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食べるしあわせ
昆虫食が世界を救う!? 昆虫食研究家
シャーロット・ペイン
第1回 虫を召しませ!
 イナゴ、ハチノコ、ザザムシ……いずれも昔から日本の食卓にのぼったことがある昆虫ですが、あなたは食べたことがありますか? 岐阜県恵那市の串原地区には、「ヘボ」と呼ばれるクロスズメバチの食文化が受け継がれています。のどかな山里に、はるばるイギリスからシャーロット・ペインさんが住み込むようになったのは昨年5月のこと。以来、虫を食べる「昆虫食」を研究する文部科学省の奨学生として立教大学大学院に在籍しながら「ヘボの里」に溶け込み、昆虫食の可能性について研究を続けています。
 これから4回にわたり、シャーロットさんから伺った昆虫食の可能性や彼女自身の虫との出会いなどの話をご紹介。さて、あなたの「食べる楽しみ」を広げるきっかけになるでしょうか?



 ケンブリッジ大学では、類人猿のボノボやチンパンジーを研究する生物人類学を学びました。人間の進化に関心があったからです。オックスフォード大学の博士課程に進んでさらに進化生物学の研究を進めるうちに、昆虫食に興味を持つようになりました。チンパンジーは、昆虫をよく食べるんです。フィールドワークで入ったウガンダの熱帯ジャングルには、シロアリの塚やアリの群れ、蜂の巣などが、あちらこちらにあります。特に蜂の巣を見つけたら、チンパンジーたちはもう興奮状態。コンゴの森でも、雨上がりに湧くように出てきた毛虫を無心に食べているボノボを見ました。おそらく彼らにとって「おいしいもの」イコール「栄養価の高いもの」なのでしょう。

 チンパンジーが食べるなら、人間も昆虫を食べてきたはず。それが人間の進化に何らかの影響を及ぼしたのではないか、と考えました。チンパンジーのメスは、たまにシロアリの塚を食べるんですよ。調べてみると、粘土質の塚にはメスにとって大切な栄養が入っている。これは聞いた話ですが、アフリカのある民族では妊娠している女性が粘土を食べるといいます。その粘土を調べると、特に妊娠中の体に必要な鉄分が入っていたりする。ジンバブエの農家では、やはりシロアリの塚は特に栄養価が高いからと、農作物の肥料に使っています。

 私の故郷であるイギリスをはじめヨーロッパの文化では、昆虫食があまりなかったようですが、ウガンダやジンバブエなどのアフリカ、メキシコをはじめとする南米、それに日本やタイなどアジアの多くの地域に残っています。もともと人間の祖先はアフリカで生まれて進化してきたと考えれば、海辺に住んでいた人たちは少し違うかもしれないけれど、私たちの祖先は皆、昆虫を食べてきたのだと思います。よく「山の中で食べられるものが限られていたから仕方なく昆虫を食べた」と言う人もいますが、逆に「海に近いところでは昆虫が少ないから仕方なく魚を食べていた」と考えることもできるのではないでしょうか(笑)。

──面白い仮説だ。電子辞書を片手にしながらも、シャーロットさんは日本語が上手。串原に来たのは、昆虫食を研究している立教大学の野中健一教授との出会いがきっかけだ。野中教授の論文で日本人が昆虫を食べると知って驚き、ぜひ一緒に研究をしたいと問い合わせた。串原で長年にわたりフィールドワークを続けている野中教授から住み込みでの研究を提案され、農家の一軒家を借りて暮らすことに。串原に来て約1年、地元の人たちがヘボをどうやって育てて収穫し、食べているのか、折々の村の行事に参加しながら検証してきた。

串原産「ヘボの佃煮」
 串原をはじめ、中部地方でヘボを育てている方たち73人に聞いたら、収穫量の5割は自分たち家族で食べて、あとは他の人に配ったり。串原の人にとってヘボは利益の対象ではなく食習慣のようです。会員60人くらいの「くしはらヘボ愛好会」もあって、ハチの数が減らないようハチの巣を探して木の巣箱で越冬させたり、育てた巣の大きさ比べのコンテストなどをやっています。

串原名物「ヘボ味噌の五平餅」
 ヘボの食べ方で一番多いのが、佃煮。味付けは醤油とみりんとショウガが多いですね。名物は「ヘボ釜めし」(ヘボを炊き込んだもの)ですが、ヘボをつぶして混ぜ込んだ味噌を塗った「五平餅」もあります。ヘボ味噌を分析してみると、普通の味噌より栄養がたくさんあります。栄養価が高くて特に子どもにとって必要なビタミンなどが多い。見た目も普通の味噌と変わらないし、とても健康にいいと思います。「カモメブックス online」の読者は女性が多いでしょう? ヘボ味噌やイナゴ味噌は特にお子さんにいいと思いますからおススメですよ(笑)。

 日本では昆虫を佃煮にすることが多いですが、アフリカでは塩味が一般的で時々それに唐辛子やトマト、タマネギを加えることもあります。タイの昆虫食はまだ経験したことがないけれど、聞いたところによると屋台などで串に刺したものを売っているらしいです。味は、はやり唐辛子が多いみたいです。こんなふうにどの地域でも基本的な味付けがあるようです。でも、たまに違う味付けで食べている人もいます。串原ではヘボを生でも食べますが、先日、近所の人が働きバチをたくさん集めて空揚げにしてくれました。シンプルに塩を振っただけでしたが、それがびっくりするくらいおいしかった。ピザの上にのせてみましたが、それもおいしかったですよ。

シャーロットさんの手には乾燥芋虫が……
 そうそう、少し前にフィールドワークで南アフリカのリンポポ地域に行ったときに持ってきたものを見せましょう。これは乾燥させた食用の芋虫。日本に持ち込む際、税関に呼び出されて質問されたので、「乾燥させた虫です」と言ったら「そうですか……」と(笑)。現地の人は水で戻してから料理して食べます。この芋虫は養殖しているので、たくさん採れます。カツオブシのようなにおいがするからダシになるかも。現地での基本的な料理法は、タマネギやトマトを入れて煮込むか、ニンニクやトウガラシを入れて油で炒めるかの2種類です。

――ヘボはともかく、この芋虫を食べるのはちょっと勇気がいりそうだ。でも、近い将来、人口増加による食糧危機が到来すると懸念されており、そうなると昆虫が有効なたんぱく源になるとの指摘もある。次回は、そんなお話を折り込みながらシャーロットさんご自身のこともうかがいます。
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【Charlotte L. Payne シャーロット・ペイン】
1987年イギリス生まれ。ケンブリッジ大学キングスカレッジ卒業、オックスフォード大学大学院博士課程に進学。文部科学スコラー(研究留学生)として、立教大学の野中健一教授とともに岐阜県恵那市串原を拠点に日本の昆虫食の研究をしている。
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