ミュージシャン・石川浩司さんの膨大な空き缶コレクション(缶コレ)を紹介する『懐かしの空き缶大図鑑』の刊行を記念して、石川さんと町田忍さん、清水りょうこさんという缶コレ界の3巨頭が繰り広げる夢の缶コレ談義。第3回は、「人はなぜ集めるのか」というコレクターの心理に迫ります。
――空き缶コレクション歴34年、その数3万本に迫る石川浩司さん、日本初のオレンジジュース缶をはじめ、板チョコやインスタントラーメンの袋、納豆のパッケージなどさまざまなコレクションを誇る町田忍さん、そして空き缶のみならず瓶も含めた清涼飲料水1万本を持つ清水りょうこさん。まず披露してくれたのは、抱腹絶倒のコレクション秘話だ。

コレクションにまつわるさまざまなエピソードを披露してくれた町田さん(写真右)
町田 1970年代、学生時代に道路工事のアルバイトをしていたときのこと。一緒に働いていたオジサンたちと休憩時間にコーラを飲んでいたら、そのうちの一人の瓶が透明で文字が浮き出ているとても珍しいタイプだったので、もらったんです。
アルバイトが終わって友人と新宿で飲む約束をしていたので歌舞伎町を歩いていたら、お巡りさんに職務質問された。カバンの中には、工事用のヘルメットとコーラの空き瓶、それに当時、趣味で読んでいた時刻表。あまりに怪しい(笑)。そのときは事なきを得ましたが、72年に初めて海外に行ったときにも珍しい空き瓶や空き缶をリュックに詰めて帰ってきて、空港で税関の担当者に驚かれました。マッチも集めていたから一緒に入っていて、これもかなり怪しかったなあ。

壁一面に飾られた石川さんの空き缶コレクションのほんの一部
石川 僕も海外では空港のX線検査でよく引っかかります。たいがいは、「マイコレクション、マイコレクション」と言うと、「ああ、そうかー」とニヤっと笑って通してくれるけど、ロシアで同じことを言ったら「わが国ではこれをゴミという!!」と言われて不審がられましたよ。
清水 シンガポールでしたか、自動販売機に紙パックの飲料がシリーズで5種類あったんです。これはひととおりそろえなきゃと、一つずつボタンを押して買ったんですが、1種類だけ何度押しても違う飲料が出てきてしまう。小銭がある限りやったんですが、どうしてもダメでした。
――笑わずにはいられないエピソードも、真剣なコレクター3人にとっては死活問題。そのときの焦った表情が思い浮かび、また笑いがこみ上げてくる。それにしても、なぜ人はそうまでして“物を集める”のだろうか?
町田さんは空き缶以外にも、さまざまなものをコレクションしている
町田 10年ほど前に、世界中からバナナのシールのコレクターが集まるアジア太平洋地区会議に招待されました。僕は「ドール フィリピン」と日本語で書いてある幻のシールを持っていたんですよ。それも10枚。これは、集め始めた時期が早かったからコレクションできたものです。
清水 早めに始めた人が“いいもの”を数多く集められるというのは、コレクションの真理ですね。多くの人が缶ドリンクのコレクションに関心を持つようになったのは、80年代からでしょうか。やはり、人々の生活にゆとりが出てきたということの表れでもあると思います。
石川 商品も増えてきましたからね。でも、早く集めた人は早くいなくなる(笑)。同様に、僕らも未来のものは集められないわけで。
町田 ひどいこと言うなあ(笑)。でも、それも真理。だんだん価格が抑えられてきたことも、とっつきやすくなっている要素だと思います。僕が集めているインスタントコーヒーは、出始めのころは1瓶2000円くらいしましたからね。それにしても、基本的に女性のコレクターは少ないですね。それはなぜかというと、僕はDNAの問題だと思うんですよ。女性を喜ばせるために狩りで獲物を捕ってくる男の狩猟本能というか、「集める」習性が、脈々と男性の中に流れているんですよ。
石川 「これだけの数を集めてやった!」というのが、力の誇示になるんでしょうね。
――町田さんと石川さんの話を聞いて、笑いが止まらない清水さん。男性2人は狩猟と言っているけれど、清水さんの場合は「資料」なのだそうで。
コレクションに対する男女の考え方の違いを指摘する清水さん(写真左)
清水 私は、集めること自体にそれほど魅力は感じていません。コレクターに女性が少ない理由は何かと考えると……まあ、そんなにヒマじゃないというか、そんなことにかまけていられないってことかな(笑)。女性のほうが現実的だから、空き缶やパケージを集めるなんて場所も取るしお金もかかるし、と合理的に考えるのかも。人形を集めている女性はいますけれど、それは「かわいいから」だったりして、男性と女性では集める基準や動機が違うような気がします。
石川 今、お金がかかるという話が出たけれど、僕のコレクションが 3万本で、1本100円としても総額300万円しかかかっていない。それで国内トップクラスのコレクターになれるなら、割がいいんじゃないかな。それと、ほかの誰かが集めているような一般的に価値の付いている切手や古銭ではなく、缶みたいに身近にありすぎて価値を感じられず、いつの間にかなくなっちゃうようなものだからこそ集めたいという気持ちが僕にはある。
清水 それ、集めるための方便でしょ(一同、笑)

石川さんの約3万缶にもおよぶ空き缶コレクションも、いつかは世の中の役に立つかも!?
町田 僕たちはいわば、「平成のモース」なんですよ。大森貝塚を発見したアメリカの動物学者、エドワード・S・モースは、金平糖や神棚、熊手など日本人が誰もとっておかないようなものを何でも集めて、アメリカに送っていた。彼がコレクションしておいたからこそ、日本の古い風俗資料が今に残っているんです。
石川 そういう使命はあるかもしれません。ここまでやると、もうやめ時がわからなくなる。
町田 集め始めてどんどん集まると、これはいけるな、とコレクションになる。需要と供給があってのものではないんだよね、需要はないから(笑)
――身近な空き缶一つから、これほどまでに大きな使命を抱く男性2人。話題は人類のDNAから大森貝塚にまで及び、時代も空間も飛び越えてトークは続きます。清水さんが言うように女性は現実的で、やはり男性のほうがロマンチストなのかもしれません。最終回は、それぞれのコレクションの今後について。これからどうする? そのコレクション!(つづく)(構成:山下あつこ、撮影:永田まさお)