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食べるしあわせ
種を継ぎ、いのちをつなぐ 種継ぎ農家×二期倶楽部シェフ
田村和大×富岡良一
最終回 種採りワークショップとランチ会
 3回にわたってお届けしてきた種継ぎ農家・田村和大さんと二期倶楽部・富岡良一シェフの対談。最終回は、田村さんが講師を務めた「種採りワークショップ」と富岡シェフが腕をふるったランチ会の様子をリポートします。

これが「カブ!?」
 「今日は小岩井カブの種採りを体験していただきます」と言って田村さんが手にしたのは、背丈が150?ほどある枯れた枝。種を採るために花を咲かせて実らせた後に、乾燥させた小岩井カブだ。「日ごろ目にしている、緑の葉の付いた白くて丸いカブからは想像もつかない」と、ワークショップの参加者から驚きの声が上がる。

 小岩井カブは明治時代にアメリカから日本に入り、飼料用に改良されたアブラナ科の作物。飼料用とはいえ白い玉は大きく柔らかく、さっぱりとした甘さがあるという。

菜の花に似た小岩井カブの花
(撮影:奥山淳志)
 「玉も葉もこんなにおいしいカブを食べないなんてもったいない! そう思って食用に栽培を始めました」と田村さん。
 種採り用のカブの種は9月にまく。房が実った木を翌年の3月下旬に抜き、風通しのよい場所で1週間ほど乾燥させる。房がパリッとして黄色くなってきたら“種採りOK”のサインだ。


手作業で種を採る

ホロホロと種が落ちる音。「この音を聞くと子どもが喜びます」
 ブルーシートを敷いた作業台に小岩井カブの枯れ枝を載せて、いよいよ種採りを開始。枝を振って房を軽くもむと、パラパラと小さな種がこぼれ落ちる。1つの房に入っている種は20粒ほど。1本に500房くらい実るので、1本から採れる種は約1万粒だ。
 「種の一粒ひとつぶに、畑の情報やその年の天候が記憶されていきます。だから、夏の暑さにもだんだん強くなりますし、十分に水分を吸収できるよう、しっかりと根を張るようにもなってきています」

風の力で種をより分ける

 種がすべて落ちきったところで篩(ふるい)にかけて、大きなゴミを取り除く。続いて「箕(み)」と呼ばれる平たいカゴに種を入れてあおり、小さなゴミを飛ばして種だけを残す。

 「岩手県にある私の畑は奥羽山脈のふもとで、一年中『南部おろし』と呼ばれる西風が吹きます。箕を使う場合には、その風でゴミを飛ばすんですよ。唐箕(とうみ)という昔ながらの道具も使います」
 この日は「南部おろし」の代わりに、参加者がうちわで風を送って種のより分け作業をサポート。「いい風をありがとうございます!」

 きれいにゴミを払った種を皆で分け合う。そこで参加者から質問が。「畑がないのですが、どうやって栽培すればいいのですか?」
 「プランターでも育てられます。種まきは春から夏。15?くらい離して1穴に2、3粒ずつまくか、筋まきしてください。朝と晩、土の表面が乾いてきたら水をあげましょう。葉が触れ合ってきたら間引きして。種採りをする場合には虫による受粉が必要ですから、外で育ててください」

             *     *     *

 種採りワークショップに熱中している間に富岡シェフとキッチンスタッフがランチの準備。この日のためだけのスペシャルメニューが整った。

 今日の料理のコンセプトは“nature”(フランス語で自然)。田村さんの畑で自然栽培した野菜や二期倶楽部の菜園の無農薬野菜など、旬の食材を使った料理がテーブルに並ぶ。
 「野菜そのものの味を楽しんで。天然の酵母菌の働きでうまみや柔らかさの増した、特製の熟成肉もぜひ味わってください」

「食といのちのワークショップ」ランチメニュー
  ◇こだわり自然農法野菜と二期菜園無農薬野菜のサラダバー
   (エシャロットドレッシング、バーニャカウダソース、藻塩で)
  ◇田村さんの自然栽培米粉ともち粉のダイコン餅
  ◇自然有機野菜のまるごとダッチオーブン
  ◇オマールエビとホタテ貝のポアレ
  ◇2カ月熟成那須和牛ランプ肉のじっくりロースト(マデラ酒ソース)
  ◇田村さんご自慢・五百万石玄米の炊き込みごはん
  ◇オーガニックパン各種(パンプキンシード、イチジク、オーガニックシードミックス)
  ◇二期特製デザート(特製ゆべし、奄美の巣焚糖のロールケーキ、有機レモンとライムのゼリー)
  ◇二期菜園のハーブウオーター(ミント、レモングラス、レモンバーベナ、ゼラニウム)
  ◇南フランスとオーストリアのオーガニックワイン各種



 「野菜は蒸すのがいちばん。栄養も逃げないし、素材の味がよくわかります」と富岡シェフ。
 ダッチオーブンに野菜を入れて軽く塩をふり、石釜へ。ころあいを見てふたを開けると、湯気とともに豊かな香りが立ちのぼる。甘味、酸味、まろみ、ほろ苦さ……なるほど、野菜の味の個性が際立っている。

 ワークショップの片づけを終えた田村さんも合流し、盛大に料理をほおばってひとこと、「うまい!」
 「富岡シェフは、ひと口かじって野菜の持ち味を見抜き、瞬間のインスピレーションで調理する。自分が育てた野菜をおいしく料理してくださって、本当にありがたいと思っています」

 料理と笑顔とおしゃべりと――。ウグイスがさえずる森の小さなキッチンに、豊かでおいしい時間が流れた。

             *     *     *
      
 「お帰りの電車の中で召し上がってください」。ランチ会を中座しなければならないゲストに、そっと手渡されたのは炊き込みごはんのおにぎり。
 「お疲れさまでした」。料理を出し終えてひと息ついた富岡シェフにスタッフが差し出したのは、ワークショップで採った小岩井カブの種。
 食は、種は、いのちは、こんなふうに心で継がれていくのだろう。田村さんと富岡シェフの「本当に体によいものを」という思いもまた……。



(構成・川島省子)

※この記事は、2015年6月8日に栃木県那須高原山麓・横沢地区で開催された「山のシューレ」(主催:NPO法人アート・ビオトープ)の、「食といのちのワークショップ」の内容を再構成したものです。
◇山のシューレ http://www.schuleimberg.com/
◇NPO法人アート・ビオトープ http://www.artbiotop.jp/ 
◇田村和大さんが代表を務める「Cosmic Seed」(種を自家採取する任意団体)
 http://cosmicseed.org/index.html        
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【たむら・かずひろ×とみおか・りょういち】
【田村和大】1980年岩手県生まれ。 東京都内の企業に就職するも、過労のため退社。療養中に食の大切さに目覚め、2011年に帰郷して農業を始める。固定種の種を自家採取して自然栽培で野菜を育てる傍ら、「Cosmic Seed」を立ち上げてその普及活動に取り組んでいる。
【富岡良一】1966年福島県生まれ。高校卒業後、東京の老舗会館「上野精養軒」で修業。六本木のフレンチレストラン「ヴァンサン」などを経て2005年7月に栃木県那須町のリゾートホテル二期倶楽部のシェフに就任。素材を吟味し、より自然で健康な「食」を追求し続けている。
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