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食べるしあわせ
昆虫食が世界を救う!? 昆虫食研究家
シャーロット・ペイン
第3回 昆虫食は未来のごちそう!?
 国連の推計によれば、近い将来アフリカやアジアの人口増地域を中心に食糧危機が懸念され、そのときには有効なたんぱく源として昆虫が注目されているそうだ。国連食糧農業機関(FAO)は2013年5月に「食用昆虫 食品と飼料の安全保障」という報告書をまとめ、昆虫食の利点を挙げている。イギリスから昆虫食の研究のために岐阜県恵那市の串原地区にやってきたシャーロット・ペインさんは、「昆虫食は将来、人間にとって重要なものになるかもしれない」という。

 コンゴやジンバブエなどのアフリカ各地や、ここ串原で昆虫食の実態を調べてきましたが、次は昆虫の栄養価値を調べたいと思い、研究プロジェクトの申請をしています。世界中に約2500種類の食用昆虫がいることがわかってきましたが、多くの量を採集できる昆虫は少ないんです。でもアフリカでは養殖の芋虫やコオロギがいるので、それが人間の体によいのか、どのようによいのかなどを調べたいと思っています。

 よく「昆虫は栄養が高い」といわれるけれど、まだよくわかっていないこともたくさんあるんです。たとえば、幼虫は脂肪が多いとか、イナゴは脂肪が少なくて高たんぱくだとか、種類によって栄養価も違うのです。昆虫を食糧として考えるときには、多くの量を採集できる種類が望ましいでしょう。私は最も多く採集できる昆虫の栄養価などをきちんと分析したいと思っているので、そのための数学的な研究方法などもこれから学んでいきたいと思います。

南アフリカ・リンポポ州の市場。食材として乾燥芋虫を売っている
 例えば最近の論文で、イギリス人が今食べている家畜の肉の量を減らすと健康にどういう影響があるかを検証したものがあります。その論文によれば、イギリス人が食べる家畜の量を少しだけ減らすと心臓の病気が減るそうです。これは、フィールドワークのデータなどからあるモデルを考える「モデリング」という研究方法によるもの。私も同じようなやり方で、ある国で食べている家畜を減らして、その代わりにコオロギなどの昆虫を食べると健康にどのような影響があるのかなどを調べたいと思っています。こんなふうに、昆虫食は可能性がありすぎなんですよ(笑)。
 
 今まで食用昆虫がそれほど研究されてこなかったのはなぜかというと、人類学者たちが男性中心の食生活を研究してきたからかもしれません。狩りをしている地域で研究すれば、たんぱく源は肉。でも、女性や子どもはイモ類や木の実なども採集するし、昆虫も採集してきました。たんぱく源としての昆虫が人間の進化や伝統的な生活にどのように影響しているのか、とても興味があります。

中部アフリカではバパカラという毛虫をヤシ油とピリピリという唐辛子で炒めて食べる
 食べられる虫と食べられない虫の見分け方ですって? ……たぶん、それぞれの民族が実際に試して経験してきた結果、わかったことだと思います。たとえばこのあたりではヘボを食べているけれど、岩手県では同じ種類の昆虫がいるのに食べていない。価値観によって違うのでしょう。チンパンジーも同じなんですよ。同じ種類のシロアリでも、群れによって食べてたり食べなかったり。面白いでしょう?

 私にとって昆虫は、今でもとても興味をそそられるもの。学べば学ぶほど面白くなりますよ。たとえば虫の社会制度。ハチやシロアリにはカースト制度があり、働き蜂と女王蜂、シロアリにも軍隊の大きいのと小さいのと全部役割があります。コミュニケーションのやり方も興味深いですよ。ハチのダンスは有名だけれど、それだけじゃない。たとえばミツバチの巣の中は真っ暗で何も見えないけれど、オオスズメハチはミツバチを食べるために巣に入る。捕まってしまったミツバチは死んでしまうけれど、そのときにある特定の香りを出すんです。香りによって「敵だから危ないよ」と伝える。それで皆で集まって熱を出してオオスズメバチを殺す。こんなふうに動いて(と、体を小刻みに揺らしてみせる)。そういうコミュニケーションで敵に対して皆が協力することなど、知れば知るほど面白い。

アフリカで見たバレンタインデーの食卓。ピンク色のパンと芋虫の取り合わせ
 働きバチが幼虫にエサをあげて、幼虫はお返しのように働きバチに栄養価の高い唾液を与えます。また、人間が農業をやるように、シロアリも食用のキノコを育てるんですよ。ね、面白いでしょう! 大人になると昆虫を気持ち悪いとか嫌がる人も多いようですが、私にはどうして虫が嫌いになるのかわからないんです(笑)。子どもは学校に行って昆虫のことをいろいろと学ぶし、実際に外で遊びながら昆虫とふれあうから面白いと思うのかもしれない。でも、大人になると忙しくて学ぶ気にはならないのかな……。私はずっと学び続けたいですね、何でも!

巨大なアリ塚(写っているのは同行研究者)
──あどけない表情で、人間と昆虫食の関係についてよどみなく自身の考えを披露するシャーロットさんは、まさに『堤中納言物語』の一編に登場する「虫愛ずる姫」。利発な姫君はまるで男の子のようで、アニメ『風の谷のナウシカ』の主人公のモデルにもなったという。木に登ったり川に入って虫を捕まえたり、「まるで男の子みたい」とからかわれたというシャーロットさん。あたかも風を捉えるかのようにしなやかに世界を飛び回る彼女の瞳に、現代の食生活や日本の風景、子どもたちはどう映っているのだろう。最終回となる次回は、そんなお話を。

(構成・白田敦子)
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【Charlotte L. Payne シャーロット・ペイン】
1987年イギリス生まれ。ケンブリッジ大学キングスカレッジ卒業、オックスフォード大学大学院博士課程に進学。文部科学スコラー(研究留学生)として、立教大学の野中健一教授とともに岐阜県恵那市串原を拠点に日本の昆虫食の研究をしている。
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