチュア時代に、バンドで西日本にツアーに行った。布製のリュックサックに太鼓を入れて担ぎ、そのころ発売されたばかりの「青春18きっぷ」を使って各駅停車に乗りながら、いろいろな町をえっちらおっちら演奏して回っていたのだ。
和歌山に行ったとき、ひょいと自動販売機を見ると見たことがない缶ジュースが売られていた。
カケフオレンジジュース。
当時、阪神タイガースの選手だった掛布雅之さんがキャラクターになってボールに見立てたオレンジをポーンと打っている図柄であった。
「こんなの、東京じゃ売ってない。関西ならではだなあ……」

石川さんの空き缶コレクション第1号(「ジョイン 掛布オレンジドリンク」和歌山経済農協)
気軽に買ったその1本の缶ジュースが、後の僕の一生にかかわるなんて思いもよらなかった。
僕はゴミに縁がある。
そもそも僕がパーカッションを始めたのも、当時住んでいた高円寺のアパートの近くのゴミ捨て場に落ちている太鼓を拾ったことから始まる。
そんなゴミから始まったバンドのツアーで、「飲み終わった空き缶はゴミ箱へ」の表示を無視して、本来はゴミであるべきその空き缶を持ち帰ったのである。
まさにゴミによって翻弄される人生の始まりであった。
そのころ、僕の部屋は雑多な表現活動をしている輩たちの溜まり場だった。帰京してアパートにたむろする連中にそのカケフオレンジジュースを見せたところ、「へぇ〜、こんなのこっちには売ってないね」「阪神ファンだったら絶対に欲しいよな」との高評価を得て、僕はなんとなく珍しい缶ジュースを集めてみたら面白いかも、と思った。
最初はデザインが変わっているものや、何となく珍しい味のドリンクだけを買っていた。
ところが、この「珍しい」という定義が実に曖昧なものだということがすぐ分かった。例えば、缶コレクションではド定番のコカコーラ。最初は珍しくもないので素通りしていたが、地方であまり流行っていなさそうな商店に入ったところ、数年前のものだったのか微妙にロゴデザインが違うのである。そう、大手のメーカーの同じ缶でも年によって少しずつデザインが変化しているのだ。
これは、そのときはよくある缶でも、十年も経てば「そういえば昔はこういうデザインだったなぁ」になってしまう、つまりは珍品になってしまうことを表していた。
結局、「缶ドリンク、見たことないやつは全部買う」というドエライことを僕は決めてしまったのだ。

コレクションのほんの100分の1に埋れて
僕の体型を見てもらえれば一目瞭然だが、食うのも好きだし飲むのも好き。甘いジュースも好きならエブリディお酒もドリンキング。ならば、コレクションという自分自身への大義名分でいろんな飲み物が飲める。
僕の仕事のメインはライブやレコーディングで、それはほとんど東京。それなのに、なぜか埼玉県に住んでいる。
答えは簡単だ。たくさんの缶たちを収納するためには、そこそこ広い一軒家が必要。然るに都内の一軒家は、ビンボーミュージシャンには家賃がきつい。そこで、缶のために結婚以来、ずっと家賃の安い埼玉県で一軒家を借り、その保管をしているのだ。
ちなみに妻よりも缶の方が先に僕の元に来ているので、結婚前に「僕と一緒になるということはこのたくさんの缶が子どもとして付いて来ることだよ」と、納得してもらって結婚している。つまり、僕のものすごい数の連れ子だ。
(つづく)
【石川浩司のひとりでアッハッハー】
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