× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
食べるしあわせ
昆虫食が世界を救う!? 昆虫食研究家
シャーロット・ペイン
最終回 異国の昆虫食研究者が見た日本
 面積の8割が森林という岐阜県恵那市の串原地区。四季折々の自然と日本の山里の原風景が残る「ヘボ(クロスズメバチ)の里」で、イギリス人のシャーロット・ペインさんは昆虫食の研究にいそしんでいる。串原には、駅も国道も信号機もコンビニも、ファストフードの店もない。最終回の今回は、地域の人々とふれあい、地域の文化としての昆虫食を研究してきた彼女の目に映る現代の食生活や日本の子どもたちについて聞いた。

ヘボの佃煮をパッキング
 季節によって旬のものが食べられる日本は、素晴らしいと思います。たとえば春の山菜とか秋のキノコ。自分が自然環境とつながっていることを感じます。自然と一緒に生きているから、自然環境を守りたいと思う。串原地区でも、加工食品をあまり食べない家の子どもはヘボやイナゴが大好きなんですよ。私の知っている若者と子どもが、日本のほかの場所の若者と子どもと同じだったら素晴らしいですね。だけど、若い人の多くは少し違うみたい。ファストフードとか1年中同じものを食べています。そうすると自然を守る必要を感じなくなってしまうのでは? 人間として人間らしく生きていくためには、いつも自然とつながる感じを持つことが大切だと思います。

 2年半を日本で過ごした経験から、日本は自然が豊かだというイメージを持っています。すてきな場所がたくさんある。日本には里山もあればすごく高い山もある。北海道に行くとイギリスのような風景もあるし、沖縄に行くと熱帯の植物もあるし、そのそれぞれに季節による違いもあります。串原でも、冬はものすごく雪が降るし、夏はひどい蒸し暑さになります。動物もそれに対応して、たとえばニホンカモシカは夏場に毛が薄く、冬になると保温性のよい毛が生える。先日、イギリスから友だちが来て一緒に近くの温泉に行きましたが、雪景色の中で日本ザルが温泉に入っていましたよ(笑)。

ヘボの佃煮

 イギリスから友だちが来るときは、いつも私の住んでいるところはこういうところですよ、こういう田舎に行ってほしいですよ、と話しています。海岸や温泉や森、それも人間が作った森でなくて屋久島のような原始の森など。日本を訪れる外国人には、そういうところに行ってほしいと思いますね。

ヘボの炊き込みご飯(写真・編集部)
 もちろん、人の手が入った里山も好きです。里山を見ると森の中に入りたいと思うし、川に入ってみたくなる。森の中に住んでいる動物のことも知りたいし、森の中の生活も知りたい。このあたりの里山では、木材にするために木を切った後にまた同じ種類の木を植えていましたが、近ごろは里山全体の生態系を考えて太陽の光が入るように工夫しています。この風景を本当に守ろうとする人がいるとわかっているから、それも含めて里山を見ると幸せな気持ちになるのです。

 うれしいことに、来年の3月まで串原を拠点に調査を続けることになりました。今後は、イナゴを食べる地方で、食文化や農薬を使わなければどれくらいのイナゴが採れるかなども調べたいと思っています。またジンバブエに行って、さらに昆虫食の研究もやりたいし……。だって、世界中の昆虫食の可能性は、世界中の人々の考え方を知らないとわからないでしょう? それをもっと知りたいですね。

昆虫食の学会で試食会
 4月にカナダで開催された昆虫食に関する学会に参加し、ヘボの佃煮を持っていって研究者に食べてもらいました。ほとんどの人が「美味しい」と言ってくれましたが、「味付けが濃い」「塩っぱい」などの感想も多かったのです。実は私もそう感じたことがあります。新鮮なヘボは、あっさり塩味だけでもすごくおいしいんです(笑)。これから、もっと調査や研究を深めて、国や地域による考え方の違いや味覚の好みなども知りたい。だって、昆虫は本当においしいんですから!

(写真・編集部)
──「春先に、長野県の伊那市に行って山菜を買ってきたのだけれど、名前がわからない」といって写真を見せてくれたシャーロットさん。取材陣も知恵をしぼって一緒に調べた結果、「かたくり」と判明した。早速ノートに書き込むシャーロットさんのうれしそうな顔。これからも、世界のさまざまな場所で新しい発見をするたびに、こんな表情を見せてくれるに違いない。昆虫食を推奨している国連食糧農業機関(FAO)の報告書は、虫を食べる文化がない西洋各国などでの「抵抗感」を打ち消す広報や教育の必要性を課題として挙げている。シャーロットさんの活動は、世界の昆虫食の未来に「食べる楽しみ」を広げてくれるかもしれない。

(構成:白田敦子/写真提供:シャーロット・ペイン)


ページの先頭へもどる
【Charlotte L. Payne シャーロット・ペイン】
1987年イギリス生まれ。ケンブリッジ大学キングスカレッジ卒業、オックスフォード大学大学院博士課程に進学。文部科学スコラー(研究留学生)として、立教大学の野中健一教授とともに岐阜県恵那市串原を拠点に日本の昆虫食の研究をしている。
新刊案内